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Best Movies 2019

〈概要〉
・日本で2019年に劇場公開、販売(ビデオスルー)、配信された映画が対象
・リバイバル上映などは基本的に対象外
・順位なし

・タイトルを押すと予告編に飛びます。
・一応①~⑩をBEST10のつもりで選んではいます。

①『足跡はかき消して』(デブラ・グラニック)

ジャンル:ドラマ
製作国:アメリカ,カナダ

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〈あらすじ〉
 PTSDに苦しむ退役軍人ウィルは、13歳の娘トムとともにオレゴン州ポートランドの森の中で人目を避けるように暮らしていた。ところがある日、散歩していたトムがジョギング中の男性に見つかり通報されてしまう。福祉局の監視下に置かれることになった父娘は、強制的に社会復帰支援を受けることになるが…。

〈説明・感想〉
 『ウィンターズ・ボーン』のデブラ・グラニック監督が、ピーター・ロックの小説『My Abandonment』を映画化。

 こんなにも「緑」が美しい映画はない。観ている時、そして観終わった時もそう強く感じた。前作『ウィンターズ・ボーン』に続き、生きる事と世知辛さを登場人物を通し正面から向き合い、決して物語視点では描かない。静けさと自然音を駆使した見事な心理描写と美麗な映像に見惚れる。

 デブラ・グラニックは、私の見たいアメリカを見せてくれる数少ない映画監督であり、最も好きな映画監督。抑えた演出が本当にたまらない。

〈作品データ〉
脚本:デブラ・グラニック アン・ロッセリーニ
出演:ベン・フォスター トマシン・マッケンジー
   デイル・ディッキー
音楽:ディコン・ハインクリフェ
撮影:マイケル・マクドノー
原題:Leave No Trace
時間:109分


②『サンセット』(ネメシュ・ラースロー

ジャンル:ドラマ,ミステリー
製作国:ハンガリー,フランス

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〈あらすじ〉
 1913年。イリス・レイターは、高級帽子店で職人として働くことを夢見て、ハンガリーの首都ブタペストにやってくる。しかし、現在のオーナーであるオスカル・ブリルはイリスを歓迎することなく追い払ってしまう。そして、この時になって初めて自分に兄がいることを知ったイリスは、ブタペストの町で兄を探し始める。
 
〈説明・感想〉
 長編デビュー作『サウルの息子』がカンヌ国際映画祭グランプリの他、アカデミー賞やゴールデングローブ賞の外国語映画賞も受賞したネメシュ・ラースローの長編第2作。

 映像がガチ好みだった。『サウルの息子』同様、主人公について回るカメラワークに、本人が見えていない範囲はぼやけている。
 独特なカメラワークと共に、全てのシ-ンが完璧な角度で撮られており、暖かみのある色味の映像は逸品。

 一部批評家から叩かれそうなほど、綺麗な女優しか起用していない。しかし、主演のユリ・ヤカブだけは、綺麗な顔立ちの奥に潜む一言では表わせそうもない混沌を感じる。

 どれが正しい道なのか、不安と疑念に駆られつつも進む主人公の心情と、緊迫感のある長回しは実に見事。
 第1次世界大戦が始まる1年前の帝国占領下にあるブダペストを舞台に張り詰める空気と、人々の疑惧が存分に描かれる。
 次回作次第ではネメシュ・ラースローは大好きな映画監督になるかも。

〈作品データ〉
脚本:ネメシュ・ラースロー
   クララ・ロワイエ マシュー・タポニエ
出演:ユリ・ヤカブ
   ブラド・イバノフ エベリン・ドボシュ マルチン・ツァルニク
音楽:メリシュ・ラースロー
撮影:エルデーイ・マーチャーシュ
原題:Napszállta(英題:Sunset)
時間:142分


③『象は静かに座っている』(フー・ボー

ジャンル:ドラマ
製作国:中国

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〈あらすじ〉
 中国の小さな田舎町。友達をかばった少年ブーは、町で幅を利かせているチェンの弟の同級生シュアイをあやまって階段から突き落としてしまう。チェンたちに追われて町を出ようとするブーは、友人のリンや近所の老人ジンも巻き込んでいく。それぞれが事情を抱える4人は、2300キロ離れた先にある満州里にいるという、1日中ただ座り続けている奇妙な象に興味を抱く。

〈説明・感想〉
 第68回ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞、最優秀新人監督賞スペシャルメンションを獲得。

 フー・ボーの魂の234分で、命を懸けた映画だ。
 灰色の映像に、長回しと強烈なカメラワーク。登場人物たちのリアルな表情に圧倒され、ギター音とシンプルなシンセサイザーに痺れる。
何をすればいいのか、何処に行けばいいのか、 周りも見えず、信用も出来ず、ひたすらに孤独と絶望を叩きつけられ、この到底色鮮やかには見えない現実に吐き気がする。
 決していい方向ではなくても、同じ方向を向いている人は居る筈だと信じたい。
 ありがとうフー・ボー。一生大切にする。

〈作品データ〉
脚本:フー・ボー
出演:ポン・ユーチャン チャン・ユー
   ワン・ユーウェン リー・ユォンシー
音楽:ホァ・ルン
撮影:ファン・チャオ
原題:大象席地而坐(英題:An Elephant Sitting Still)
時間:234分


④『アトランティックス』(マティ・ディオップ

ジャンル:ドラマ
製作国:セネガル,フランス,ベルギー

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〈あらすじ〉
 裕福な男性との結婚を控えながら、秘密の恋に身を焦がすエイダを襲った大きな悲しみ。愛しい人にもう一度会いたいと思い続ける彼女の願いは、思わぬ形で現実となる。

〈説明・感想〉
 NETFLIXオリジナル作品。第72回カンヌ国際映画祭コンペティション部門でグランプリを受賞。

 『裸足の季節』、『ビール・ストリートの恋人たち』、『夜空はいつでも最高密度の青色だ』等々、数多の映画を連想させた本作。特に強く感じたのは日本映画。明確なタイトルは出て来ないけれど、優秀な優しい演出の日本映画の香りがした。セリフは少なく、音楽と景色と歩く姿が印象的で、それらによって進行するが、伝えたい思いはしっかりとあっても多くは語らない。要所要所のバランスが素晴らしい。

 あらすじだけでは到底想像もつかない程、深く根付よい思いがこめられた映画。アフリカのみならず、世界でも、日本でも日常的に起きている問題に加え、セネガルの保守的な思想に個人の意思と自由。一体いくつの角度からこの映画を読み解けばいいのだろう。
 はっきり言って"凄い"映画だ。単に凄いと言っている訳ではない。本当に、本当に"凄い"映画だ。観てもらえれば意味は分かると思う。

〈作品データ〉
脚本:マティ・ディオップ オリヴィエ・ドゥマンジェル
出演:ママ・ビネタ・サネ アマドゥ・エムボウ
   イブラヒマ・トラオレ ニコル・スーグー アミナ・ケイン
音楽:ファティマ・アル・カディリ
撮影:クレア・マトン
原題:Atlantique(英題:Atlantics)
時間:106分


⑤『第三夫人と髪飾り』(アッシュ・メイフェア

ジャンル:ドラマ
製作国:ベトナム

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〈あらすじ〉
 19世紀の北ベトナム。14歳の少女メイは、絹の里を治める大地主の3番目の妻として嫁いでくる。一族が暮らす大邸宅には、唯一の息子を産んだ穏やかな第一夫人と、3人の娘を持つ魅惑的な第二夫人がいた。まだ無邪気だったメイは、この家では世継ぎとなる男の子を産んでこそ“奥様”になれることを知る。やがてメイも妊娠し、出産に向けて季節が流れていく中、第一夫人も妊娠していることが判明する。

〈説明・感想〉
 ベトナムの新鋭アッシュ・メイフェア監督が自身の曾祖母の実話をもとに描き、世界各地の映画祭で数々の賞を受賞。

 女性が撮った映画なんだなと直ぐに分かった。景色も役者も肌も衣装も映像もとても美しい。中でも印象的なのは髪。"髪は女の命"と言うけれど、やはり男性ではここまで髪に注目して撮らないと思う。女性の魅力の要素程度としか思ってない人が多いのではないだろうか。要素ではなく"命"。より美しさを際立たせたいという点で、男性の視点と女性の視点の違いを感じた映画だった。

 とても美しく、まさに眉目秀麗。しかし、内容はとても残酷で悲痛なもの。
 分かりやすくも、一筋縄ではいかず、美と悲哀に溢れた素晴らしいフェミニズム映画だと思う。フェミニズム映画と簡単に言う事はしたくないが、それ以上踏み込むとなると、ネタバレを避けずには語れない。

〈作品データ〉
脚本:アッシュ・メイフェア
出演:グエン・フオン・チャー・ミー
   トラン・ヌー・イェン・ケー マイ・トゥー・フオン
音楽:アン・トン・ザット
撮影:チャナーナン・チョートルンロート
原題:Người Vợ Ba(英題:The Third Wife)
時間:95分


⑥『COLD WAR あの歌、2つの心』(パベウ・パブリコフスキ

ジャンル:ドラマ,歴史,ロマンス
製作国:ポーランド,イギリス,フランス

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〈あらすじ〉
 
ポーランドの音楽舞踏学校で出会ったピアニストのヴィクトルと歌手志望のズーラは愛し合うようになるが、ヴィクトルは政府に監視されるようになり、パリへと亡命する。夢をかなえて歌手になったズーラは、公演活動で訪れたパリやユーゴスラビアでヴィクトルと再会。パリで一緒に暮らすが、やがてポーランドに戻ることに。ヴィクトルは彼女の後を追ってポーランドに戻るのだが…。

〈説明・感想〉
 2018年・71回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞。アカデミー賞、監督賞・撮影賞・外国語映画賞ノミネート。

 モノクロの映像、画面サイズはスタンタードサイズ。映像のサイズを狭くし、さらに色まで抜いたというのに、この美しさは何だ。本作を観てもらえれば分かる事だが、画面の下半分が主に使われている。そして、全面が使われたときの感動は想像を超えてくる。今更言うのは酷だけど映画館で観て欲しい映画だ。

 黒色と白色ってこんなにも美しい色だったのかと思わされた。黒を引き立たせるために白を、白を引き立たせるために黒を。かつて、どうせ白黒になるから分かんねぇよって撮りたい画のために竹を黒く塗った映画がありました。

 今村昌平の映画を彷彿とさせるようなカメラワークに加え、メインキャスト二人の良さを存分に引き出しているのが素晴らしい。ヨアンナ・クーリグはひたすらに魅力的だし、トマシュ・コットはひたすらにカッコいい。ここまで役者の良さを引き出す監督はそうはいない。

〈作品データ〉
脚本:パベウ・パブリコフスキ
   ヤヌシュ・グロワツキ ピヨトル・バルコフスキ
出演:ヨアンナ・クーリグ トマシュ・コット
撮影:ウカシュ・ジャル
原題:Zimna Wojna(英題:Cold War)
時間:89分


⑦『お嬢ちゃん』(二ノ宮隆太郎

ジャンル:ドラマ
製作国:日本

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〈あらすじ〉
 鎌倉に暮らす21歳の女性みのりは、観光客が立ち寄る小さな甘味処でアルバイトをしながら生活していた。一見普通の女性に見えるが、どこか違う。普通って何なのか。みのりは他の女性と何が違うのか。みのりは何を考えて生きているのか。

〈説明・感想〉
 「ENBUゼミナール」のワークショップ「シネマプロジェクト」の第8弾で製作された2作品のうちの1作。監督は、俳優として活動するかたわら映画監督として作品を手がける二ノ宮隆太郎。

 紹介する作品の中で断トツで知名度が低い作品。正直、私も期待していなかった。何で観たいと思ったのかも良く分からない。
 この映画が一本の映画としてまとまっているのか、まとまっていないのかもよくわからないし、面白いのか面白くないのかもよくわからない。しかし、とてつもなく充実した時間が過ごせた映画だった。

 ワンシーン・ワンカットで構成されている本作は、映画館で観ることに強い意味があると感じた。
 人間が描かれているか、生活が描かれているか、性格が描かれているか、日常描写が充実していることに、とてつもないほど価値を感じる。

〈作品データ〉
脚本:二ノ宮隆太郎
出演:萩原みのり
   土手理恵子 岬ミレホ
音楽:根元飛鳥(サウンドデザイン)
撮影:四宮秀俊
原題:お嬢ちゃん(英題:Minori,on the Brink)
時間:130分 


⑧『エイス・グレード』(ボー・バーナム

ジャンル:ドラマ,コメディ
製作国:アメリカ

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〈あらすじ〉
 中学校生活最後の1週間を迎えたケイラは、“クラスで最も無口な子”に選ばれてしまう。待ち受ける高校生活に不安を抱える彼女は、SNSを駆使して不器用な自分を変えようとするが、なかなか上手くいかない。高校生活が始まる前に、憧れの男の子や人気者の女の子たちに近付こうと奮闘するケイラだったが…。

〈説明・感想〉
 エルシー・フィッシャーが主演を務め、第76回ゴールデングローブ賞の主演女優賞(コメディ/ミュージカル部門)にノミネート。
 
 学生の頃、男女共有のツールはほとんど無かった。PSPや遊戯王を皆でやった。しかし、その皆は男ばかりだ。やるゲーム、本、マンガにしても、男女がハマるものは分けられていた。

 本作はちょうど今、親の世代の人たちにも向けた映画だと思う。SNSは男女共有ツールという革命的な存在だ。以前は学校での自分とそれ以外は別だった。クラスで注目を浴びたがっているヤツも、家では違うヤツになったりする。しかし、今はそれがSNS上でネット上で展開し続けている。自分を保つために、自分が自分で居続けるために、それは外の世界でも中の世界でも同じだけれど、それに子供たちがやっきになるのは自然なこと。

 音楽を効果的に使用し、体当たりにも等しいエルシー・フィッシャーの俳優魂には震える。
 現代に必要な映画だ。

〈作品データ〉
脚本:ボー・バーナム
出演:エルシー・フィッシャー ジョシュ・ハミルトン
音楽:アンナ・メレディス
撮影:アンドリュー・ウィード
原題:Eighth Grade
時間:93分



⑨『アイリッシュマン』(マーティン・スコセッシ)

ジャンル:伝記,ドラマ,クライム
製作国:アメリカ

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〈あらすじ〉
 "I Heard You Paint Houses (聞いたぞ、家のペンキを塗っていると)"。

〈説明・感想〉
 NETFLIXオリジナル作品。
 伝説的マフィアのラッセル・バッファリーノに仕えた実在の殺し屋で、1975年に失踪した全米トラック運転組合委員長ジミー・ホッファをはじめ、多くの殺人事件に関与したとされるフランク・“アイリッシュマン”・シーランをデ・ニーロが演じるほか、アル・パチーノ、ジョー・ペシと豪華共演。第92回アカデミー賞で作品賞や監督賞のほか、パチーノとペシがそろって助演男優賞にノミネートされるなど、9部門10ノミネートを果たした。

 控えめに言って"傑作"。控えめに言わぬなら"人生"。御年77歳のマーティン・スコセッシだからこその映画。
 スコセッシ自身が激動で濃密な人生を歩んできたからこそ、撮った映画であり、撮りたかった映画。もちろんデ・ニーロもアル・パチーノもジョー・ペシもそうだ。マフィア映画に出演し、マフィア映画を撮った男たちによる集大成であり最高傑作。これを観ずして明日を生きるな。

〈作品データ〉
脚本:スティーブン・ザイリアン
出演:ロバート・デ・ニーロ
   アル・パチーノ
   ジョー・ペシ
   アンナ・パキン スティーブン・グレアム ハーベイ・カイテル
音楽:ロビー・ロバートソン
撮影:ロドリゴ・プリエト
原題:The Irishman
時間:209分


⑩『アス』(ジョーダン・ピール

ジャンル:ホラー,ドラマ,ミステリー,スリラー
製作国:アメリカ

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〈あらすじ〉
 夫のゲイブ、娘のゾーラ、息子のジェイソンとともに夏休みを過ごすため、幼少期に住んでいたカリフォルニア州サンタクルーズの家を訪れたアデレードは、不気味な偶然に見舞われたことで過去のトラウマがフラッシュバックするようになってしまう。そして、家族の身に何か恐ろしいことが起こるという妄想を次第に強めていく彼女の前に、自分たちとそっくりな“わたしたち”が現れる。

〈説明・感想〉
 前作『ゲット・アウト』がアカデミー賞にノミネートされ、脚本賞を受賞するなど大きな話題を集めたジョーダン・ピール監督最新作。

 『ゲット・アウト』より面白いし、『ゲット・アウト』より怖いし、『ゲット・アウト』より最高な演出。がしかし、『ゲット・アウト』より一般からの評価は低い。批評家からは絶賛ですが。
『ゲット・アウト』をエンタメホラーだとしたら、本作は歴としたホラー。音楽といい、画作りといい、一瞬で引き込まれるほどの力がある映画。

 主演のルピタ・ニョンゴは今年観た映画の中で、最も素晴らしい演技をした女優だと思う。彼女の表情、動き、セリフが全く嘘に思えず、この映画のランクをうんと上へと引き上げている。ぶっ飛んだ設定でありながらも、映画の中へと視聴者をぐいぐいと引きずり込む、ルピタ・ニョンゴの演技とジョーダン・ピールの演出にたえまない賛辞を。
ダニエル・カルーヤがアカデミー賞にノミネートされて、ルピタ・ニョンゴがノミネートすらされないのは不服。

〈作品データ〉
脚本:ジョーダン・ピール
出演:ルピタ・ニョンゴ マディソン・カリー
   ウィンストン・デューク シャハディ・ライト・ジョセフ
   エバン・アレックス  エリザベス・モス ティム・ハイデッカー
音楽:マイケル・エイブルズ
撮影:マイケル・ジオラキス
原題:Us
時間:116分


『ボーダー』(アリ・アッバシ)
ジャンル:クライム,ドラマ,ファンタジー
製作国:スウェーデン,デンマーク

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⑪『希望の灯り』(トーマス・ステューバー

ジャンル:ドラマ
製作国:ドイツ

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〈あらすじ〉
 ライプツィヒ近郊の田舎町に建つ巨大スーパー。在庫管理係として働きはじめた無口な青年クリスティアンは、一緒に働く年上の女性マリオンに恋心を抱く。仕事を教えてくれるブルーノは、そんなクリスティアンを静かに見守っている。少し風変わりだが素朴で心優しい従業員たち。それぞれ心の痛みを抱えているからこそ、互いに立ち入りすぎない節度を保っていたが…。

〈説明・感想〉
 旧東ドイツ生まれの作家クレメンス・マイヤーの短編小説「通路にて」を、同じく旧東ドイツ出身のトーマス・ステューバー監督が映画化。2018年・第68回ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品。

 本作のような人に寄り添った映画が好きだ。大都会のけたたましい場所を舞台としたビジネスマンやキャリアウーマンを描いた作品はどこか優しさがない。ニューヨーク生まれ、ニューヨーク育ちの人々がこういった田舎の一市民になど興味を持たないだろうし、かれらの悩みをどこか贅沢に思えてしまう自分の貧しさにも嫌気が差すのも事実。

 少し眠たくもなってしまう映画ですが、それを優しい作品だと捉えれてもらいたい。子供でも大人でも都会でも田舎でも、多くの人の人生に悩みや障害が付き纏う。職場で会う人など、所詮は表の姿を見ているだけに過ぎない。巨大スーパーで働く、様々な人々の生活を垣間見て、普段見ることのない人の裏側や秘密を覗く。
 人と接するときに、皆がどこか優しさを持っていたら良いなと思う。

〈作品データ〉
脚本:クレメンス・マイヤー トーマス・ステューバー
出演:フランツ・ロゴフスキ サンドラ・フラー
   ペーター・クルト
撮影:ペーター・マティアスコ
原題:In den Gängen(英題: In the Aisles)
時間:125分


⑫『チワワちゃん』(二宮健

ジャンル:ドラマ,ミステリー
製作国:日本

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〈あらすじ〉
 ある若者グループのマスコット的存在で「チワワ」と呼ばれていた女性が、バラバラ遺体となって東京湾で発見される。チワワの元彼や親友など残された仲間たちは、それぞれがチワワとの思い出を語り出すが、そこで明らかになったのは、チワワの本名も境遇を誰も知らないまま、毎日バカ騒ぎをしていたということだった。

〈説明・感想〉
 「ヘルタースケルター」「リバーズ・エッジ」など、1980~90年代にかけて人気作品を送り出した漫画家・岡崎京子の「チワワちゃん」を実写映画化。

 絶妙なバランスで成り立っている映画ほど賛否が別れるが、特定の人には一生愛され続けるんじゃないかと考えることがある。整形された石を積み上げた作品より、河原のごつごつとした歪な石を絶妙なバランスで積み上げた作品の方が、人々は感動するんじゃないか。もちろん丁寧な仕事によって積み上げられた作品も良いが、それは、はたしてずっと人の心に残るんだろうか。ちょっと押してしまうだけで崩れてしまうような、危うい作品はなぜこんなにも愛らしさが生まれるんだろう。
 特に期待していなかった分、想像以上の傑作で驚いた。観てからしばらく経つが、いまだに忘れられない映画となっている。
 まだまだこれからという、輝きを放っている俳優たちと、奇をてらったカメラワークに、エモーショナルな音楽と脚本とキャラクター。今年を代表する青春映画の一つ。

〈作品データ〉
脚本:二宮健
出演:門脇麦 成田凌 吉田志織 
   寛一郎 玉城ティナ 村上虹郎 仲万美 古川琴音 成河 
   松本穂香 栗山千明 浅野忠信
音楽:濱野睦美
撮影:相馬大輔
原題:チワワちゃん
時間:104分  


⑬『バーニング』(イ・チャンドン

ジャンル:ドラマ,ミステリー
製作国:韓国,日本

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〈あらすじ〉
 アルバイトで生計を立てる小説家志望の青年ジョンスは、幼なじみの女性ヘミと偶然再会し、彼女がアフリカ旅行へ行く間の飼い猫の世話を頼まれる。旅行から戻ったヘミは、アフリカで知り合ったという謎めいた男ベンをジョンスに紹介する。ある日、ベンはヘミと一緒にジョンスの自宅を訪れ、「僕は時々ビニールハウスを燃やしています」という秘密を打ち明ける。

〈説明・感想〉
 イ・チャンドンの8年ぶりの監督作、村上春樹が1983年に発表した短編小説「納屋を焼く」が原作。カンヌ国際映画祭のコンペティション部門出品作品。

 紹介する中で一番感想を書くのが難しい。一筋縄ではいかない映画は紹介する中で他にもあるけれど、これは特に異質。「説明するの面倒だから、とりあえず観ろ」とも違う。しかし、私の主観を交えて、感想を書くことさえこの映画の印象がガラっと変わる可能性がある、ということを書くことも危うい。
 ストーリーも脚本も映像も音楽も全て一流ですので、映画ファンなら良い時間が送れるはず…。

〈作品データ〉
脚本:オ・ジョンミ イ・チャンドン
出演:ユ・アイン チョン・ジョンソ
   スティーブン・ユァン
音楽:モグ
撮影:ホン・ギョンピョ
原題:버닝(英題:Burning)
時間:148分


⑭『スケート・キッチン』(クリスタル・モーゼル

ジャンル:ドラマ
製作国:アメリカ

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〈あらすじ〉
 ニューヨークの郊外に暮らす17歳の少女・カミーユは、ケガが原因で母親から大好きなスケートボードをやめるように言われてしまう。ある日「スケート・キッチン」と呼ばれる女の子たちだけのスケートクルーと出会ったカミーユはクルーのメンバーとなるが、そのことで母親との関係が悪化してしまう。

〈説明・感想〉
 クリスタル・モーゼル監督がファッションブランド「ミュウミュウ」によるプロジェクト「MIU MIU WOMEN’S TALES(女性たちの物語)」で製作した短編「That One Day」を長編映画化。

 まるで、宝石の様な輝きを放っている映画。
 初っ端のスケートシーンから"光り"の使い方とクロースアップのカメラワークが素晴らしく一瞬で掴まれた。音楽、映像、キャスト共に最高。
 皆がニューヨークを舞台とした映画に何を求めているかは分からないけれど、自分が求めているニューヨークはこの映画にはあった。『プラダを着た悪魔』や『マイ・インターン』といったようなニューヨークの成功者や、富裕層を描いた映画に何の興味もない。ニューヨークのリアルな少女たちの無邪気に遊ぶ姿や、好きなことに一直線な姿、その一方で彷徨い混迷しながら毎日を過ごす姿は、とても華々しくも危なっかしい。
 2019年は青春映画が豊作な年だった。

〈作品データ〉
脚本:クリスタル・モーゼル ジェン・シルバーマン
出演:レイチェル・ビンベルク エリザベス・ロドリゲス
   ジェイデン・スミス
音楽:アスカ・マツミヤ
撮影:シャビール・キルチネル
原題:Skate Kitchen
時間:106分

 

⑮『ミスエデュケーション』(デジリー・アカヴァン

ジャンル:ドラマ
製作国:アメリカ

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〈あらすじ〉
 1993年。交通事故で両親を亡くした高校生キャメロンは、保守的な叔母のもとで暮らしている。プロムの夜、彼女は車の後部座席で同性の恋人とセックスしているところを同級生に目撃され、同性愛者であることを周囲に知られてしまう。激怒した叔母により、矯正治療施設「神の約束」に無理やり入所させられたキャメロンは、理不尽な治療に抵抗しながらも、同じく入所者のジェーンやアダムと絆を深めていく。

〈説明・感想〉
 「キック・アス」シリーズのクロエ・グレース・モレッツがLGBTの高校生役に挑み、サンダンス映画祭でグランプリを受賞。

 一見、青春映画のように見えるかも知れないが、そんな優しいものではない。かなり苦しい映画だ。日本では劇場公開もされておらず、DVDのみで知名度も低い、しかし観賞後ずっと頭にこびり付いて離れない。
 映像、音楽ともに優しく、少なからず楽しい部分もあり本作を絶妙な位置で彩っている。また自然と同じく、キャストも非常に美しく撮っている。クロエ・グレース・モレッツ史上一番の映画であることは間違いないが、私が最も印象的だったのはエミリー・スケッグス。「良い役貰ったなぁ」と思ったし、素晴らしいキャスティングをしたと言える。
 胸が張り裂けそうなほどつらい映画だが、是非観て欲しい。忘れられない映画になる筈。

〈作品データ〉
脚本:デジリー・アカヴァン
出演:クロエ・グレース・モレッツ サッシャ・レイン
   ジョン・ギャラガー・Jr. フォレスト・グッドラック
   ジェニファー・イーリー エミリー・スケッグス
音楽:ジュリアン・ワス
撮影:アシュリー・コナー
原題:The Miseducation of Cameron Post
時間:91分


『女王陛下のお気に入り』(ヨルゴス・ランティモス)
ジャンル:伝記,コメディ,ドラマ
製作国:イギリス,アメリカ

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⑯『CLIMAX クライマックス』(ギャスパー・ノエ

ジャンル:ドラマ,ホラー,音楽
製作国:フランス,ベルギー

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〈あらすじ〉
 1996年のある夜、人里離れた建物に集まった22人のダンサーたち。有名振付家の呼びかけで選ばれた彼らは、アメリカ公演のための最終リハーサルをおこなっていた。激しいリハーサルを終えて、ダンサーたちの打ち上げパーティがスタートする。大きなボールに注がれたサングリアを浴びるように飲みながら、爆音で流れる音楽に身をゆだねるダンサーたち。しかし、サングリアに何者かが混入したLSDの効果により、ダンサーたちは次第にトランス状態へと堕ちていく。

〈説明・感想〉
 ソフィア・ブテラ以外のキャストはプロのダンサーたちが出演し、劇中曲として「ダフト・パンク」「ザ・ローリング・ストーンズ」「エイフェックス・ツイン」などの楽曲が作品を盛り上げる。

 観てみな、飛ぶぞ。
驚異的な長回し。永遠に見ていられるダンスシーン。猛烈に長く感じるトランスシーン。
 注目を浴びるフランス映画ってのは、どうしてこうも変わっているのか。

〈作品データ〉
脚本:ギャーパー・ノエ
出演:ソフィア・ブテラ
音楽:スティーブ・ブイエ パスカル・メイヤー(スーパーバイザー)
撮影:ブノワ・デビエ
原題:Climax
時間:97分



⑰『マリッジ・ストーリー』(ノア・バームバック)

ジャンル:ドラマ,ロマンス
製作国:アメリカ,イギリス

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〈あらすじ〉
 女優のニコールと夫で舞台演出家のチャーリーが結婚生活がうまくいかなくなり、円満な協議離婚を望んでいた2人だったが、それまで溜め込んでいた積年の怒りがあらわになり、弁護士をたてて争うことになってしまう。

〈説明・感想〉
 NETFLIXオリジナル作品。2019年・第76回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品。

 スカーレット・ヨハンソン史上最高傑作と言いたいぐらい。アカデミー賞ではローラ・ダーンが賞を取りはしたか、彼女が無視されたことに憤りを覚える。

 歳をとって観なおす度に、この映画の印象は毎度変わっていくんだろうなと思った。
 毎日を生きるだけでも難しいのに、歳をとって考えることや悩みが増えれば、もっと生きるのは難しくなるのかなと思うと、初老の自殺者の多さに少し納得してしまう。

 母校で定年間近の男性教員が職員室で自ら命を絶った。あと少しで退職か、いやあと少しで先の見えない未来があった。そして現状にも絶望していたんだろうかと考える、そして考えは尽きない。話しがそれたけど、本作の内容は直接的な死ではない。人との接し方、そして生きることだ。でも映画を観て、何かを考えることは皆がやることだと思うし、それぞれ考えもあると思う。
 本当に生きることって難しいと思う。理想の人生を追い求めることに、皆必死だし、苦労してるし、頑張ってる。情けは人のためならず。

〈作品データ〉
脚本:ノア・バームバック
出演:スカーレット・ヨハンソン アダム・ドライバー 
   ローラ・ダーン
音楽:ランディ・ニューマン
撮影:ロビー・ライアン
原題:Marriage Story
時間:136分


⑱『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(クエンティン・タランティーノ

ジャンル:ドラマ,コメディ
製作国:アメリカ,イギリス,中国

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〈あらすじ〉
 テレビ俳優として人気のピークを過ぎ、映画スターへの転身を目指すリック・ダルトンと、リックを支える付き人でスタントマンのクリス・ブース。目まぐるしく変化するエンタテインメント業界で生き抜くことに神経をすり減らすリックと、いつも自分らしさを失わないクリフは対照的だったが、2人は固い友情で結ばれていた。最近、リックの暮らす家の隣には、気鋭の映画監督ロマン・ポランスキーと、その妻で女優のシャロン・テートが引っ越してきていた。

〈説明・感想〉
 クエンティン・タランティーノの9作目。
 とある実話に基づく本作。その実話を知って観た方がいいのか、知らずに観た方がいいのか、それは個人の判断にまかせます。

 タランティーノは本当に映画が上手い。ストーリーのみをただ文章で書き出しただけでは、そんなにときめくものが無い気がするのに、タランティーノの腕に掛かれば、地味なシーンでも100点のシーンに変わってしまう。前作『ヘイトフルエイト』は視覚的部分と聴覚的部分に限界があった作品だった。それでも勿論素晴らしいことに変わりはないけれど。しかし、本作はバラエティ豊かな音楽に、景色の色も変わる。
 完璧な脚本とキャスティングに、楽しさも溢れる完璧なシーンの連続。
 “今私は映画を観ている”、そんな感覚がずっと押し寄せて来る。

〈作品データ〉
脚本:クエンテイン・タランティーノ
出演:レオナルド・ディカプリオ ブラッド・ピット マーゴット・ロビー
   マーガレット・クアリー ダコタ・ファニング アル・パチーノ
音楽:ホリー・アダムス メアリー・ラモス 他
撮影:ロバート・リチャードソン
原題:Once Upon a Time... in Hollywood
時間:161分


⑲『ジョーカー』(トッド・フィリップス

ジャンル:クライム,ドラマ,スリラー
製作国:アメリカ,カナダ

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〈あらすじ〉
 「どんな時でも笑顔で人々を楽しませなさい」という母の言葉を胸に、大都会で大道芸人として生きるアーサー。しかし、コメディアンとして世界に笑顔を届けようとしていたはずのひとりの男は、やがて狂気あふれる悪へと変貌していく。

〈説明・感想〉
 第79回ベネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品され、DCコミックスの映画化作品としては史上初めて、最高賞の金獅子賞を受賞。

 何から手を付ければいいのやら。監督のトッド・フィリップスはもちろんだが、特に褒めたいのは主演のホアキン・フェニックスと音楽のヒルドゥル・グドナドッティル。
 ホアキンの名演技には、どんな褒め言葉でも不足しているように感じる。『オールド・ボーイ』のチェ・ミンシクを見ている時の感覚が一番近い。

 音楽を担当したヒルドゥルは、ヨハン・ヨハンソンの弟子。そしてヒルドゥルは、HBOのテレビシリーズ『チェルノブイリ』も担当している。ヨハン・ヨハンソンの意思を受け継ぎつつも、自身の色に満ち満ちている音楽は、感情を揺れ動かされ陶酔する。この先20年、30年以上の間、映画界を牽引する作曲家であることは間違いない。もう圧倒的ヒルドゥル・グドナドッティル、彼女は素晴らしい。アカデミー賞を受賞するのは必然だった。
 内容については一言も触れたくない。自分の意思で決めて自分の意思で観るべき。そんなことも自分で決められないのなら映画を観るのを止めてしまえ。

〈作品データ〉
脚本:トッド・フィリップス スコット・シルバー
出演:ホアキン・フェニックス ザジー・ビーツ フランセス・コンロイ
   ロバート・デ・ニーロ
音楽:ヒルドゥル・グドナドッティル
撮影:ローレンス・シャー
原題:Joker
時間:122分


⑳『スパイダーマン スパイダーバース』( ボブ・ペルシケッティ ピーター・ラムジー ロドニー・ロスマン

ジャンル:アニメ,アクション,ドラマ,アドベンチャー
製作国:アメリカ

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〈あらすじ〉
 ニューヨーク・ブルックリンの名門私立校に通う中学生のマイルス・モラレス。何者かによって時空が歪めらる事態が発生。それにより、全く異なる次元で活躍するさまざまなスパイダーマンたちがマイルスの世界に集まる。

〈説明・感想〉
 第91回アカデミー賞で長編アニメーション賞を受賞。

 紛れ間もなくソニーからディズニーへの挑戦状である本作(果たし状でもいいかも知れない)。今回は、そっちは置いておき映画について。
 あまりの完成度の高さに、こみ上げて来た感情は"嬉しい"だった。こんなにも素晴らしい作品を作ってくれて、そしてそれを見せてくれて感謝しかない。
 子供から大人まで楽しめる映画といっても、結局のところは子供向けという印象が否めない作品が多い。しかし、本作はそんな印象を与えない工夫が随所に凝らされている。ネタバレにならない範囲でいうと、まず音楽。本作の音楽は、子供から大人まで聞くどころか大人の方が聞くといった音楽の方が目立つ。他にはメリハリのあるコントラストにより、場の緊張感を高めたりなど。
 雑念を全て取り除かされ、没入して鑑賞することが出来る映画及び、アニメ映画は滅多にない。今年最高峰の映画で、近年のアニメ映画では断トツで最高傑作。

〈作品データ〉
脚本:フィル・ロード ロドニー・ロスマン
出演:シャメイク・ムーア ジェイク・ジョンソン
   ヘイリー・スタインフェルド
   リーヴ・シュレイバー マハーシャラ・アリ
音楽:ダニエル・ペンバートン
原題:Spider-Man: Into the Spider-Verse
時間:117分


『サスペリア』(ルカ・グァダニーノ
ジャンル:ホラー,ファンタジー,ミステリー
製作国:イタリア,アメリカ

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㉑『惡の華』(井口昇

ジャンル:ドラマ,コメディ
製作国:日本

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〈あらすじ〉
 山に囲まれた地方都市。中学2年生の春日高男は、ボードレールの詩集「惡の華」を心の拠り所に、息苦しい日常をやり過ごしていた。ある日、憧れのクラスメイト・佐伯奈々子の体操着を衝動的に盗んだところをクラスの問題児・仲村佐和に目撃されてしまった彼は、秘密にする代わりに仲村からある“契約”を持ちかけられる。この日から仲村に支配されるようになった春日は、彼女の変態的な要求に翻弄されるうちに絶望を知り、自らのアイデンティティを崩壊させていく。

〈説明・感想〉
 累計発行部数300万部を記録し、テレビアニメ化もされた押見修造の同名コミックを、伊藤健太郎と玉城ティナの共演で実写映画化。

 正直、映画としては色々と悪いところはあるし、良く出来るところもたくさんある。どっからどう見ても、中学生には見えないし、映像の色味をもっと考えろとも言いたい。しかし、素晴らしいシーンが多い映画であることも事実。

 本作を観た後、数々の映画を観たが、事ある毎に『惡の華』にも精通している部分はあるなと強く思った。それほど、この映画にこめられたものは、計り知れないほどある。それをどれだけ、受け止められるかはその人次第だし、私が勝手に膨らませている部分もあるとは思うが。

 本作を観終わった後、速効原作を購入した。原作を読んで補完された部分もあると思う。そのため、これが映画としての感想なのか、原作を読んでの感想なのか混ざってしまっているところがある。
 原作を読む必要がある映画や、テレビシリーズの延長線上の映画はもはや映画と呼びたくない考えがあるが、本作にあたっては是非読んでほしい。
 あと予告編はなかなかに最低な出来だ。

〈作品データ〉
脚本:岡田麿里
出演:伊藤健太郎 玉城ティナ 秋田汐梨 飯豊まりえ
音楽:福田裕彦
撮影:早坂伸
原題:惡の華
時間:127分


㉒『アリータ バトル・エンジェル』(ロバート・ロドリゲス

ジャンル:アクション,SF,ドラマ
製作国:アメリカ

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〈あらすじ〉
 数百年後の未来。スクラップの山の中から奇跡的に脳だけが無傷の状態で発見されたサイボーグの少女アリータは、サイバー医師のイド博士によって新たな体を与えられ、目を覚ます。しかし彼女は、自分の過去や今いる世界についてなど、一切の記憶が失われていた。やがてアリータは、自分が300年前に失われたはずの最終兵器として作られたことを知り、そんな兵器としての彼女を破壊するため、次々と凶悪な殺人サイボーグが送り込まれてくる。

〈説明・感想〉
 木城ゆきとによる日本のSF漫画「銃夢」を、同作の映画化を長年にわたり熱望していたジェームズ・キャメロンの脚本・製作により、ハリウッドで実写映画化したアクション大作。

 好きです。嫌いなところは助演のキーアン・ジョンソンぐらいかな。賛否があったアリータのビジュアルも気に入っている。本編だと眼の大きさなんて全く気にならなかったが、予告編を見るとちょっと気になるのが正直なところ。

 本作はIMAXレーザー3Dと通常2Dで観賞した。IMAX3Dで色々な映画を観て来たが、本作が一番感動した。以前のIMAXからIMAXレーザーへと進化した部分も関係あると思うが、『アベンジャーズ エンドゲーム』ではここまで感動しなかった(内容ではなく映像の面で)。
 その後、IMAXレーザー2Dでは『ジョーカー』や『ジョン・ウィック パラベラム』、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』などを観賞。
 私の経験上『アリータ』はIMAX3D史上一番であったと言いたい。池袋のグランドシネマサンシャインのIMAXが現在日本で一番大きいIMAXだが、是非そこで死ぬまでに一度観てみたい。ちなみに、IMAX2Dでは『ダンケルク』が一番感動した。

 そんな色々書くほどの感想もないし、本作がそんな面白い映画とは思わないが、好きな気持ちに嘘はないし、今はただ続編が観たい。
 ローサ・サラザールのキャスティングは実に素晴らしい。

〈作品データ〉
脚本:ジェームズ・キャメロン レータ・カログリディス
   ロバート・ロドリゲス
出演:ローサ・サラザール クリストフ・ヴァルツ
   ジェニファー・コネリー マハーシャラ・アリ
   キーアン・ジョンソン エド・スクレイン
音楽:トム・ホルケンボルフ
撮影:ビル・ポープ
原題:Alita: Battle Angel
時間:122分


㉓『WE ARE LITTLE ZOMBIES』(長久允

ジャンル:ドラマ
製作国:日本

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〈あらすじ〉
 火葬場で出会ったヒカリ、イシ、タケムラ、イクコは、両親を亡くしても泣けなかった。ゾンビのように感情を失った彼らは自分たちの心を取り戻すため、もう誰もいなくなってしまったそれぞれの家を巡りはじめる。やがて彼らは、冒険の途中でたどり着いたゴミ捨て場で「LITTLE ZOMBIES」というバンドを結成する。

〈説明・感想〉
 第69回ベルリン国際映画祭ジェネレーション(14plus)部門でスペシャル・メンション賞(準グランプリ)、第35回サンダンス映画祭ワールドシネマ・ドラマティック・コンペティション部門で審査員特別賞オリジナリティ賞を受賞。
 「そうして私たちはプールに金魚を、」が第33回サンダンス映画祭ショートフィルム部門でグランプリを受賞した長久允監督の長編デビュー作。

 圧倒的“中島セナ”。もしこの映画を観た後、中島セナについて触れないのなら、その人は本編を観てはいないだろう。たぶん撮影時は小学6年生だと思うが、それを考慮してもしなくても唯一無二の役者といえる。
 正直、子役たちがそんな良い演技をしている訳ではないが、彼らを見届けたいと思うほどにはキャラクターといい、物語、キャストの魅力は十分。
 本作が新しい演出をしているのか、それとも私がただ単にこういった映画を避け続けてきたのかは分からないが、私にとってはとても新鮮で、画期的、面白可笑しい映画だった。

 周りを固める役者の豪華さに、毎度驚かされるものの、その要素が本作の邪魔をしているとは思わない。
全てがいい方向に導かれ、良い所と悪い所の判断などつかぬほど、全てに魅力がつまっている。エモーショナルかつ、子供心に溢れた、新鋭・長久允の傑作。

〈作品データ〉
脚本:長久允
出演:二宮慶多 水野哲志 奥村門土 中島セナ
音楽:沖田純之介(サウンドデザイン) LOVE SPREAD
撮影:武田浩明
原題:WE ARE LITTLE ZOMBIES
時間:120分


~まとめ~

 23本も紹介したのはさすがに多い気がする。
 最初に順位はなしと書いたが、BEST10を決めるとするなら①~⑩の10本が対象。特に①~③の三つは、2019年の激推し作品。
 アメリカ映画が多いのは仕方がないが、かなり多国の映画で溢れたのは嬉しい限り。
 特に説明なく、画像のみだけで紹介している作品は印象に残っている映画とか、高評価した映画とかです。ちゃんと紹介した映画よりも高評価しているのもあります。


『ハイ・ライフ』(クレール・ドゥニ)
ジャンル:スリラー,SF,ドラマ,ホラー
製作国:フランス,イギリス

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