音タピ―音の鳴るタピオカ―
音タピ。皆さんも一度は耳にしたことのある言葉ではないだろうか。
若者を中心に爆発的な大ブームを起こした、音の鳴るタピオカ――通称音タピ。街のいたると
ころで、こぞって飲まれていた様子は記憶に新しい。しかしそんな音タピも、今では見かけるこ
とが少なくなった。その理由とは、一体なんだったのだろうか。
この記事では、音タピ――ひいてはタピオカの人気の変遷について語ろうと思う。
(知らない人の為へ補足。タピオカとはキャッサバの地下茎からとれるでんぷん。それを大粒の
粒状にした黒いタピオカパールをアイスミルクティーに入れ、太いストローを使って飲む台湾発
祥の飲み物「タピオカミルクティー」が知られる。)
2018年頃から、新宿や原宿などを中心にタピオカドリンクの人気に火がついた。その人気は
とどまるところを知らず、都内の各地に台湾や中国で人気の店舗や、日本独自の店舗など、数多
くの店が立ち並んでいた。有名な店舗では、一時間近く並ぶことも珍しくはなかった。若い女の
子がタピオカドリンクを片手に街を歩く様子は最早日常の光景となっていた。
そんなタピオカブームも、平成から令和へ変わろうとしていた頃には、下火となりつつあっ
た。あれだけ賑わっていたタピオカドリンク店は、かつての狂騒はいずこへ。閑古鳥が鳴く店が
増え、次第にひとつまたふたつと店を畳んでいった。
衰退の一途をたどるタピオカブームへ、新たに火をつけたのが、ご存知「音の鳴るタピオカ」
であった。渋谷道玄坂にあった小さなタピオカドリンク専門店「音乐tea(インユエティー)」が
産み出した、世にも珍しい音が鳴るタピオカ。
音の鳴るタピオカとは、その名の通り、噛むと音が鳴るものだ。ドレミファソラシドの8音
が、8色の異なる色のタピオカを噛むと鳴るのである(音の鳴る仕組みは社外秘ということで、未
だに明かされてはいない)。
音が鳴ると言う斬新さ、そのカラフルな見た目は、普通のタピオカに飽きた女子の心を再び掴
むには十分だった。瞬く間に流行し、その勢いはとどまるところを知らなかった。連日インユエ
ティーの前には途切れない行列が並んでいた。
そんななか、動画投稿サイトYouTubeに「音タピでlemon演奏してみた」という動画が投稿され
る。とある少年が、音タピを用いて人気曲を演奏している様子を撮影した動画である。その動画
はSNSを通じて拡散され、バズったのである。
そこで音タピに二次ブームが巻き起こった。その少年に則り、様々な楽曲を音タピを用いて演
奏する様をSNSへ投稿することが若者の間で流行った。
もちろん各タピオカドリンク専門店が黙って見ているわけがない。様々な店舗が音タピ事業に
手を出し、音タピ飽和時代と相成った。街はカラフルな音タピを片手に動画を撮影する若者で溢
れていた。
しかし、光があれば闇があるというのが世の常である。音タピには1つ大きな欠点があった。そ
れは、味があまりおいしくないということだった。
――実際に筆者も取材のため、買い求め飲んでみたが、確かに味はイマイチであった。音が鳴
る様子は楽しかった。
そのため、多くの動画撮影目的の購入者は、目的が済むと完食せずに捨てるのであった。その
上、ただ捨てるのではなく、いわゆるポイ捨てなのである。
(用なしとばかりに地面に打ち捨てられた音タピの写真)
このことは当然社会的な問題となった。街の衛生上の問題ももちろんあった。しかし大きな問
題は騒音であった。くどいが、音タピとは音の鳴るタピオカである。つまり、踏んだ時や、捨て
るために潰すときにも音が鳴るのである。
こうなるといい顔をしないのが大人たちである。食べ物を無駄にしているという批判。さらに
は処理する際の騒音への苦情。
これらが関係してか、次第に音タピの人気にも陰りが出始めた。
そうして今日では、再びタピオカドリンク店では閑古鳥が鳴いている。
甘いタピオカドリンクティー。そして音の鳴るタピオカ。その次のブームは一体何がくるのだ
ろうか。味覚聴覚に訴えたその次とは……。タピオカ業界の今後には目が離せない。
大学の授業で、関連性のない単語を組み合わせた新しい言葉をテーマにSSを書いたときのものです。