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【美術ブックリスト】堀越啓『西洋美術は「彫刻」抜きには語れない 教養としての彫刻の見方』

ロダン作品の日本正規エージェント代表の著者が「彫刻がわかると西洋美術がわかる」をテーマに、彫刻の特徴、鑑賞の仕方、彫刻史をベースに西洋美術史を理解する方法、知っておくべき作品を解説する概説本。

前著『論理的美術鑑賞』と同様、ビギナーにアートの見方を伝授し、アートがわかると人生が豊かになることを提唱している。
ここまでが概要。

ここからが感想。
彫刻に多少でも興味を持った人が、ざっくりと彫刻の基本や常識を学ぶのにはいいと思う。彫像と塑像の違い、鋳造やアッサンブラージュ(組み立て)といった新しい制作方法、古代とルネサンスと近代と現代の時代区分は美術の世界では当然のことでも、一般には理解されていないので、敷居を低くして説明しているのはいいと思う。

これまで彫刻に興味がなかった人に興味をもってもらうための工夫があればもっとよかった。最近は「教養として」「ビジネスエリートのため」「美意識を鍛える」などがビギナーを増やす常套句としてアート本のタイトルやサブタイトルに頻繁に使われるけども、使われすぎてインパクトが薄くなっている。(その点、『怖い絵』はまだ有効のよう)

「彫刻はこんなにおもしろい」という第1章が、彫刻の定義から始まるのは硬すぎるので、もっと彫刻の面白さの具体例から入った方がよかった。例えば人魚姫、小便小僧、マーライオン、大仏をあげて、世界の目玉の観光施設には彫刻作品が多数あり、その言われを知っているとその国のことがよくわかるとか、日本ではやたらと街角に裸体彫刻があるけど、海外にはないとか。そんな卑近な例から彫刻の本格論へと進んだ方がよかったのではないかと思う。

彫刻の歴史も淡々としすぎていて、やや物足りない。また彫刻がわかると西洋美術がわかるというのだから、例えばルネサンスの彫刻は古代彫刻とどう違い、それが同時代の絵画にもどう共通しているかといった説明が欲しかった。時代によって彫刻の役割もまちまちで、特に近代までと違い、現代では野外彫刻、フィギュア、置物、オブジェ、インスタレーションなど彫刻は多様な存在様式をとっていることも現代アートを読み解く鍵になる。そうした彫刻からアート全般を見通す視点をもっと打ち出せたはずなのでもったいないと思う。

240ページ 四六判 2200円 翔泳社



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