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ドッグ〜やっぱ犬はこえぇっすよ〜

本日の映画は1976年のアメリカ映画「ドッグ」でございます。タイトルからもうご察しの通り、突如として飼い犬が狂犬へと変身して、人間を襲いまくる作品です。

1975年という年はアメリカ映画にとって大転換を遂げた年だと言えます。それは勿論ユニバーサルからスティーブン・スピルバーグ監督「ジョーズ」が登場したからです。「動物パニック」というジャンル映画は、それまで低予算映画や、インディペンデント系の映画会社の専売特許の様なところがありました。しかし、「ジョーズ」の登場によって「動物パニック映画は大手が大予算を組んで真面目に作るもの」になっていったと(この事態にロジャー・コーマンは「こんなことされたらウチは商売上がったりじゃ!」と激怒したそうです)。「ジョーズ」の大成功を目の当たりにした他社は2匹目のドジョウを狙おうと、ありとあらゆる動物で便乗しました。クマ、タコ、ワニ、シャチなどなど「ジョーズ」のエピゴーネンを列挙するだけでも日が暮れるほどです(そして、その流れは未だに続いており「ジョーズ」が映画界に与えた影響の大きさが分かります)。そんな中、コロンビア映画が便乗したのは「犬」でありました。タイトルは何の捻りもなく「ドッグ」。しかしながら、本作は様々なジャンル映画の要素の組み合わせで、ジョーズのエピゴーネンというだけではないユニークさを持った作品になっています。

まずオープニング。ハッキリ言ってここが本作の白眉です。いきなりの犬目線のカメラワークからスタート。パーティーを抜け出した1匹の犬が突然走り出す。穏やかな郊外を走って、走る。そして、曲がり角に差し掛かったところでスローモーションに!ここでタイトル!そのまま犬は走る。するとどこからとも無く1匹、また1匹と犬が集まって来るではないか!普段は従順な飼い犬達が群れとなって猛々しく走る!スローモーションはまだ続く!そしてどこかへ走り去った....これはもうロッキー2です。文脈などは関係なく、人や動物が集まって走っている姿は胸を打つのです。

そこからの展開は誰もが予想した通り。主人公の生物学者、ハーランは農家のおじいから「牛が噛み殺された、これで4匹目だ」と相談を受けます。夜分も遅かったので「明日見に行くよ、今日はビール飲んで寝マァス」とハーラン。そんな事を言っている間に、農家のおじいは犬の群れに噛み殺されます。ほんでその後も、大学生やら風呂上がりのおばちゃんやらが、犬にガブガブと噛まれたり、引きずり回されたりして殺されます。ハーランが「こいつは只事じゃないぞ!」と気づいた時にはすでに遅し...

やっぱり「ジョーズ」のエピゴーネン的な部分は多く見受けられます。特に「イベントで大惨事が起きる」とか「大ごとにしたくないお偉いさんが出てくる」とかまんまジョーズですよ。一方で、「1匹でいたら可愛らしい連中が群れで襲ってきたらめっちゃ怖い」映画と言ったらヒッチコックの「鳥」ですね。

加えて、本作は「なんで犬が群れで襲ってくるのか?」についての答えが明示されません。この原因不明感もめっちゃ「鳥」っぽい。この「色んな映画からのいいとこ取り」を何の衒いも無くやるあたりが商魂たくましくて素敵です。

さらに特筆すべきは終盤の展開。ハーランの同僚であるマイケルは、学生寮にいる生徒を図書館へ避難させるため指示を出します。そんな中、デブ学生のヘンリーが腹が減ったと学食に向かってしまいました。「お前らここから動くなよ!」と学生寮に生徒を残して、ヘンリー君を連れ戻しに向かうマイケル。ヘンリー君はといえば学食に忍び込んでロールパンをむしゃむしゃ。いつの間にか犬に囲まれて食われそうになったところで危機一髪!マイケルが助太刀に現れ、命拾いしたヘンリー君。一方、学生寮の生徒たちはマイケルの指示を無視して勝手に図書館へ。犬達の襲撃を避け、命からがら図書館に立て籠った時に、遅れてやって来たヘンリー君!ヘンリー君に向かって飛びかかる大型犬!ヘンリー君は入り口のガラスドアに激突し、ガシャーン!!!デブがデブであるが故に、ここまで事態を悪化させる映画を僕は知りません。犬の侵入を許したら最後、生徒達はひとり残らず皆殺しにされてしまいます。そんなことアリ??

ハーランは彼女と危機一髪の状況を乗り越え、車で街からの脱出を図っていました。カーラジオは全米で犬による襲撃が始まっていると伝えています。「今のところ危険なのは犬だけです!」ハーランが乗った車が通り過ぎた後に猫が1匹「ニャー」と鳴いてストップモーションになって終わり。

この「何にも解決せず、これからも状況が間違いなく悪くなる兆しだけを見せて終わる」感じは正しく正統派なゾンビ映画的な黙示録感ですよね。ついさっきまで事態を甘く見ていた連中が根絶やしにされて、一気に「あ、世の中終わりかも」と思わせるこの力技。「ジョーズ」のエピゴーネンでありながら、「鳥」やゾンビ映画の要素を組み合わせることで、独特の空気感を持った一作になっていると思います。

それでは今日はこのへんで。
ステーション!

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