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<連載長編小説>黄金龍と星の伝説 ‐第二章/ふたつの葛藤‐ 第27話

コボルの王様 -3

 人びとは、サムのことばのひとつひとつを検証するように、沈黙をつづけました。

「……そして、苦しみであるものを切りすてることに成功したと考える人びとは、いずれは、切りすてたはずの苦しみによって、こんどは自分が、……切りすてられる。
と、知ることになるのです。

 それは、
自分の力で苦しみをのりこえた今のみなさんとは異なり、

 切り捨てたはずの存在・・が、その人の人生の前に立ちはだかり、向きあわなければならなくなるときが、
――必ず訪れる。
ということなのです。

 切り捨てたはずの存在・・が、
肉体とこころの痛みをともなった姿となって、
――その人の前に立ち、
その人の行ったことを、
自らの姿・・・・で明かすのです。

 その姿が――、
想像を絶する苦しみとなって、
その人の人生に襲いかかるのです。

みなさん!――、

 わたしが今おはなししていることは、
じつは――、
わたし自身が犯した過ちであるのです。

 わたしはかつて、
〝マギラ〟を呪うあまり、
自分のなかに〝マギラ〟の要素を目覚めさせてしまいました。

 わたしはここにくる前に、
〝マギラ〟によってもたらされる自分の境遇が受け入れられずに、
自分のなかにありもしないできごとをつくりあげて、
『今の自分は、悪によって妨げられた仮のすがたにすぎない』と考え、
いまのじぶん・・・・・・を否定したのです。

 そのためにわたしは、つぎつぎにやってくるに苦しみつづけることになり、
二年半ものあいだ、砂漠のなかをさまよい歩かなければならなくなったのです。

 しかし、不思議な力にみちびかれ、
この町にたどり着き、
そしてこの町で出逢った人によってはじめて、
『じぶんを苦しめていたものとは、じつは、自分がつくりだした世界であったのだ!』と、
気づかされたのです。

 つまり、わたしが切りすてた存在・・とは――、

わたし自身・・・・・であったのです。

 そしてわたしは、この自分が不完全であるがために、
人は独り……この世に生まれ来て、
その孤独と苦しみという不完全な部分をかかえながら、
じぶんを、
つまり……、わたしという存在を、
生かしてゆく道をあゆんでゆくのだ。
――と、

 つまり、生きることを――、
現実と成す機会を、

天がお与えになるのだ! 

――と、識らされたのです。

 そしてその事実は……、

 生きること・・・・・が、

人間ひとりひとりにゆだねられている証である! ――と。」

 こうして、
日に日にサムのはなしに目を輝かせる人がふえつづけ、サムの願いは徐々に、コボル社会のなかへ浸透してゆきました。

――しかしそんなある日、事件は起こりました。

 高い塔の議会は、コボルの町を取り壊し、そこにあらたな塔を建設する都市計画案を立案しそれを全会一致で可決すると、
コボルの人びとへの告知もないまま建設工事にとりかかったのでした。

 光の当たる高い塔の街の影の部分にあたる、廃墟のなかで貧困にあえぐコボルの人びとの生活は、
高い塔に住む人びとにとっては、目にはふれたくない、長年かかえた厄介な問題でした。

 国の議会は、
『国の財産である国土に、これ以上、生産性のないものを放置しておくことは、
国にとっての損失であり、
ひいては社会全体に悪影響をおよぼす、
いわば、悪疫を放置した状態とみなすべきであり、まずは第一に処置すべき喫緊きっきんの課題である!』
と結論づけたのでした。

 しかしその決定が、コボル社会にくすぶっていた火種に油を注ぐことになりました。

 このとき、コボル社会の第二のグループのなかに、
『耐えに耐えてきた思いを、今こそ実行に移すそのときがやってきた!』
と、立ちあがった若者たちがおりました。

 この若者たちは、第二のグループのなかでも小グループをまとめていたリーダーたちで、
『いつかは歴史にのこる英雄のように、戦場の華となって散ってみせん!』
と、堅く誓いあっておりました。

 若者たちは、グループの仲間にむかうと、

「国のおこなう極悪非道を、これ以上、野放しにはさせん!
 我こそは、神に代わって鉄槌てっついを下さん!」
そう叫ぶと、
いくつもの爆薬をからだにくくりつけて、
高い塔にむかって突っこみ、その身もろとも爆破してしまいました。

 第二のグループの最高リーダーは、
自爆した若者たちの勇気を称えて、

「彼らこそが真の勇者である! つぎにつづくのは誰か!」
げきをとばしました。

 檄を受けた小グループのリーダーたちは、
ここで怖じ気づけばたちまち逃げ場を失い、
自分ばかりか、家族までもまきぞえにしてしまう。
と、わかっていたので、
恐れを隠し、
勇ましい雄叫びをあげながら、
その身を爆弾にかえて砕け散ってゆきました。

 人間の、生きる……、命の営みのなかで、
燃える機会を奪われ、暴れまわるそのすがたは、さまざまな痛みをともなって、
コボル社会に培われはじめていたやすらかな空気をも掻き乱して、
国の隅々にまで飛び火してゆきました。

『――しまった! やっと一条ひとすじの光が見えはじめていたやさきに!』
と、こころに叫んでまもなく、
高い塔の街から軍隊が押しよせ、
実行犯のリーダー捜しがはじまりました。

 サムは『キング』の呼び名によって首謀者の一人とされ、牢につながれてしまいました。

 そこには……、ルイもいて、
サムとルイは、べつべつの部屋につながれ、
意識を失うまで鞭で打たれ、
水を浴びせられて意識をもどされ、ふたたび鞭で打たれ……と、
止むことのない拷問にさらされました。

 しかしルイもサムも、口を閉ざしたまま、一言も喋ることをしませんでした。

 それでも五日目には、砂漠を歩きとおしたサムにしても、
体力尽きて意識がもどらなくなってしまいました。

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