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『透明人間』感想

 ネタバレ有り

 本作は1933年のジェイムズ・ホエール監督『透明人間』のリブートだが、私はリブート元は観賞していない。

 予告編も見ず、事前情報が無い状態で観に行にくことをここまで、推奨する映画も珍しい。

 理解されにくい、精神障害者の苦しみや痛みを可視化するようなつくりが素晴らしく、またエンタメ性にも富み、病院でのアクションシーンはゲームのようだった。

 私は、予告編には全く目を通さずに観に行ったので、当初「透明人間などおらぬのでは?」との見方から入った。あくまでも主人公セシリアの脳内を映したものであると。当然本作はそういったつくりにはなっているが、予告編を観ずに本編に臨んだのは最良の選択だった。終始、私の考えは尽きることがなかった。
 ここまで恐怖が近いホラー演出は、なかなか無いのではないだろうか。所謂クリーチャーの存在やゴア表現もなく、ただの吐息や、妙な痕や形。恐怖が実に想像しやすい。一見滑稽に見える、家でのアクションシーンも、「見えないって、そういうことだよな」と深く納得のいくものになっている。"透明人間"という、話を拡げにくい要素からここまで拡げ、スリリングな展開を見せたのは見事。

 リブート元は、透明人間視点の物語らしいが、本作は被害者視点。その視点もまた面白い。オルディス・ホッジ演ずるジェームズが最高にホットなのだが、ラストにまで辿り着いたとき、かれの視点はとても面白いものだったのではないのかと思った。理由は単純で、最後のジェームズと観客はおそらく同じ気持ちであったからだ。音声のみを聞いたかれの視点では、はっきりとしたものは見えない。しかし、音声に残るセシリアの叫びは本物。何も知らぬ人が見たら容易に信じる。しかし、一連のことを側で見てきたかれと観客は、さらなる可能性を拡げる。また、一人の視点と神の視点では全く異なったものにもなるだろう。
 ジェームズとセシリアの関係は本編では結局のところ良く分からないのは謎だが、まぁそんなことは重要ではないと思わせるほどの力はある。妹の夫なのかな、明言しているシーンはなかった気はする。

 ワンシーン、ワンシーンが妙に長く、気持ち悪いのも本作の特徴。最初の邸宅からの逃亡シーンの長いこと長いこと。観ていて、息が詰まりそうだった。この逃亡シーンで、本作は覚悟をして観るべきなんだなと悟った。個人的には、犬がいることを示す皿を蹴飛ばすシーンを、あんなジャンプスケアを用いる必要があったのかは疑問には思うが。

 セシリアの夫をまるで見せないのも、観客に想像の域を拡げる役割を果たしていた。普通ならある程度は見せるだろう。しかし、そうではない。そもそも本作のテーマの一つであるのが、簡単には分かりえぬ人の裏側や過去、そして痛み。もっと考えて、人と接するべきだと思わされた。




監督:リー・ワネル
脚本:リー・ワネル H・G・ウェルズ
出演:エリザベス・モス
   オルディス・ホッジ ストーム・リード
音楽:ベンジャミン・ウォルフィッシュ
撮影:ステファン・ダスシオ
原題:The Invisible Man
時間:122分
製作国:アメリカ,カナダ,オーストラリア


ジャッケットに乗せたタイトルは透けさせてみた。

 

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