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【美術ブックリスト】中之島芸術文化協議会編『待ってたぞ! 美術館 大阪中之島美術館開館に寄せて』

構想から40年でようやくできた大阪中之島美術館の開館を記念して、関係者と識者のお祝いの言葉を集める。ずっと期待されながらなかなか建設が進まず、諦める声もあったので、完成、開館したというただそれだけで多くの人が祝辞を述べたことがわかる。ここまでが概要。

ここからが感想。基本的にはお祝い事なので楽しく読めるはずなのだが、やや編集の弱さが目立つのが残念。
第一部の対談と第三部の座談会は、いずれも関係者によるもの。美術館ができるまでの困難とこれからの期待が語られる。しかし本文を読まないとどういう役回りの人かよくわからないので、肩書きだけでも先に明示しておいて欲しかった。またあまり「編集」されていないようで、現場で語られた言葉をそのまま収録していて通常カットすべき無駄な部分も多いのが読みづらい。

第二部は芸術家だけでなく、漫才師、スポーツ選手、経済人などほんとうにさまざまな人たちがそりぞれの立場から祝辞を述べる。その多くが「大阪中之島美術館の開館によせて」という同じタイトルなのだけど、これは編集者の方でつけたほうが良かった。

一番面白かったのは、日本画家・畠中光享氏の一文で、祝辞のかたちを借りて美術館と日本の美術界への批判を展開されている。かいつまんで挙げると「最初の構想があったとき(中略)かなり一貫性のない膨大な作品が収集された」「日展日本画など団体展は、いまだ後期印象派の枠から出ていない」のあと、この美術館の柱となる佐伯祐三、モジリアニ、具体美術についてかなり手厳しいことを言っている。そして最後に京都は「大いなる田舎となってしまったので関西経済の中心である大阪に望む」というやや屈折した期待で終わる。

これを読むだけで一冊の価値はあったと思う。


214ページ 四六判 1650円 澪標

第一部 再現する都市大坂を目指すために
大林剛郎(大林組代表取締役)VS 菅谷富夫(大阪中之島美術館館長)

第二部 大阪中之島美術館開館に寄せて
青芝フック、朝原宣治、有栖川有栖、池田知隆、今井祝雄、上田恭規、上野公嗣、浮舟邦彦、梅本史郎、大久保英治、大澤辰男、大林剛郎、小笠原由祠、奥野卓司、尾崎裕、越智裕次郎、織作峰子、桂南光、桂米團治、加藤義夫 ほか

第三部 座談会 大阪中之島美術館を語る
大林剛郎、越智裕次郎、喜多俊之、北川淳一、島敦彦、出川哲郎、延原武春、堀井良殷、呂太夫、和田誠一郎

特別インタビュー:山本雅弘(毎日放送最高顧問)に聞く

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