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『ルース・エドガー』感想

ネタバレ有り

 本作のテーマが詰まりに詰まったファーストカットから、最後にいたるまで、興味をそがれることはなかった。所詮一人の人間が見ているものは、一部であるし、見せられているもの、また見ようと試みたものも一部に過ぎない。神の視点で描かれることがない本作だが、ファーストカットのみは、誰の視点でもない。しかし、神の視点というのも違う。我々はロッカーの一部を見せられ、ただ"何かが入った紙袋"が入れられたという事実だけを見る。入れた人間の顔も映らなければ、手も映らない。誰が入れたかなどは知る由もない。

 そんな一部一部だけで、ルースという少年をどう見るかを試されている。本作には、善人は登場していないかもしれないし、悪人も登場していないかもしれない。映画として面白くしたいのであれば、何かしらのオチや、展開を入れてもいいものの、ジュリアス・オナーはそんなことはせず、テーマに沿った演出を貫き通した。本作の評価が微妙な位置にいるのも、これが理由だろう。「面白いが、面白くない」「面白くないが、面白い」、そんな感じがした映画だった。私は、大変面白いと思いながら観賞したが、そんな高評価するつもりはない笑。
 
 割とニュース記事等に近いんじゃないかと思ったりもした。ただニュースや記事を読んだだけで、自分の中で善人と悪人を作ったりすることはないだろうか。ただ事実のみを知り、勝手に自分の中で簡潔にさせてしまうことも。もし本作の描写全てを、ニュースや記事で見たとしたら、ルースを単に悪人にし、先生を哀れに思うかも。
 しかし、本作で描かれたことはそんな単純ではない。ルースのスピーチシーンは、練習と本番で二度描かれた。ルースにとってあのシーンで話されていることが、最も重要であることが窺える。その内容には、名前が変わったという事実と、その経緯が。
 ルースにとってこの事実は、自分の過去を否定されたようなものなのかも知れない。誰にとって一体何が最も重要なのかは、容易に分かるものではない。ルースが生きて行く上で、戦地にいたことを無駄だとは思いたくはないのかも知れないが、両親は「そんなものは悪夢」だとでも言いたげな様子。

 父親が、善人なのかはよく分からないが、悪人ではなく、またとても正直な人だ。母親は、子を想っているが、はっきり言って父よりも子のことを疑っている。嘘をつくシーンの気持ち悪さったらなかった。私はあのシーンで、一気に嫌悪してしまった。ルースはそんなものを既に感じとっていたのかも。

 どちらともとれる描写だけで貫いたのは、見事だし、奇妙な音楽も本作の気持ち悪さを際立たせるものだった。いや、本当に気持ち悪い映画だと思う。技術的な部分だけど、何か一部画質が荒かった気がする…。

監督:ジュリアス・オナー
脚本:ジュリアス・オナー J・C・リー
出演:ナオミ・ワッツ ティム・ロス ケルヴィン・ハリソン・Jr
   オクタヴィア・スペンサー アンドレア・バング
音楽:ベン・サリスベリー ジェフ・バロウ
撮影:ラーキン・サイプル
原題:Luce
時間:109分
製作国:アメリカ

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