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美術・アート系の本

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美術に関する新刊・近刊を中心にしたブックレビューです。
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#彫刻

【美術ブックリスト】上路市剛作品集『受肉|INCARNATION』上路市剛著

ミケランジェロ作のダビデ像、康勝作の空也上人立像などの著名作品をモチーフに、生身の人間のようにリアルな彫刻へと作り上げる彫刻家による作品集。 美術史では語られてこなかったが、著者はこうした過去の作品には「同性愛的美意識」があったはずで、それを現代的な視点で再現しているとのこと。原型制作、型取り、彩色、植毛などの工程を経た制作は、彫刻というより「受肉化」といった方が良いようで、タイトルはそれに因む。巻末に制作に関する作家インタビューを収録。 上路市剛によるオリジナル義眼(桐

【美術ブックリスト】『わからない彫刻 つくる編 (彫刻の教科書 1) 』 冨井大裕、藤井匡、山本一弥編

武蔵野美術大学がおくる『彫刻の教科書』第1弾。(第2弾「みる編」が予定されている) 素材も技法も多様となり、他のジヤンルとも重なるため「彫刻とは何か」は特定できず、その概念は人の数だけ存在するという理由で、「わからないもの」とされる彫刻を、多様な理解のままで提示する。 各項目に論者が二人立てられる。 例えばモデリング=塑造の章は、粘土、型取り、樹脂といった素材と技法それぞれに対して、二人が別々の文を寄せる。制作方法の解説と体験的エッセイだったり、制作の段取りと歴史解説だった

【美術ブックリスト】『パブリックアート入門』浦島茂世著 イースト・プレス

副題は「タダで観られるけど、タダならぬアートの世界」。 街中や公園、駅や建物などの公共空間に設置される彫刻や壁画をパブリックアートという。本書は全国各地のパブリックアートの具体例を挙げて、設置の経緯、制作者の意図、市民の反応などをひとつひとつ解説していく。岡本太郎の「太陽の塔」「明日の神話」、瀬戸内の草間彌生のかぼちゃなど、著名芸術家のものから、商店街の片隅の銅像まで範囲は広い。 どんな時代の要請でこうした彫刻や壁画が「生産」され、「消費」され、時に「廃棄」されるのかという歴

【美術ブックリスト】『絹谷幸太作品集 KOTA KINUTANI』

彫刻家・絹谷幸太の初の本格的作品集。 現在開催中の池田20世紀美術館「絹谷幸太・香菜子 二人展 万物の鼓動」(2023年1月10日)に合わせて刊行。最新の大型彫刻作品にこれまでの代表作を加えて収録。 作家自身による作品解説、土方明司氏による論考を収録。 ここまでが概要。 ここからが感想。 池田20世紀美術館の展示では、石を積み上げた作品のほか、あえて自然の姿を残した木の彫刻もあって楽しめた。 野外であれ屋内であれ、一度設置されると移動することのない彫刻作品は、現場に行かない

【美術ブックリスト】『誰のための排除アート?: 不寛容と自己責任論』五十嵐太郎

著者は建築史が専門の大学教授。 寝そべることのできないベンチ、突起物で埋め尽くされた空き地など、都市空間にたくさん見られる「排除アート」の成立と問題点を考察する。2020年東京・幡ヶ谷で起きた女性ホームレス殺害事件を機にひろがったものだが、それ以前から新宿西口地下街のホームレスを排除したあとに動く歩道とともに設置された突起物など前例は多数あった。 ホームレスという特定の層のみに有効な排除目的のものがアートの名目で公共空間に増えることへの疑問から、実態を批判的にレポートしたのが

【美術ブックリスト】『マン・レイのオブジェ日々是好物 いとしきものたち』DIC川村記念美術館

DIC川村記念美術館開催の同名展覧会の公式図録兼書籍。20世紀のアメリカとパリを舞台に活躍した芸術家のオブジェ50点のほか写真、絵画、版画、映画、印刷物など約150点を集める。知的な言葉遊びと違和感が感性を刺激するオブジェの数々を、美しい写真とレイアウトで堪能できる。 B5判変 208ページ 3000円+税 求龍堂

【美術ブックリスト】『東京藝大・クローン文化財』宮廻正明、深井隆監修、 I K I編著

東京藝術大学がデジタル技術とアナログ技術を駆使して文化財を解析、復元する「クローン文化財」。その12年間の成果をまとめたもの。2D、3Dデジタル技術の進化は複製技術を飛躍的に進歩させただけでなく、平面データから立体を生み出したり、復元された文化財は移動・公開されて文化財鑑賞のパラダイムを変えるなど、単なる複製のクオリティ以上の次元の違う変革をもたらした。 アフガニスタンの壁画、北朝鮮の墓、オルセー美術館の絵画、ミャンマーの寺院など、これまで手がけてきた実例を写真で紹介していく

【美術ブックリスト】『物語で読む国宝の謎100』かみゆ歴史編集部

国宝といっても絵画、彫刻、工芸、歴史的資料、建造物など多岐にわたり、現在のところ1131件もの登録がある。という。その国宝にまつわるウンチクを100問のQ&A方式で解説したもの。第1章「知っておきたい国宝の基礎知識」は、重要文化財や重要美術品とどう違うか、国宝は誰が決めているのかなどの基本を教えてくれて勉強になる。第2章から個々の美術品や建造物についての、知っていると話しのネタにはなる小噺が続く。 ここまでが概要。 ここからが感想。 「物語で読む」「ドラマがある」という割に

【美術ブックリスト】『アートとは何か』アーサー・C. ダントー

‎ダントーはもともと哲学者として分析哲学の領域で業績がある人らしいが、その一方で美術批評も手がけ、「アートワールド」という概念を提唱した人でもある。この概念が現代美学にアートを思考するひとつのパラダイムを開いたとされている。本書は遺作であり、ウォーホールやデュシャンを導きの糸としてアートを再定義するとともに、アートの終焉についても論じている。 ここまでが概要。 ここからが感想。 結論だけをいうとダントーによるアートの定義とは「受肉化された意味」である。要するになんらかの意味

【美術ブックリスト】矢部裕輔『Hirosuke Sculptures』

彫刻家・矢部裕輔の初めての作品集。1972年神奈川県生まれ。東京造形大学彫刻科卒業後にさらに研究生として2年学び、現在は国内外で活発に発表をする。 木材、木片、廃材を使って、表面をドリルで穴だらけにしたり、削り跡を残した作品。モンスターや悪魔が怖さというよりユーモラスな造形となっている。「人間とは何なのか?」がテーマ。 ここまでが概要。 ここからが感想。 アトリエというか作業場で、工具のなかに置かれた人形のような作品が面白くもある。怖さは全然感じない。こけしのような素朴さ

【美術ブックリスト】堀越啓『西洋美術は「彫刻」抜きには語れない 教養としての彫刻の見方』

ロダン作品の日本正規エージェント代表の著者が「彫刻がわかると西洋美術がわかる」をテーマに、彫刻の特徴、鑑賞の仕方、彫刻史をベースに西洋美術史を理解する方法、知っておくべき作品を解説する概説本。 前著『論理的美術鑑賞』と同様、ビギナーにアートの見方を伝授し、アートがわかると人生が豊かになることを提唱している。 ここまでが概要。 ここからが感想。 彫刻に多少でも興味を持った人が、ざっくりと彫刻の基本や常識を学ぶのにはいいと思う。彫像と塑像の違い、鋳造やアッサンブラージュ(組み

【美術ブックリスト】 小田原のどか『近代を彫刻/超克する 」

著者は彫刻家であり、彫刻に関する研究家でもあり、評論も執筆する。『彫刻1』所収の「空の台座──公共空間の女性裸体像をめぐって」という論文などで、全国にあまたとある街角の女性裸体彫刻が日本に特有のものであり、しかもそれは戦後日本の平和という概念の流布とともに広がっていった特殊なものであることを論じて注目された。 本書は同じ問題意識のもと、日本の近現代史を彫刻というもっとも公共性をもった芸術形式から読み解く。 第1章は先述の女性裸体像がどのような経緯で多数つくられ設置されてい

【美術ブックリスト】 大塚幹也・ 田島整・大宮康男『静岡県で愉しむ仏像めぐり』

東は伊豆から西は浜松あたりまで静岡県の仏像をめぐる9つのコースと愛知県の豊橋市と豊川市の1コースを紹介するガイドブック。 図版やイラストが大きくて見やすい。具体的なお寺の個々の仏像について、ひとつひとつ意味や特徴を教えてくれる。寺の来歴にも触れている。美術館や郷土資料館所蔵の仏像のコースもある。ここまでが概要。 静岡の地元愛と仏像好きが折り重なってできた本であることがよくわかる。仏像を通してお寺をめぐり、ふるさとの歴史を発見することにつなげようということだろう。 ところ

【美術ブックリスト】 江里康慧『仏師から見た日本仏像史 一刀三礼、仏のかたち』

仏像の歴史はこれまで日本美術の美術史学の研究対象であった。つまり主に大学教授や美術館学芸員によって語られてきた。本書は現役の仏師が、制作者の視点から日本の仏像について、伝来から発展、衰退と復興といった歴史を解説する。フォルムつまり外見や構造つまり設計の変遷に終始するのではなく、制作技法が時代によって変化していった必然性や使用される素材が日本の風土に根ざしているという解説など、実際に制作するからこそ指摘できる見解が多い。 もともと悟りの境地は不可視であることからインドでは像は