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変わっていく街、破壊されるままの街
第6波が急拡大を見せる直前の先月9日、2年ぶりに上京した。
都市圏の移住希望者に対し、東北の市町村、団体があつまって「おらが街」をPRするイベントに出席するためだ。
自分はある団体のPR担当として参戦したのだが、やはり東京は眩しかった。
地方に住んでいる者にとって、いつも東京はキラキラしている。
大規模な都市開発がいくつも進み、上京するたび景色が変わっている。
非現実的な高層ビル群やきらびやかなイルミネーションが、テンションを上げさせる。
そんな都会と比較すると、全く地方(田舎)は変わらない、つまらないと嘆く田舎者も多い。
もしかしたら自分もその一人かもしれない。
そんな自分が、地方への移住希望者に対し自分の街をPRするというのだから、皮肉である。
ある若い移住希望者の方とお話をした。
その方は、地方の生活にあこがれ、ゆったりとした生活を希望しているのだという。
おそらくその方は、広大な土地に自然があふれ、人も穏やかで時間がスローに流れる・・・そんな地方をイメージしているのかもしれない。
当たっていないともいえないが、その方のイメージを壊さないよう穏便に現状を話す。
「たくさんの温泉があって、ゆったり過ごせるのはそのとおりです。穏便な人ばかりではありませんが、移住者に親切にしてくれる方もたくさんいます。ただ人口が1年に1,000人ずつ減少しているので、活気がなくなっている集落もあります。若者は地元から離れ、Uターンしようとしてもなかなか働く場所がありません。県庁所在地へ通勤通学する方も多くいて、その時間帯の電車は1時間に2~3本の本数がありますが、日中は1時間に1本程度です。沿岸に行くローカル線は2時間に1本のこともあります。バスも路線数が少ないので、車の運転が必須です。冬は道路が凍結するので運転を慎重になさってください・・・」
考えてはいけないことだが、説明しながら、なんでこんなトコロに住みたいのだろう・・・?と思ってしまった。
思い切って聞いてみた。
「都会での生活は便利だし、電車は数分ごとにあるし、グルメだってショッピングだって、ほしいものを手に入れることができる場所がありますよね。地方は不便なところで、ちょっと買い物しに大きな街に行こうと思ったら、(このイベントの会場である)有楽町から大宮まで車で行かなきゃいけないくらいの距離ありますよ。それでもやはり都会から離れたいんですか?」
実際そうなのだ。
かつて、自分の街を東京にトレースして距離を比較したことがあった。
例えば、自分の街の駅を東京駅と重ね合わせてみると、県庁所在地は北に35km、大宮くらいの距離であり、東北一の街に買い物に行くには、南に140km、東京駅から修善寺くらいまで行ってしまう。
ちなみに、メジャーリーグMVPを輩出した高校は、東京でいうと湯島天神あたりになる。
この距離を生徒は、毎日自転車で通う。
余談だが、その高校のサッカー部はこれまであまり強くなかったが、野球部の影響もあり近年めきめきと力をつけており、昨年秋学校内に人工芝グラウンドが完成した。
それまで芝の練習場をもとめて、湯島天神から下北沢にいくくらいの距離を自転車で通っていたということを考えると、そのスケールがわかってもらえるかもしれない。
ついでにいうと、東北を代表する温泉地は池袋駅周辺にあり、日本代表のオリンピック選手も合宿したボート場は、千葉市にある。
これが同じ市内というのだから恐れ入る。
話を元にもどす。
こちらの質問に戸惑ったように若者は答えた。
「かつて冬に東北に行ったことがあって、そこで印象的なことがあって。寒かったけど星がきれいにみえるんですよ。こっちでは星なんかほとんどみえません。確かに便利ではあるけど、今はネットで何でも買えるし、ほとんどリモートワークになっているので、あまり不便ではないような気がします。自分は埼玉にすんでるんですけど、ショッピングといったって、近くのイオンとかで全然いいし。わざわざ東京までいかないですね。渋谷とか虎ノ門あたりも変わっちゃって、前と違って全然わかんないんですよね。」
ミスチルの「東京」という歌がある。
この中の歌詞の一部を引用する。
東京は後戻りしない
老いてく者を置き去りにして
目一杯 手一杯の
目新しいモノを抱え込んでく
思い出がいっぱい詰まった景色だって また
破壊されるから 出来るだけ執着しないようにしてる
それでも匂いと共に記憶してる
遺伝子に刻み込まれてく
この胸に大切な場所がある
東京をはじめとする首都圏や大都市は、目まぐるしく開発され変わっていく。今まであったものが破壊され、そして新たなものが猛スピードで作られていく。
かつてあったはずの場所が一変し、自分の胸にある大切な思い出だけが、記憶にある景色として残っている。
すべてが猛スピードで変化していく。
変化についていけないモノは取り残される。
それは老いていく者だけでなく、ゆったりと生きたい若者にとっても同じである。
そのスピードに対するアンチテーゼとして、地方が選ばれているのかもしれない。
確かに地方はスローな生活はできると思う。
そこで、仕事も暮らしもハッピーになれば、こちらとしてもうれしい限りだ。
相談が終わり、若者にお礼を言った。
「お話を聞いて、こちらも大変勉強になりました。ありがとうございます。こちらに来ていただいた際には、星の見えるところを案内します。ぜひ、またお会いしましょう」
相談で話そうと思ったが、思い直してやめたことがある。
「東京は、壊してまた作っていくけど、田舎は壊したら壊しっぱなし。空き家、空きビル、空き倉庫。壊さなきゃいけないモノばかり・・・」
自分の仕事場の目の前の料亭も解体され、星がきれいに見えるようになった。
あの若者が望む景色が広がっていた。
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