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『リトル・ウッズ』感想

 日本では劇場公開されず、DVDスルー。ちなみに、正式な邦題は『ヘヴィ・ドライヴ』。邦題も宣伝も予告も映画からかけ離れていて最低。
 本作をスリラー、サスペンス、アクション映画とは思わないように。全然違う。

 主演はテッサ・トンプソンとリリー・ジェームズで、十分ネームバリューのある俳優が務めているが、本作の知名度はとても低い。IMDbでの評価件数は2000件をきっている。そしてエンタメ性の低さから一般からの評価も低い。しかし、Rotten Tomatesでは96%と高評価。

 『キャンディマン』のリメイクを任された、ニア・ダコスタの初長編監督作品。主演のテッサ・トンプソンが製作総指揮も務める。

 ネタバレ有り

 ノースダコタの田舎の風景の華々しさの無さが良く、田舎とその雰囲気からデブラ・グラニックの映画を思い出した。

 町と共に人々も疲れ切っており、皆が生活に困窮している。テッサ・トンプソンが演ずる、オリーは薬の運び屋をしているが、何も違法な薬物ではない。処方箋が必要な薬をよろしくないルートで手に入れ運び、売っている。保険に入っていなければ医療に関して高額なお金を支払うことになる。病院で診察してもらうにもお金が掛かる。本作ではおまけに長時間待たされるとのことだった。それは日本も同じだけど。


「痛み止めの薬が欲しい。」
 ここでは、たったそれだけのことでさえ満足に行えない。オリーは、むしろ低賃金で働く労働者にとっては、無くてはならない存在ともいえる。

 最近良く思っていることだが、貧しい人を助けるのは貧しい人だ。ジョエル・P・ウェストの『ショート・ターム』では、問題を抱える子供たちが過ごす施設を描いているが、ブリー・ラーソンが演じた施設の職員も、過去問題を抱えリストカットを繰り返していた。

 恵まれた者たちは、上や周りを見る。貧しい者たちは、上を見ることを諦め、周りと下を見る。そしてその範囲は大変狭い。
 こうして、貧しい者が貧しい者を助けることで、国内における貧富の格差は広がっていくばかりではないだろうか。

 金持ちは雲だ。雲から地上にいる人は見えないが、地上から雲は見える。しかし、届く位置にはいない。

 何だか最近、"貧しさ"を描いた映画をとても高評価している気がする。もしくは、近年で多く作られているだけなのか、しかも世界各国で。この2020年に入ったこの時期にこれだけ貧困を取り扱った映画が作られ、上映されているのであれば、この世界は何て明るくないんだろう。

 本作はエンタメ性に欠ける。それは事実。しかし、監督のネームバリューの無さと黒人女性という点が本作が十分に宣伝されなかったのではないかと考えてしまう。
 『グリーン・ブック』のアカデミー賞作品賞受賞は正直、なかなかに不愉快だった。事実スパイク・リーは不満をあらわにした。受賞したとき、登壇したスタッフ・キャストの中に黒人はほぼいない。マハーシャラ・アリとオクタヴィア・スペンサーぐらい。黒人差別や女性軽視を取り扱った映画が作られ続けているが、現状は大して変わっていないんだろう。実際事件は頻発している。

 けっこう逸れた。どこが『リトル・ウッズ』の感想なんだ。『リトル・ウッズ』を観て、感じたことを広げたことは事実だけど。

 デブラ・グラニックを連想したが、大きな違いは音楽。『リトル・ウッズ』はかなり音楽を使用している。しかも既存曲を。基本的に静かで、地味な画の本作ですが、眠くなることはなく、リズムはしっかり作れていたと思う。

 そして、主演のテッサ・トンプソンが凄く良かった。雑念なく彼女を見れた。好きな俳優の一人。彼女の両手を映したカットがとても印象的で、本作の現実味がぐっと増した。雰囲気がとても好みだった。『キャンディマン』を見たことがないが、エンタメ性が高そうに思える。この作風を維持できるのか不明だが、次回作が楽しみ。


 なかなか理解されない、生活困窮者と、その女性の実情。

「育てられないなら、どうして産んだんだ」
「金がないなら節約しろ」
「趣味に使うお金なんかないだろ」
「恵まれていなのなら、人一倍努力をしろ」

 これらを全て受け入れ実行したとして、こんな何の楽しみもない人生はくそだ。何か一つ、楽しいものを見つける。何か一つ、好きなものを見つける。そのためにお金を使う、明日のご飯が十分に食べられなくても。そうでもして楽しみを作らないと、今日を、そして明日を生きていけないから。

 そもそも、努力する事が出来る、静かに勉強に集中できる環境が皆の家にあるとは限らない。家に安心する場所がない子供もいる。子供の想像力では、そこまで考えれない。大人も自分の子供で精一杯。

 他者を気遣う気持ちや、思いやる気持ちを忘れてはいけない。

 子供の頃、よその家庭の子供のために、身体を張った親の姿がとてもカッコよく見えた。当時は深く考えなかったが、今考えるとどれほど素晴らしい行動だろうか。


監督:ニア・ダコスタ
脚本:ニア・ダコスタ
出演:テッサ・トンプソン リリー・ジェームズ
   ジェームズ・バッジ・デール ルーク・カービー
   ランス・レディック
音楽:ブライアン・マコンバー 音楽監修:メーガン・カリアー
撮影:マット・ミッチェル
原題:Little Woods
時間:105分
製作国:アメリカ

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