サウナ、心の叫びモーゼの道

私はサウナが好きだ!
声を大にして言うほどではないが好き。
実際サウナ内では基本会話は控えめに、が原則であり私もマナーだと思う。
何故あの灼熱の個室で裸のオッサンが鎮座する様が心地良いのか不思議だとは思う。
暑いの大好きドM体質の集いの場?
何か罰ゲーム的な?
暑さに耐え苦悶の顔のオッサンのデッサン標本が見たいのか?
30年くらい前のサウナは実際そういったイメージだったろう。
男性専用で終電逃した酔っ払いの御用達のカプセルホテルなんて猛獣と野獣がサカってるかの如くビビる地響きサウンドで据付のショボいイヤホンなんぞ金魚すくいのあみのごとくダダ破れで音の暴力は侵入してくる。それに耐えれる屈強な熟睡マスターのみがそこで安眠を得られるという代物。
幸い私はゴールデンマスターだったので実に快適にあのこじんまりとした空間で週末を堪能したものだ。
ところが!
昨今は事情がハレルヤ!実に快適さわやかサービスと配慮がみられる設備が多い。
喜ばしい事だ。
私は地場で数カ所をローテーションで回るパターンを好む。同じ場所、定宿、マイプレイスマイホームサウナももちろんあるができれば全国津々浦々さまざまなサウナ、温泉スパがあるのでいろいろ行ってみたいタイプ。
この話はそんな私の地元No.5のサウナでの出来事。
比較的人口の多い地域にそのNo.5は老舗的ポジションで言わばあぐらをかいた営業をしている。
と言うのも常連高齢者様達の朝の社交場になっており黙っていてもお客は来るから。
確かにスタッフは一生懸命やっている。
けれどなんと言うか自宅の延長とでも言うべきか慣れって怖いなと思う。
36℃前後の炭酸泉は心地良い。
できればずっと入っていたい。
その権利はあるしそうすべきだ。
炭酸泉を堪能すべき!
でもその湯船にぎゅうぎゅうと老獪な肉体が密着してくると話は別だ。
私はリラックスしたいのだ。
肌のセンサーが鈍くなるのか精神ソナーも無防備なのか私がステルスオーラ出してるのかグイグイくる。
嗚呼あーええ気持ちやぁ
とまるで自分の世界である。
30センチ隣の存在など無視して通り越してその隣のかお馴染みと会話が始まる。
建設的で興味ある話なら聞く耳もたつけれど
ニュースやテレビの中身のない内容をさらに中身を抜いたような会話はノイズを追い越す。
時折通過する新幹線にホッとするくらいだ。
弾き出されるようにその場を後にするともうそこは集会場のようで二度とアウェイの入り込む余地はない。ゲッタウェイなのだ。
余談だが老人のケツはゆるい、とスタッフが教えてくれる。僕らがマメにこうして水質チェックするのはそう言う事なんです。
察した!しましたとも!ラジャー🫡
私は颯爽とシャワーを浴び
身を清め水滴を拭きサウナへ。
むさ苦しい。
あ、いやこう言うところなんですが。
しかし混んでる。
ここは7人横並びが5段ほどある長方形スタジアム型。最前にテレビがありスチームがある。
私は断然後方高所の高温ポジ推しなのでめざとくロック温!
外国人には謎の動作、手刀で割って入る。
さあ、ここから旅が始まる。
自己をどれだけ孤高に崇高にこの空間で集中し昇華し耐えれるのか。いわゆるトトノイという境地にたどり着けるのかいなか、それがかかっている。
先ず大きくサウナーには2つのタイプがある。
テレビを良しとするか否か。
私はナッシング派。
黙って目を閉じ己に向き合いたい。
しかしここは違う。照明も明るめで昨夜の野球の試合のハイライトが映っていて皆見入っている。
ご当地ドラゴンズファンは多い。
まして勝ちゲームとなればいやがおうにも盛り上る。
しかしここは灼熱サウナ。
リビングじゃない。
暑いし多国籍ではないにしろ多種多様大小細フト白浅黒、時に墨と色々いる。
趣味嗜好、滞在時間も多種多彩。
ただでさえ耐えたところに
いったんCMいきます♪
とこちらの事情を知らぬMCが爽やかに言う。
ここで退出する人はする。
けれどコレは実際あった話だが
W杯!
アレはいかん。
日本がゴール決めるか決めないかって時に出れるわけがない。
中継でアナウンサーが
ゴォーーーーーーール!!!って叫んだとき
老人が床に転がった。
脱水です。
日本も頑張ったけどこっちも頑張っちゃう。
で、体力のない人は事切れる。
他人様に無様を晒しご迷惑をかけてしまう。
スタッフは掃除やらなんやで大変です。
自分だったら嫌だ。
くれぐれもご自分の体調の許せる範囲内で楽しみたいものだ。
なので私は自分で区切りをつけにくくする要素を省きたいのでテレビはNG。

この時もとなりのオッチャン
かなり前から入ってて相当汗をかいてる。
大丈夫かな、ってくらいしんどそう。
でも気になるんやろな、昨日のドラゴンズ。
わかる、わかるよ。
はよCM終わらんかな。
以心伝心だ。
この中の人全員がそう思ってる。
ようやく始まった。
しかしニュース番組にありガチなラップ。
ちょい前を見逃した人の為に繰り返すあれ
そんなんええんじゃ!
皆んな画面を鬼の形相で見入っとる!
早よ先進むめ!
室内の怨念が聞こえる。
ふぅ〜とその時
隣のおっちゃんが汗を払う。
注意力散漫でおぼつかないオッチャンの手から弾かれた汗は私の胸にビチャ!
気持ち悪い。
黙祷を捧げる私の眉間に一瞬シワがよる。
けれどコレは事故だ、よくあること。
彼もわざとじゃないはず。
仏の心を持って私は黙祷を捧げる。
アナウンサーの話が佳境に入って来た。
あれからの1分数十秒は限界界隈ではキツイ。
またオッチャンがピシャりとやる。
胸にビチャっとくる。
ああ、コレはなんだ、またしても私はステルスか。ここの老人はそういう人多いのかなどと
仏の顔2度。
黙祷。
テレビは意地悪だ。肝心のクライマックス
皆んなの求める情報を後だしにする。
あれから1分たった。
限界か、そう思った時
ピチャっと
私の神聖なる黙祷を破るフェザータッチで
ピチャっときた。
その時!
どこからともなく途方もなくデカい声
テレビの音声を遥かに超える音量で
さっきからきったねぇんだよ!
ちったぁ人の事考えろや!
と怒鳴り声が。
一体どこのどいつだ私の心の声を代弁してくれる
わかりあえるバディのようなお人はと
私は周りを見渡した。
見渡そうとした。

そうする間も無くギョッとした。
自分でした。怒鳴ったの。
心の声漏れてました。
それもダダ漏れフルボリュームで。
一瞬、室温が1度くらい下がった。
後方より響く怒号に皆背中でビクっと反応。
怖ぇ〜こえーよと背が言ってる。
程なくして番組内容の区切りがいいのか大量の人が出てゆく。
怒号のでどころを恐るおそるチラ見して。
直に言われたオッチャンはその直後
スンマセン💦と頭をペコペコ下げ退出。
なんだかこっちが申し訳なくなってくる。
私のルーティンは初回10分と決めている
。8、10、10がいいとされているが
初回こそ熱が浸透するのに時間が必要かと信じてやまない私。
しかし今日はなんだかバツが悪い。
直ぐ出る気にならず12分入った。
結構いい感じ。
このまま水風呂へ。
キチンと汗を流す。
ふとみやると水風呂浴槽が満員。
結構限界来てからの水風呂が気持ちいいのにこのタイミングで入れないのか、おお、神よ!と
思い何気に浴槽の面々をみていると
立つわ立つ浮き足だってどうしちゃったのと。
私の気持ちがまたしても声に漏れちゃったのかなと思うくらい皆が道を開ける。
まるでモーゼのように。
中には
どうぞ、と声までかけてくれる
VIPってこう言う気分なのかなと思いを馳せつつも
私の場合はそうではないなと確信。
ヤバイ奴認定後の神対応モーゼロード。
まあ、実際私温厚そうに見えて体躯はしっかりしてる。こんなヤツにキレられたらソリャかなわんなと誰しも思う。
かくして図々しい私は誰もいなくなった
水風呂に悠々と浸り
静かに静かにハゴロモを育てる。
完全に息を吐ききり腹式呼吸に。
それを何度か繰り返すうち
来た!
聴覚が敏感になり水のせせらぎが鮮明になる。
嗅覚は温泉の成分を嗅ぎ分ける。
心臓の鼓動もクリアでロー。
きっと潜水艦のソナーさえクリアする。
重力も身体の輪郭も精神さえも溶けてこのまま沈みこんでブラジルまで行けそうだ。
思考はあらゆるものを透視し俯瞰しドローンのように浮遊する。
次に私の静寂を破る刺客が来るまで
私の束の間の旅は続くのだ。




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