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前向きで何が悪い

私はずっと贔屓にしているミュージシャンがいる。初めて彼のその曲を聴いたとき、私は人生どん底だった。そんなときに毎日立ち上がる勇気をくれたのが彼の曲だった。

高橋優の「素晴らしき日常」。
途中まで聴いただけでは世の中終わったみたいな内容の曲だけど、私はおおいに救われた。”まだ笑うことはできるかい?そこから覗いてる西日の色はどんなんだい?”と歌詞に聞かれたときに、まだ笑える、と思った。そして、笑えるならまだ生きていけるって思った。

この曲だけではない。ここにいるよ、とか絆が大事だよ、とかそんなありきたりな歌詞ではない。高橋優が歌う曲はどれも、一言一言がズシン、とかチクッ、とかズキン、と胸に刺さる。それが重すぎると感じる人もいるかもしれないけど。

もう何度もライブに通っているけれどそれがまた良くて、彼の安定の歌唱力と、サポートメンバー(ずっと一緒に活動していてもう一つのバンドだと感じるほど)との一体感が会場を大きなひとつの塊にしてくれる。聴きながら泣いてる人がいっぱいいる。私も泣いたことある。好きなミュージシャンに会えた喜びではなくて、心底曲が響くのだ。…つい宣伝になってしまいました。反省。 

言いたいのは宣伝じゃない。かなり前だけれど高橋優の曲の批評を読んで、私はちょっと憤慨したことがあった。有名な、その方自身も音楽をされる方が、「近頃明るくて前向きな曲が多すぎる」みたいなことを書いていて、その例として高橋優の当時の新曲をあげていたのだ。
「こんなに前向きな曲を聴いてそうできずに辛くなる人もいるのではないか、鬱の人が聴いたら辛かろう」と。おそらく、”前向きであらねばならない”と言うことが同調圧力になりかねないと言いたかったのだと思う。確かに一理ある。他人がそれを強いたらそりゃ圧力だろう。私にも精神を病んでいる友人がいるが、その人にこの曲を無理やり聞かせたいとは思わない。

「プライド」と言うその曲は、プロ野球選手の父を持つ男の子が、なかなか父親のように上手に野球ができなくて、そこから生まれる悩みや葛藤を克服して成長していく物語のために作られた。歌詞を知るともう、まさにダメダメな人の応援歌なのだ。確かに”立ち上がれ”と奮起を促してはいるものの、”誰かに期待されていないくらいが丁度いい”と、自分のペースで進んでいくことを大切にしているじゃないか。批評した方は、きちんとこの曲ができた背景を、そして本当に伝えたいことをわかって言っているのだろうか。もし、元気になる曲や前向きな曲が流行ることを「同調圧力」と言うのなら、ついていけない人にも優しい曲ばっかにしようよ〜というのも「同調圧力」ではないか。

恋の喜びを歌った曲は、失恋した人にとっては地獄であろう。不妊治療に苦しんでいる人にとっては”こんにちは赤ちゃん”なんて放送禁止にして欲しいと思うかもしれない。まあ、批評するのも自由なのだから、怒ってもしようがないんだけどさ。

初めて高橋優を知ったころからすでに10年くらい経ち、そのころに比べると私の生活はかなり安定した。もちろん経済的には相変わらず苦しいし、日々働き続けなくてはならない状況、やりたいことがなかなか進まない状況、不自由な暮らしはまだまだ続きそうである。その日その日、自分を奮い立たせてくれたり慰めてくれたりする音楽が私には必要なんである。聴いているのは高橋優だけではないけれど、やっぱり前に押し出してくれる音楽が、いいなあ。

あ、やっぱり多くの人に聴いて欲しいから宣伝しておきます。高橋優、聴いてね。





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