ヒトの生息域

田舎育ちの私はたまに都会に出てくるとバスや電車の窓を過ぎていく建物の大きさと量に圧倒される。
そう書いておいてなんだが、田舎のフェリーに乗ったときにも、海の上から陸を見て似たような気持ちになることがある。
感じ入るのは見渡す限り、無駄なスペースを省き高効率で建造物が、すなわちヒトの巣が張り巡らされていること。
ヒトと同じく社会性動物としてアリが対比されることが多い。
アリは地下にそれぞれ役割を与えた部屋をつくる。種によっては蟻塚を築くものもある。
ヒトが平地には耕作地や居住スペース、海の近くに大きな倉庫、アクセスの良い場所に集会所をつくるのとまさに同じことだ。
現在、ヒトの生息域は世界中に広がり、例えばピラハ族の住まうジャングルの奥まで含めて、人工的建造物は至る所に存在している。一個体が占めるスペースはその身体に対して非常に大きいような気がして、贅沢ないきものだなと素直に思う。
アリを含めた昆虫はヒトの肉眼で見えるサイズの生物群として最も個体数、種数が多いと推定されると聞いた。
ヒトのうち、専門知識を持たない一個体である私から見て、昆虫は非常に小さな身体に外骨格を纏い、脳は持たず、寿命も短い省エネな生物に思える。それ故に遺伝子変異のスピードは哺乳動物の比でないほど早く、世界中の環境に適応するだけの多様性を持つのだろう。
対して現存するヒトは我々ホモサピエンス、一種のみとなって久しい。人類は昆虫ほどの外見、能力の多様性を持たないが、比較的高機能な脳を以て衣食住を拡充し、あらゆる環境に適応するに至った。身体はそこまで改造せず後付けのアタッチメントを増やしていく生存戦略は、昆虫のそれとまさに対極だ。生存を目的とするのなら現在まで生き残っている以上、どちらも正しい戦略なのだろう。
海を見たとき、山を見たとき、これまで数えきれないほどの生物が朽ちて沈んでいったんだろうと、その大きさに思い入る。そしてこの中にヒトが何人、建物がいくつ入るのだろうと想像する。
そこに善悪はなく、ただ地球の広大さに感心し、ただ人類の巣の大きさに感心するのであった。

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