<連載長編小説>黄金龍と星の伝説 ‐第二章/ふたつの葛藤‐ 第28話
戦士の過去 -1
ルイは目の前の景色の朦朧とするなかで、
しかし意識はあざやかに、
これまでの人生をふりかえっておりました。
ルイの母親はからだが弱く、ルイは、自然分娩がむずかしいと判断されて、母親のお腹をひらいてとりだされました。
しかし、ルイを生んだあとも、母親の出血が止まらず、ルイを抱きかかえたまま意識を失うと、その後ふたたび、ルイの顔を見ることはなかった。……と、
母親の母である祖母から聞かされました。
祖母は、母親のことについては、
〝マギラ〟の映像を観ながらいろいろはなしをしてくれましたが、
しかし父親のことについては、
たった一枚写真をくれただけで、なにもはなそうとはしませんでした。
父親の写真は、ルイがお腹の中にいるときに、自分のからだを案じた母親が、
「もし私の身になにかあったら、ルイが成長して、自分のことを考えられる歳になったときに、渡してほしい」
と、祖母に託した袋の中に入れてありました。
ルイが八歳になった誕生日の日、
祖母は、ルイの手を取り、母親から託されていた袋を取り出して、
「あずかっていたお母さんの形見だよ」
と掌をひらいて握らせました。
紐で固く縛られた袋の中には、母の写真と、母が肌身離さず身につけていた御守り。
そして……
『ルイのパパ』
と、母の筆跡で裏書きされた写真が一枚入っていました。
写真は、父親がまだ少年の面影をのこしているころに写されたもので、
それを傍でみていた祖母は、
一瞬顔を曇らせて、
「その人は、おまえが産まれるまえに亡くなってしまったんだよ」
と一言いっただけで、
「なぜ、その日になるまでお父さんのことをはなしてくれなかったの?」と訊ねても、
そしてその後も、
「お父さんってどんな人? 優しかった? なにをしてたの?」
と訊ねても、
「おまえのお父さんはいつも余所の国にばかり出ていてねー、お祖母ちゃんも、はなす機会がなかったんだよ。ごめんね」
と応えるだけで、
それいじょうなにもはなそうとはしてくれませんでした。
そのためルイは、
外で、楽しげな家族をみかけても、
そこに……父親のすがたを重ねたことはなく、
また、自分がこの世に生を受けた瞬間、
そこにいて、
喜んでくれたであろう人たちのなかに、
父親のすがたを浮かべることもありませんでした。
やがて成長したルイは、二十歳の誕生日に、お母さんと、そしてだれより尊敬するお祖父さんに宛てて手紙を認めました。
それは、成人した今日の日を、天国から祝ってくれているであろう母親と祖父に、
感謝のきもちをつたえるために綴った手紙でした。
しかしペンは、いつのまにかこころのなかに吹き溜まる、さまざまな思いにむかって走りだしておりました。
*
ルイの母の家系は、優秀な人材を輩出する家柄として知られ、ルイの母親の父である祖父は、有名な科学者であるとどうじに優れた技術者でもありました。
のちに〝マギラ〟と呼ばれることになるNEOエネルギーは、ルイの祖父によって発見されました。
ところが、そのNEOエネルギーが、
世界征服を目論む人物によって戦略兵器に利用されることになり、
ルイの祖父は、その真の目的を知らされないまま、開発研究のリーダーに迎え入れられました。
当時まだ初期の段階にあったNEOエネルギーの開発は、ルイの祖父の考えに従い、
『ここに秘められた力を、人間社会に有効利用するために、
われわれは、どのようなこころがけをもって取り組むべきか』
という、倫理的指針に基づいてすすめられ、
その研究は、秘められた力に対する畏敬の念に充たされ、解明されてゆくプロセスには、夢と希望が溢れておりました。
ところが、NEOエネルギーのなかに強大な物理エネルギーの秘められていることが明らかにされると、
開発責任者と息子は、その本性を現し、
未知なるエネルギーに〝マギラ〟の名を与えると、
ルイの祖父の研究とは逆に、
限界エネルギーを引きだす実験チームを立ち上げました。
その情熱の向けられる先には、
未知なるエネルギーの独占と、こころの内に抱える苦しみを、
粉々にして打ち砕く華やかな景色が描かれました。
開発責任者とその息子は、まだ、思うようにコントロールのできなかった〝マギラ〟を、実証段階と称したメディアむけの公開実験にもちだすと、ルイの祖父の目指す穏やかな状態を保ったNEOエネルギーとの大きさのみを比較して、
「ヤルーセナル博士(ルイの祖父)のすすめる研究は、
税金のむだづかい以外のなにものでもない!」
と糾弾しました。
……ルイの祖父の目指す研究は、
〝マギラ〟のはなちだす強大な力を、
コントロール可能なレベルに保ち、有効利用しようとするもので、そのため時間も費用も要しましたが、この星の環境と人間生活の安全性を第一に考えた理想エネルギーとなすべく、
チームはこころを一丸に研究開発にとりくんでおりました。
しかしこの研究は、もともとが、世界征服を目論む計画の一部にすぎず、
この糾弾によって、ルイの祖父と研究は握り潰されることになり、
不安定な状態をかくされたままの〝マギラ〟は、
開発責任者の目論みどおり、
時の話題を攫って世界中へとひろまり、
ルイの祖父と研究を、
見えない暗がりの中へと沈め込めてゆきました。
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