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美術・アート系の本

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美術に関する新刊・近刊を中心にしたブックレビューです。
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2022年5月の記事一覧

【美術ブックリスト】『朝倉摂の見つめた世界 絵画と舞台と絵本と』

神奈川県立近代美術館 葉山で開催中の回顧展「生誕100年 朝倉摂展」の公式図録兼書籍。展覧会は練馬区立美術館は6月26日(日)~8月14日(日)、福島県立美術館 は9月3日(土)~10月16日(日)に巡回する。 舞台美術家として大成した朝倉摂は、もともと伊東深水に学んで日本画として出発し、戦前の文展や新美術人協会にも入選、戦後も創造美術や新制作協会に出品していた。また絵本や挿絵の仕事も数多く残していて、舞台芸術以外の業績を掘り起こして紹介している。もちろん舞台装置の記録やス

【美術ブックリスト】谷川俊太郎詩、山中現画 後藤眞理子編『アトリエに来たコトバ 詩画集minimal』

2002年の谷川俊太郎の詩集『minimal』の30篇の詩のそれぞれを山中現がイメージして絵画を制作。誰かから依頼されたわけではなく、画家の自主的な行動で「この詩集を読んでいると夢中になりどんどんイメージが湧き上がってきた」とのこと。「谷川俊太郎の世界を描く」展を開催し、関連して詩画集を出版した経緯のあるギャラリーオーナーの後藤氏が制作に携わった。 詩はシンプルな三行詩で、木版画家として知られる山中現だがこれは水彩で描いている。ここまでが概要。 ここからが感想。 詩画集とい

【美術ブックリスト】堀越啓『西洋美術は「彫刻」抜きには語れない 教養としての彫刻の見方』

ロダン作品の日本正規エージェント代表の著者が「彫刻がわかると西洋美術がわかる」をテーマに、彫刻の特徴、鑑賞の仕方、彫刻史をベースに西洋美術史を理解する方法、知っておくべき作品を解説する概説本。 前著『論理的美術鑑賞』と同様、ビギナーにアートの見方を伝授し、アートがわかると人生が豊かになることを提唱している。 ここまでが概要。 ここからが感想。 彫刻に多少でも興味を持った人が、ざっくりと彫刻の基本や常識を学ぶのにはいいと思う。彫像と塑像の違い、鋳造やアッサンブラージュ(組み

【美術ブックリスト】 稲庭彩和子編著『こどもと大人のためのミュージアム思考』

「Museum Start あいうえの」は、美術館、博物館、動物園、音楽ホール、図書館が密集する上野公園で、9つの文化施設が合同で行うプロジェクトの名称のこと。こどもたちにミュージアムでの体験をスタートしてほしいという思いで始まった体験プログラム。 本書は企画・運営した学芸員やスタッフといった当事者による2013年度から2021年度までを振り返った記録であるとともに、ミュージアムでモノを見て思考する体験を創造的な新しい学びとして「ミュージアム思考」の名の下に理論と実践の両面

【美術ブックリスト】水藤龍彦『知られざる日本工芸コレクション: ハンブルク美術工芸博物館とユストゥス・ブリンクマン』

ハンブルク美術工芸博物館の提唱者で、初代館長のユストゥス・ブリンクマンは、1873年のウィーン万博で日本の美術工芸作品に衝撃を受け、その後の人生をかけてドイツ、そしてヨーロッパにその素晴らしさを伝えようと尽力した。 残された文献、講演原稿などをもとに、一人の博物館館長が日本美術から何を受け取り、ドイツの美術界に何をもたらそうとしたかを明らかにする。 ここまでが概要。 ここからが感想。 ヨーロッパにおける日本美術の受容といえば、1867年のパリ万博を皮切りにまきおこり、さら

【美術ブックリスト】藤木晶子『竹内栖鳳 水墨風景画にみる画境』

東の大観、西の栖鳳と呼ばれた近代日本画壇の巨匠・竹内栖鳳(一八六四~一九四二)。これまで竹内の評価と研究は前半生に集中していたという。本書は、後半生に進展を見せた水墨風景画について論じる。水墨の技法、題材、取材、表現、当時の画壇の動向など、多角的な観点から分析し、栖鳳晩年の水墨風景画を近代日本美術史に位置付ける。ここまでが概要。 ここからが感想。 非常に綿密な研究書というのが率直な感想。特に水墨風景画の一つの典型として茨城県の水郷潮来に取材した作品を取り上げた第三章が出色。

【美術ブックリスト】 一般財団法人長野県文化振興事業団『シンビズムの軌跡 信州ミュージアム・ネットワークが生んだアートプロジェクト』

2015年に長野県が文化振興元年を宣言し、翌年長野県芸術監督団事業がはじまった。芸術監督に就いた本江邦夫氏の提唱で、長野県内の公立、市立の美術館施設、フリーの学芸員の共同企画によって展覧会を開催することとなり、その展覧会シリーズが「シンビズム」と呼称されることとなった。 2018年から4回の展覧会が県内14会場で開かれ、若手の現代作家から戦後美術史を語る作家まで、総勢65名の県ゆかりの作家を紹介。学芸員自身が作家を選び、所属を超えて切磋琢磨しながら企画、開催された。 足掛

【美術ブックリスト】 岡倉登志『岡倉天心の旅路』

著者は岡倉天心の曾孫。 天心の欧州調査旅行・中国調査旅行におもな焦点をあてる。欧州、中国、インドへの旅とともに当時の人間関係とくに森鴎外や夏目漱石、幸田露伴、タゴールなどの小説家との交流を盛り込んでいる。ここまでが概要。 ここからが感想。 思想家、文化人として知られる天心についての評伝。親族の歴史をひもといているだけあって、天心へのリスペクトと愛情がある。ただしところどころ著者の想像というか空想が入り込んでいるので完全な史実でないことは注意しておくべき。 ところで岡倉天心

【美術ブックリスト】中之島芸術文化協議会編『待ってたぞ! 美術館 大阪中之島美術館開館に寄せて』

構想から40年でようやくできた大阪中之島美術館の開館を記念して、関係者と識者のお祝いの言葉を集める。ずっと期待されながらなかなか建設が進まず、諦める声もあったので、完成、開館したというただそれだけで多くの人が祝辞を述べたことがわかる。ここまでが概要。 ここからが感想。基本的にはお祝い事なので楽しく読めるはずなのだが、やや編集の弱さが目立つのが残念。 第一部の対談と第三部の座談会は、いずれも関係者によるもの。美術館ができるまでの困難とこれからの期待が語られる。しかし本文を読ま

【美術ブックリスト】 エド・サイモン著、加藤輝美,野村真依子訳『アートからたどる 悪魔学歴史大全』

悪魔学大全というだけあって、文字数も図版数も多く分厚い。絵画や挿絵といった主に絵画に絵が描かれた悪魔や地獄のイメージから、時代ごとの悪魔についての言説や思想を解説していく。ここまでが概要。 ここからが感想。神を研究する神学があるように、悪魔を研究するのが悪魔学であるというくらいは分かるのだが、その先はまさにこうした研究書を読まないとわからないことも多い。デーモンとデビルとサタンとの違いは何なのか。魔女とはどう関係するのかなど。辞典ではないので、そうした言葉の意味を定義してく

【美術ブックリスト】岡部昌幸監修『西洋美術 105人の巨匠』

105人の画家の代表作と逸話をたどることで、西洋絵画史を一気に理解できると謳う。ランブール兄弟、ファブリアーノで始まるところから見て分かる通り、有名画家ばかりでない。ファン・エイクでようやく知られた名前にたどりつき、13番目にやっとレオナルド・ダ・ヴィンチが登場する。 画家ひとりにつき代表作1ないし2点の作品画像を掲載して解説。作家については画業よりも人間関係、師弟関係、金銭問題、犯罪、自殺などのエピソードを豊富に紹介しているのが特徴。ここまでが概要。 ここからが感想。1