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【美術ブックリスト】Brainard Carey『FUND YOUR DREAMS ; Like a Creative Genius』

先週紹介した『Making it in the Art World : Strategies for Exhibitions and Funding』(美術界で成功する : 展覧会と資金集めのための戦略)が面白かった。

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そこで同じ著者が三年前に書いた比較的手軽なガイドブックを取り寄せて読んでみた。こちらはアーティストが成功するための戦略ではなく、より具体的な資金集めの「戦術」をこれでもかというほど例示していく。訳すと『夢を実現する資金集め 天才クリエーターの流儀』といったところか。はじめに心構えとして、アーティストは起業家精神が必要であるという前提が示される。

最初に薦めるのはオークション。これはサザビーズやクリスティーズの話をしているのではなく、個人的なオークションのこと。地域の催しや地域の同業者の集まりのイベントとして、オークションを開催してはという話。手を上げて値段を吊り上げていくいわゆる「競り」形式のものもあるし、札に値段を書いて後で集計して採鉱学を書いた人が落札する「入札」もある。そのための人集めの戦術としてドリンクを提供したり、簡単なクジを発行して、抽選で当たった人に小品やドローイングをプレゼントしたりアトリエツアー参加権を与えるというアイデアもある。

このあとアートをテーマにした夕食会での資金集め、募金として集める方法、デザイン(Tシャツやグッズなどのデザイン)を売りにする方法、アートフェスを催して人を集める方法、スポンサーへの手紙作戦、愛犬家や愛猫家などペットの愛好家が集まるイベントで作品を販売する方法など。思いつく限りの資金集めの方法が書き出されている。ここまでが概要。

ここからが感想。学校の父兄会によるバザーや地元商工会が主宰する季節の祭りみたいなアイデアもあるけども、なんであれ自身の創作活動を通じて周囲の人に働きかけることを伝えたいようだ。

アーティストというと美大芸大で学んで画廊で展覧会を開き、美術ファンが見て買ってくれて、人気が出るとメディアに乗って有名になる、という出世の直線がイメージされる。しかしそんな人任せに単線的に出世する人は日本でもほとんどいない。

パーティーの文化があるアメリカならではの発想なので日本では無理と思うかもしれない。しかし日本でも地元のイベントスペースや町のコミュニティスペースを借りてオークション形式の絵画販売会をすることは可能だし、バザーとして企画して洋服やアンティークを集めてもいい。とにかく場を作って、そこに出品するというチャレンジが大事だ。自分から人を集めてもいいし、そこでデモンストレーションしてもいいし、似顔絵を描いてもいいし、ペットの肖像画を描いてもいい。知り合いの会社や団体に売り込んでグッズのデザインをしてもいいし、社屋に壁画を描かせてもらえないかと頼んでもいい。

起業した人はみな初めから成功すると思ってやっていはいない。ただ目の前の面白いこと、便利だと思ったこと、人が喜ぶごとを続けて大きくなっていった。そうしたチャレンジはアーティストにも求められる。制作、コンクール出品、評価してくれる人探しなどアーティストもいろいろしなければいけないことは多いが、なかでも資金集めは切実なはず。これをそのまま実行するわけにはいかないが、自分なりの方法を考える参考になると思う。

 ‎ 160ページ、15.57 x 1.02 x 15.57 cm、 2992円、Allworth Press

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