大学生によくある誤解(わかったつもり)

大学生によくある誤解(わかったつもり)をご紹介します。これは彼らがそのように教わってしまったり, あるいは, 教わっていないのにそのように勝手に誤解してしまったことがその原因だと思われます。

誤解1: 「水素原子はK殻にしか電子は入らない」

水素原子のK殻に電子が1個入った状態は「基底状態」といいます。多くの学生は、原子は常に基底状態にあると思い込んでいます。しかし、水素原子の基底状態の電子はエネルギーを得てL殻やM殻に移動することがあります。つまりL殻やM殻に電子の入った水素原子というものも存在します。このような状態を励起状態といいます。

誤解2: 「電子は原子核のまわりを円運動している」

電子が原子核のまわりを円運動するのは「ボーアモデル」といって, 既に否定された考え方です。電子は原子核のまわりに確率的にぼやっと広がった雲のように存在します。それを説明するのが量子力学という理論です。

誤解3: 「樹木のうち, 落葉するものを落葉樹といい, 落葉しないものを常緑樹という。」

常緑樹も落葉樹も「落葉」します。落葉樹は「樹冠全体の葉が全部落葉して葉の無い季節が存在する」ような樹木です。常緑樹は一部の葉だけが落葉しても, 他の葉は残っているという状態が継続するのです。筑波大学キャンパスの噴水のそばにクスノキという常緑樹がありますが、5月頃には大量の落ち葉が発生し, 路面のタイルを覆います。そうなると滑りやすいので気をつけてください!!

誤解4: 「標高が高いところほど気温は低い。」

よく晴れた日の夜は10 m〜100 mくらいの上空よりも地表付近のほうが気温が低いです。これは夜間の放射冷却によるものです。じゃあ富士山頂が下界より寒いのはなぜでしょう? 実はこれは簡単な問題ではないのですが, 気体の断熱膨張によって温度が下がることで一応は説明されます。高度100mで気温が0.6℃ほど下がるというのはこれです。高度差は10m〜100m程度ではそれよりも, 昼夜の気温の変化の効果の方が大きいのです。

誤解5: 「太陽は毎日同じ時刻(正午)に南中する。」

太陽の南中時刻は, 1年間の中で±15分ほど変動します。2月上旬頃が1年間で最も南中時刻の遅い時期です。春分でも秋分でも夏至でも冬至でもない, なんとも中途半端な季節なのに!!
https://www.nao.ac.jp/faq/a0107.html

誤解6: 「自分で光を出している星を恒星という。惑星は自分では光を出さずに恒星の光を反射して光っている。」

 惑星も自分で光を出して光っています。その光がたまたま波長が長すぎて人の目に見えないから, 惑星が放つ光を人は感知できないだけです。地球は主に10μm程度の波長の光を自発的に放っています。もちろん太陽からの光も反射しますが。
 そういう意味で, ↓これらのページのような解説は誤解を招きかねません。

https://www.kodomonokagaku.com/read/hatena/5290/

信じられない! と思う人も, 気象衛星ひまわりの夜の画像を見たことがあるでしょう。夜中, 太陽光が当たっていないのに, 雲のある場所と無い場所が鮮明に写っています。それは, 雲は冷たいから弱い光を出し, 雲の無い地表や海面は温かいからより多くの光を出している, そのことを, 人工衛星のセンサーが検知しているのです。このように, 物体はその温度に応じた光を自発的に出します。それを熱放射と呼びます。新型コロナの患者を発見するためにサーマルカメラがあちこちに置かれましたが, それは人の顔から出る熱放射を観測しているのです(だからまっ暗闇でも使えます)。
※ でも地球が熱放射するのは地表が太陽光で暖められるからであって, そういう意味では自発的に光っているというのは違うのでは? と言う人もいるでしょう。しかし噴火中の火山から流出する溶岩の放つ熱放射は太陽光とは無関係です。そして, 太陽光で暖められて熱放射している場所も, それは太陽光の反射とは言えません。その光を反射の物理法則で説明することはできないのですから。

誤解7: 振り子の周期は振れ幅によらず一定
 端点をどこかに固定して吊るした糸の, もう片方の端点先に錘(おもり)をつけて, 錘を揺らすのが振り子です。その1往復にかかる時間を周期といいますが, それは振り子の振れ幅によらず一定である, と小学校では習います。これを振り子の等時性といいます。
 しかしこれは振れ幅が(糸の長さに比べて)十分に小さい時に限って成り立つ近似です。たとえば糸が10 mのとき, 振れ幅が10 cmであっても20 cmであっても, 周期はほとんど変わりません。しかし, 糸が30 cmならば, 振れ幅が10 cmのときと20 cmのときでは周期は結構違います(目に見えてわかるくらい)。

誤解8: 地球の自転は24時間で1回
 1日は24時間で, 朝昼晩は地球の自転のせいで起きているので, 自転は24時間周期, と, 単純に思ってしまいますね。でも違うのです。自転の正確な周期は23時間56分04秒。24時間よりも約4分間, 短いのです。これは, 地球が公転していることが理由です。地表のある点から見て, 「1日後」に太陽が再び同じような場所に現れるとき, 公転のせいで地球は前日に比べて少し違った位置にいます。そのぶんだけ, 地球は余計に回転しないと, 太陽は同じような位置には来ないのです。だから「1日(=24時間)」は地球の自転1回より長いのです。つまり地球の自転は24時間より短い。どのくらい短いかというと, 365日かけて地球は太陽のまわりを1回公転するので, 1日分あたりその1/365だけ, つまり24時間/365≒約4分ぶん, 長くまわらないといけないということ, つまり地球の自転は24時間ひく4分となります。

誤解9: 縦波は全ての媒質中を伝わるが、横波は固体中しか伝わらない
 高校物理学を学んだ人によくある誤解です。これはあくまで「弾性波」という種類の波に限定された話です。この話の反例は光(電磁波)です。光は横波ですが, 水や空気のような液体・気体の中も伝わりますし, 真空の中も伝わります。

誤解10: 絶対値のついている関数は微分できない
 たとえばy=|x|はx=0で微分不可能です。しかしy=|x|^3はx=0で微分可能です(実数では)。

誤解11: 虚数とは二乗したら負の実数になる数。
 それは「純虚数」といって、虚数の一部に過ぎません。虚数は複素数a+biのうち(a, bは実数, iは虚数単位), bが0でないものです。たとえばa=b=1, つまり1+iも虚数ですが, その二乗は2iであり負の実数ではありません。

 これらのうちいくつかを誤解していたという人は多いでしょう。それはなぜなのでしょうか。おそらく原因は, シンプルでイメージしやすい「マイ法則」を勝手に作って, それで説明できる!と思い込んでしまう思考法です。これが科学の学びにおいて発生する「わかったつもり」なのです。

 大学生になっても, この癖を直せない人がたくさんいます。授業で話されたことの一部を切り取って, 成立条件をチェックせずに拡大解釈・一般化して「わかった!」となるのです。これは学びを妨げます。なまじわかったと思い込んでいるので, そこから抜け出すのは困難です。やっかいなことに, このような誤解は小中高校の教育内容にも結構たくさんあるということです(上の例でもありましたね)。さすがに教科書にあからさまに誤解が書いてあることは少ないのですが, 塾や受験産業のコンテンツや参考書などでは受験生を手っ取り早く「わかったつもり」にさせるために, いろんなことを過度に単純化して説明しているものがあり, それが誤解を生じさせています。
 
 ちなみに私自身も, 「シンプルでイメージしやすい「マイ法則」を勝手に作って, それで説明できる!と思い込んでしまう」ことをよくやってしまいます。そして誤解に気づいて「えっ!! そうだったの!!?」と愕然とすることは今もよくあります。上で述べた誤解の例の多くは私自身が過去に誤解していたことです。わかったつもりからの脱却と学びのアップデートは一生続くのです(泣)。

 塾講師をやっている人は, 思い込みで誤解していることをこどもに教えていないか気をつけてください(笑)

付録: よりハイレベルな誤解を書いておきます:

誤解: 太陽のまわりをまわる円軌道は, 太陽から離れるほど周期が長くなる。
 他の惑星の影響を考えると例外的な軌道があります。ラグランジュ・ポイントといいます。そのひとつが地球の外側にあるL2ポイントという点で, そこではジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が地球と同じ公転周期で太陽をまわっています。


 

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