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大空を飛ぶカナリア

私は宅配業の電話番をしています。直に配送物に触れることもしばしばあります。今日はちょっと変わったお荷物がありました。それは

でした。箱にはレース鳩と書かれていて、警察から個人の方宛だったので、もしかしたらレース中に迷子になっちゃったのかな?

箱に穴が空いていて、そっと中をのぞくと、可愛いまあるい目がこちらを見ている。クチバシの上の豆みたいなのもちゃんとある(当たり前か)。クーともポーとも鳴かず、おとなしくじっと箱に収まっているお利口さん。ちゃんと飼い主さんに会えたかな。

ふと、自分が飼っていたカナリアのことを思い出しました。わが家は続けて3代くらいカナリアを飼っていました。子供の頃の私は可愛がってお世話していたけれど、残念ながらどの子もあまり懐いてはくれませんでした。みな成鳥になってから買い始めたということもあったのでしょうか。

鳥籠の掃除をするときは、申し訳ないけどそっと掴んで籠から出してテーブルの上にいてもらい、ザルを被せておく。正しいのかどうかわからないけど、いつも母と私との共同作業で行っていました。

ある日、2代目のカナリアの掃除のとき、事件は起きました。ザルを被せるのに失敗し、さらにたまたま縁側の窓も開いていて(おバカな飼い主としか言いようがない)、今だ!とばかりにカナリアは外に逃げて行きました。

しばらく家の外を探していると、少し離れたところから飛び立っていく雀たちの群れに、一羽だけ黄色い鳥が混ざっているのが見えました。ただ呆然と身送ることしかできない母と私。

ああ、ピーちゃん...。

そのまま群れは遠くへ行ってしまい、それっきりカナリアは帰ってきませんでした。

カナリアはスズメ目。大きさも形もスズメに似ています。でも、生態はどうなんだろう。似ているのでしょうか。大勢のスズメたちに混じって飛んでいったピーちゃんは、みんなに馴染めたんだろうか。

ひよこの実験のことを聞いたことがあります。たくさんのひよこに一羽だけ色の印をつける。すると、その一羽を他のひよこたちがいじめるようになる。逆に、一羽だけ残して全員に印をつけると、今度は印のないひよこがいじめられるようになる。実験が実話かどうかは定かではないけど、なんとなくその心理はわかるような気がします。人間も多勢の自分達と違うタイプの少数の人をいじめるものです。自分が理解できないものに対する不安でしょうか、恐れでしょうか。大勢の側にいて安心したいのが動物の本能なのかもしれません。

一羽だけ色の違う、しかもとびきり目立つ黄色のピーちゃんは、スズメたちにいじわるされなかったかな。そして突然外に出て、自分でちゃんと餌をとれたかな。もし辛い思いをしたとしたら、きちんとお世話をできなかった私の責任、本当に申し訳ないことをしたと思います。

せめて大きな空を飛ぶことができたその瞬間は、自由になれた幸せを感じてくれていたらいいなあ。

もう何十年も経っているのに、ときどき思い出しては、そう願わずにいられない私です。

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