画廊主催のコンクール

昨日、画家志望の若い子に話したこと。画廊主催のコンクールについて。ちょっと長め。

美術コンクールは画家になるための手がかりの1つではありますが、唯一の方法ではありません。よって入選すれば喜べばいいけども落選したからといって落胆してはいけないのです。むしろ落選したことすら、次への手がかりにする方法はいくらでもあります。

さてコンクールには大きく分けて、自治体主催、美術館主催、企業主催、画廊主催、媒体主催の5つがあり、それぞれ特徴があります。

なかでも最近増えているのは画廊主催のコンクールで、50年以上続く日動画廊の「昭和会」のほか、永井画廊「公募日本の絵画」、美の起源の「美の起源展」、かわうそ画廊「かわうそ新人賞」、今年スタートするギャラリーSEEK「アーティスト・ニューゲート」などがあげられます。

画家を発掘し育てていくという動機は共通していますが、詳しく見ると目的は異なっていて、それは副賞や審査員の選定の違いとなって表れています。
昭和会は画家の発掘と育成が主目的で、賞金のほか画廊での個展やグループ展のチャンスを与えることで画壇へと後押しし続けています。第一回グランプリの奥谷博さんをはじめ文字通り画壇を牽引する作家を育てていて、後のコンクールのモデルにもなっています。最近ではパリで滞在制作できるパリ賞など育成のための新しい賞もできました。

公募日本の絵画は「いまの日本の息吹きを伝える絵画」の発掘が目的で、年齢不問。「いまの日本」を表現することにポイントがあるので、審査員も千住博、布施英利といった世界の中の日本の美術という視点で作品を見られる人選になっています。ヨコハマインターコンチネンタルホテルの広いロビーに大作をズラリと並べる入選作品展にもこの理念は反映されていましたが、今年は銀座の永井画廊が会場となり、それにともなって作品サイズも30号までになりました。また自然と人間をテーマにしているのも、ただ自由に描くのではなく第三者からの要望に応えるのがアートの本来の姿ではないかという思いもあります。

かわうそ新人賞は、これまで画壇に登場してきていない新人に広くチャンスを与えるのが目的です。新人賞といいつつ年齢上限はありません。というのは、例えば若い時に美術を志したものの一般就職したり結婚したりして美術の道を断念した人はとくに地方に多く、そういう人でも再び挑戦して新人として評価したいという気持ちからです。実際、10歳代から90歳代まで応募者はいて、学校の先生が入選を機に展覧会に発展し人気が出たため退職して制作に専念することになった例があります。また美大を出たあと結婚して家庭に入った方が、子育てまで終えてもう一度アーティストをめざすこともあります。ビギナーに出品しやすいようにとサイズは10号と小さめ。いわゆる美術的な評価というより市場に受け入れられることを志向しているので、審査員は評論家ではなく、実際に作品を購入してくれるコレクターさんたちです。

アーティスト・ニューゲートは、若手アーティストを世に送り出し、消費されるのではなくプロとして活躍する道筋を作る目的で設立されました。そのため副賞に画廊だけでなく百貨店での発表機会を設けたり雑誌やテレビへの出演を約束して活動のフィールドを広めるところが特徴です。

出品する側は審査員の顔ぶれと賞金の多寡しか見ないようです。つまり自分が評価されやすいかどうか、受賞したときにいくらもらえるかで出品を選ぶ傾向があるようです。しかし、大切なのは主催者が何を理想にしているかであり、それによって求められる作品やアーティスト像が違います。そうした理想に応えるという高い意識でコンクールには挑戦してほしいものです。
媒体主催のコンクールについては、そのうち説明します。

2020 年11月21日

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