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鈴を持つ者たちの音色  第三十九話 ”腕の持ち主”

キックス①②はシャワーを浴びてすぐに本部へ召集された。
ふたりは本部の屋内へ入るのははじめてだった。

キックスコーポレーションは隣接する国の機関だが本部へは入った事はない。緊張する。

隊長(副総裁):「お腹が空いているでしょう。ここに準備してありますから食べながら聞いて下さい。」

キックス①②は直ぐに食事にかぶりつく。

隊長(副総裁):「メカニックの能力は時代と共に経過すればするほど高く”machine(マシーン)”も同じく造作性能が高い、と思われがちだ。
しかし、現在の”もの”より、過去の”もの”の方が能力も造作性能も高い。となったら話は別だ。
つまりだ。現に過去の”もの”がありえない能力を振りかざして我らの脅威となっている。としたらどうだろう。君らに聞く。それでも”勝てる”か?」

キックス①②は口一杯に入れたものを噛み砕く仕草を止めた。食欲よりその話題がはじめて気になった。ライバル心に火が付いた。

キックス①:「なにを!過去の失敗があるから僕らは失敗しない。過去の”もの”より、現代の”もの”の方がいいに決まっている!負けはしないぞ!」

キックス②:「どう言う事ですか?脅威を奮っている?実際にそういった”もの”が存在するのですか?もし、実際にあるとするなら‥実際に造れる。という事です。そしてもし”それ”を超すものを造れ、と言われたら、サンプルさえあれば僕らなら可能かと。」

隊長(副総裁):「そうか。よく言った。サンプルなら有る!そして脅威をふるう”もの”について説明しよう。」

キックス①②はまた口一杯に食べるのを再開した。食べれる時に食べる。これは生きる者にとっては当然のこと。話は続く。
隊長(副総裁)は小声で他の隊員に「サンプルを持ってきてくれ」と伝えていたのが聞こえた。

しばらくして布に包まれたサンプルが届いた。
隊長(副総裁)はキックス①②が食事をしているテーブルにそのサンプルを「ドカッ」と置いた。
キックス②はその微妙な重さに反応した。
キックス①とも顔を見合わせる。
再び食事の動きを止めた。
今度はどこか張り詰めた空気だ。静止した。と言う方が場面が伝わりやすい。

キックス①が口にものを沢山含んだ状態でゆっくりと布を捲りあげた。

ギョッ!とした。
キックス①は布を放り投げ口のものを押さえながら、少し吹き出した。
それは”腕”だった。

キックス②:「そんなに驚くな。よく見ろ。さっきのテーブルに置く音で気が付かなかったか?」

キックス①:「あっ。ほんとだ。なーんだ。」

よくできた精巧な、機械で出来た”腕”だった。

キックス②:「触ってもいいですか?
(キックス②はサンプルを手に取る)
おお。よくできてる。この肘の動きと回旋は本当に人の動きだ。ほらっ、触ってみ?」

キックス①:「(恐る恐る人差し指で触るが、一旦触りはじめると目の色が変わる)
これは!一体何の素材だ?とってもリアルだ。そしてこの可動域。精巧につくられているなぁ。」

隊長(副総裁):「リアルロボットと言うべきか‥現に今、このリアルロボットの脅威に立たされている。」

キックス①:「こんなに精巧ならウタバの民に混じっていても気付かないんじゃないのか?」

キックス②:「そうだな。強いて言えばご飯を食べる時、眠る時に気づくかもしれないな。あくびなんてしないだろうし。会話すれば直ぐにでもわかりそうだが。」

隊長(副総裁):「笑。君たちはロボットに対して固定観念があるらしいな。なぜに脅威か?それは、同じご飯を食べ、あくびもするし、眠るし、会話も上手だ。 
涙を流す。喜ぶ。慰める。セックスも上手だ。リアルロボットは”人”なんだ。違うのは身体の中の構造だけ。」

キックス①②は再びライバル心に火が付いた。

キックス②:「隊長。サンプルは”腕”しかないのですか?」

隊長(副総裁):「そうだ。”腕”の持ち主には逃げられた。今の所これしかない。しかし、データは有る。この腕の持ち主を捕らえた時に詳細なデータを測定している。そのデータでわかったんだ。全く”人”と同じだというのを。」

キックス②:「そのデータと、このサンプルを貸してください。それと、”これ”を見せた理由があるはずですね?これから僕らに一体何をしようと?」

隊長(副総裁):「その”腕”の持ち主を捕らえた時、恐ろしいことを聞いた。」

腕の持ち主:「我々は太古からこの地へ降り立ち、何千年も稼働してきた。その中で理解したことがある。人間は何て愚かなのだろう。と。
同じ人間同士が憎しみ、殺し合い、女を取り合う。 
親、兄弟、友人や愛した人までも命を奪ってしまう。大事なのは名声、土地、お金。商売。そういう面を長年、嫌というほど見てきた。
そして私は決断した。
長年目立たぬよう隠れて生きてきた。それが、間違いだと。
地球の環境が悪くなってきたのも人間の仕業だと気付いた。この美しい地球をも人間は壊してしまう。
そして私は実行した。”人間狩り”だ。

人間を狩る度に思った。「ああ。これで地球は良くなる。環境は良くなる」と。
しかし、人間はそれでも次々と地球環境を悪くする一方だった。
武器を持ち、戦は終わらない。
いつしか私は戦争に人間の姿に扮して加担していた。”人間を狩る”のに必死だった。
狩っても狩っても人間はゼロにはならない。
そして原子爆弾を落としてやった。
それでも人間はゼロにはならなかった。
地震をおこし、津波をおこし、それでも人間はゼロにはならない。
そして時は経ち、ようやくチャンスが訪れた。
人類は海底へ逃げ、地上には人が住めなくなった。
そして私は今。
そう今が最大の絶好の”刻”と考える。
プツン。」

キックス②:「それじゃあ。まさに”今”‥」

キックス①:「これからどうなるんだ?」

隊長(副総裁):「本部員で”腕の持ち主”を捕らえるのは、なかなか困難だった。たったひとりに数10人を動員した。」

キックス①:「そんなに強かったですか?」

隊長(副総裁):「ああ。”腕の持ち主”はここ”グランドライン”へひとりで乗り込んできた。なぜここへ乗り込んできたか?わかるか?」

キックス②:「わかりません。”グランドライン”を占拠しようとしたのでは?」

隊長(副総裁):「もしそうだとしたら、ひとりでは来ないだろう。。
実はなぁ。
”腕の持ち主”は君たち20歳(ハタチ)の巡回任務者を全員抹殺しに来たのだよ。」

キックス①:「ええー!僕らを?なぜ僕ら何ですか?」

隊長(副総裁):「”アイツラ”が最も恐れているものは何だ?と思う?それはな。
君らみたいな”人間の若い力”だ。人間の若い力は何をしでかすか、分からない。成長もするし、未知数で”無限大”なのだ。

我らが”アイツラ”が脅威なように、”アイツラ”も”人間の若い力”が脅威なのだ。」

キックス②:「なぜ本部員は”腕の持ち主”が”アイツラ”だってわかったのですか?」

隊長(副総裁):「見たんだ。”ゲイン”にした事を。。」

キックス①:「えっ?”ゲイン”?」

隊長(副総裁):「この間の巡回任務の日。ゲイン”は君たちの中で1番先にこの本部へやってきた。去年の”Knock”の事が気がかりで、どうにかして今年の巡回任務で再度彼を救いたいのだ。と本部に打診していた。
そして、その時にちょうど”腕の持ち主”が現れた。
”腕の持ち主”は”ゲイン”の隣へ来ると、何やらブツブツと”ゲイン”の耳元で囁き、”ゲイン”を大人しくすると、”ゲイン”を片手で引っ張り上げ宙吊りにすると、その浮いた身体の脚の部分と地面との空間を手刀で切り裂いた。
”洗脳された!”
その瞬間すぐに本部員は”腕の持ち主”が”アイツラ”だと分かった。
畳み掛けるように、その場にいた本部員が”アイツラ”を強襲する。
何人かは弾かれて何メートルも飛ばされた。
しかしここは”グランドライン”本部。
”アイツラ”の立っている所の底は抜け、そのまま”アイツラ”は捕獲檻へ真っ逆さまに落ちて捕らえた。
その時に、宙吊りをしていた腕を隊長(副総裁)は切り落とし、”ゲイン”を救出したのだった。」

キックス②:「抹殺というより、僕らを”洗脳”し操る駒とするつもりだったんだ。」

キックス①:「そうだよ。”ゲイン”をあえて殺さなかった。という事は僕らの若い”素材”が欲しいのだよ、きっと。この時、本部員は皆”BANZAI”を付けていた?」

隊長(副総裁):「ああ。おかげさまで。ちゃんとその時の記憶は頭の中に残してあるよ。でも”ゲイン”は違った。”BANZAI”を装着していなかったせいで、この時の記憶は全く無かったそうだ。」

キックス②:「”アイツラ”が足元と地面の空間を手刀で切ったのは?あれはどういう意味があるの?」

隊長(副総裁):「うむ。それが”アイツラ”の洗脳力だ。人間はこの地球。この大地と”重力”という形で紐付けされている。ある意味、地球と大地と人間は一心同体なんだ。
”アイツラ”がやったこと。
それは人間を地球から、大地から切り離す儀式なんだ。大地から切り離された人間はどうなると思う?その時はもはや、宇宙空間をただ彷徨う”塵”のようになる。」

キックス②:「”ゲイン”は”切り離された”事を知らずに、そのまま巡回任務を行った。その時はまだ、”虫”に噛まれたばかりで毒が回っていない状態と同じだった。。」

隊長(副総裁):「そうだ。そしてちょうど今日。”ゲイン”と”Knock”は完全体になってしまったそうだ。もはや我々とは敵対する”スパイ”になった。」

キックス②:「”アイツラ”は吸血鬼のように、こうして罪なき若者を侵蝕し、増殖させ人間を滅ぼす兵隊とする。」

キックス①:「最低やろうだな。自分ひとりで闘えないのかよ。それで?その最低やろうはどうやってここから逃げたんですか?」

隊長(副総裁):「檻から消えたんだ。その後の行方も知らない。」

キックス①:「それは危険だ。すぐに探さないと。」

隊長(副総裁):「すぐに本部員を捜索させている。ただ、私の予想ではきっと近々に、”アイツラ”は自分の”腕”を取り戻しにくるはずだ。」

キックス①:「どちらにせよ”アイツラ”は僕らの命を狙っているのが分かった。僕らも何かしらの対処法が必要だな。」

キックス②:「”アイツラ”の存在は理解した。それで?僕らは何をすればいい?」

隊長(副総裁):「私たちが人類の為に考える、第ニ案の話がある。
同じもの‥いや、このリアルロボットより精巧な”人”を製造して欲しい。我らが製造するリアルロボットは将来に人類が滅ばないように付き添うロボットになる。」

キックス①:「それはボディガードのようなものですか?」

隊長(副総裁):「いや。家族のようなものだ。今でさえ、この”グランドライン”は地上より住みづらいせいか、子供が産まれない。これはこれからも海底にいる限り続くだろう。しかし、人口は減り続けてはいけない。どこかで補わなければならない。そしてこのリアルロボットのお出ましだ。
将来は人を支え、この”グランドライン”を支えていく柱となろう。」

キックス①:「本気ですかー。」

キックス②:「なんて悲しい現実なんだ、」

少し考えさせて下さい。
と箸を置き、食べるのをやめた。
ふたりが本部を出ようとすると、本部員数名に取り囲まれた。

隊長(副総裁)が言う。
「このまま帰す、わけに行かない。時間はないのだ。直ぐにとりかかって欲しい。キックスコーポレーションの方なら問題ない。これを聞け。」

室内の何箇所かにある、野球球ぐらいの穴から父親の声が聞こえて部屋に響く。

キックス父:「キックス①②よ。これは国家最優先事項だ。キックスコーポレーションも全精力をリアルロボットの製作に向けろ。と打診があった。強制的にだが。
これはもはや逃れられない。
やるしかないぞ。」

キックス②:「なんだかやり方が汚いなぁ。そこまでやるなら、こちらの質問にも答えてもらおう。なぜそんなにも急ぐ?そしていつまでに完成させないといけないんだ?」

隊長(副総裁):「‥闘いの日は近い。そして今のままだと大勢の命を失うことになる。そしてその日は‥。」

キックス①②:「なんだとー!」

ふたりは言葉を失った。




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