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『仮面ライダーBLACK SUN』について

 昨今は兎角『シン・仮面ライダー』に話題が行きがちですが、私はあえて同じ「仮面ライダー生誕50周年企画作品」でありながら、プライムビデオで不評の声が数多い『仮面ライダーBLACK SUN』について書こうと思います。
暫くのお付き合いを、一つよしなに・・・。
※ 本文には、ネタバレが多く含まれておりますので、ご注意ください。

 本作は、1987年から一年間放送された『仮面ライダーBLACK』をベースに、大東亜戦争時代に存在した研究機関の一つ、731部隊(関東軍防疫給水部本部)や、1968年頃の全学共闘会議、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリ、在日差別問題、現代の怠慢な自己利権優先的な日本政治。
これら全て盛り込んで『仮面ライダーBLACK』をリブートさせています。
ですので、旧作のイメージやキャラクター、ストーリー展開等は、完全にゼロから再構築されています。レビューをある程度読む限り、その点が多くのファンをガッカリさせている原因となっています。
もうそれを聞いただけで、お腹がいっぱいでしょ?
そうなんです。俳優陣も含めて最初のイメージはもう全く別物なんです。
旧作のファンなら南光太郎、秋月信彦の配役を観て「?」となる筈です。
しかしながら、本作を最後までしっかり観ると、RXを含むBLACKのファンなら判る重要な所は、キチンと抑えられてあります。
南光太郎、秋月信彦、ゴルゴム、創世王はもちろん、主要キャラクター名はキチンと踏襲されています。(杏子と克美は出てきませんが・・・)
 特筆すべき点として、第五話で始めて西島秀俊さんが変身ポーズを取られ『仮面ライダー BLACK SUN』に変身しますが、最新の『シン・仮面ライダー』を含む仮面ライダーシリーズ全作品の中で、西島秀俊さんが取る変身ポーズが一番カッコいい変身ポーズだと私は思います。
西島秀俊さんの卓越した演技力と、優れた体躯からの本気の愛がこもった「変身ポーズ」は本当に最高です!!
ここだけでも、本作を観る価値は十分あると言っても、決して過言では無いかと思います。中村倫也さんの変身と演技は素晴らしいですが、変身シーンポーズは圧倒的に第五話の西島秀俊さんから伝わってくる熱量がもう半端ないです!
必見です!!

 さて、肝心な本編についてですが、旧作『仮面ライダーBLACK』のラストでは信彦の洗脳救出に失敗し、杏子と克美とは離ればなれとなり、バトルホッパーもシャドームーンに壊されてロスト。最後は一人、これまでよく足を運んだ喫茶店で懐かしい思い出を振り返り、バイクに跨がり孤独に旅立つと言う、とても清々しいラストとは言い難かったラストでした。
続編のRXでは「人間が地球を汚すことで新たな脅威が生まれる」という強いメッセージ子どもたちに向けて話し、やはり孤独に旅に出るというラストを鑑みると、本作での二つのキングストーンとシャドームーンと創世王と融合し、南光太郎が「新創世王」に変貌してしまうという衝撃のラストは、両作とも孤独になる南光太郎らしいともいえます。
 最終話のオープニングで、倉田てつをさんの主題歌(今聞いてもやっぱり下手な歌です。w)で、旧作のオープニングを再現されているのは、『仮面ライダーBLACK』のファンなら熱くなるかと思います。
(ただ、カモメの群れは飛んでいませんし(CGでも良いから飛ばせ!)、最後のバイクジャンブもありませんが・・・。)
 ただ、旧作を知らない方は、颯爽と旧作のオープニングを復刻させ、期待を持たせて、この展開はやはりガッカリですよね。
あのオープニングからだと、てっきり勧善懲悪で、シャドームーンと共闘し創世王を倒しに行くんだと思ってしまいますもんね。
そのお気持ちは判ります。
ですが、本作はあくまでも『仮面ライダーBLACK』のリブートです。新しいシャドームーンと対峙し、南光太郎の最後は孤独でなければなりません。
ですので、7話で創世王の心臓を引っ張り出す所まで追い込みますが、ブラックサンも片足を失い、瀕死の状態でなんとか敵の基地であるゴルゴム政党ビルから逃げ切ります。このシーン、旧作ファンならお気づきかと思いますが、クライマックスでシャドームーンとの戦いで敗れ、一度死んでしまうBlackをクジラ怪人の命のエキスで復活させるところにちゃんと繋がり、心臓のみとなった創世王は旧作と同じになるわけです。
(無意味に逃げているわけではないんです。)
全体的にチラホラと『仮面ライダーBLACK』が正確に散りばめています。
白石和彌監督と脚本の髙橋泉さんは旧作の『仮面ライダーBLACK』を本当によく理解されて本作を造られているなと思いました。

 しょぼいと酷評されている怪人ですが、スター・ウォーズもスタートレックでも被り物は「基本はショボい」もんなんです。w
とはいえ、怪人のデザインについては、同じ「仮面ライダー50周年記念作品」の『シン・仮面ライダー』に軍配が上がります。
『シン・仮面ライダー』のクモオーグやハチオーグにしても、とてもこだわりを感じる優れたデザインでした。

クモオーグ
ハチオーグ

 やっぱり、カッコいいですね。よく練り込まれたデザインです。
本作の『仮面ライダーBLACK SUN』に足りなかったのは、怪人のデザインに対してこだわりが無かった所です。作中に出てくる怪人を見て「お、カッコいい!」とか「綺麗!」と思わせる怪人が一人として居ないんです。もちろん、ブサイクな怪人がいても良いんです。ただ、誰一人カッコよくないってのは頂けない。リアルを求めたのでしょうが、であれば被り物ではどうしても限界があります。それであればCGでリアル性を追求しなければいけません。いずれにしても怪人の容姿に対してトコトンまで拘る必要がありました。 本作の怪人はかっこ悪いし、今ひとつ強くないし、その上差別までされているという、全くデメリットしかない存在。
 劇中でニックというキャラクターが「俺は怪人になりたい!」ってセリフがあるんですが、これが全く心に刺さらない。「え? なんで怪人なんかになりたいの?」としか思えない。見た目もカッコよくもなければ、たいして強くもないし、差別はされるし、怪人として得た力をプラスの方向に使ってヒーローとして活躍している怪人は全くゼロ。どう考えても人間からダウングレードで、怪人になるメリットが全く無い。
 念のために書きますが、この場合のプラスの方向というのは、バスケやサッカーでスーパーゴールを決めるのではありません。それはただのズルですからね。w そうではなくて、人間では出来ない環境下での人命救助や、危険物の処理などで活躍している怪人を指しています。
 本作で描かれている怪人の中には、優しい怪人も沢山います。ですが、基本的には一回頭に血が上るとすぐに問題を起こしますし、犯罪をしょっちゅう起こしています。憧れる怪人どころか「残念な奴=怪人」として描かれています。
全話通して、全く怪人が魅力的に感じない
 中盤にカマキリ怪人に改造されてしまう和泉葵も、最終話で変身しますが子供のままではなく、覚醒したことによって大人の女性となり、美しくまたは妖艶なデザインの怪人に変身し、圧倒的な力で華麗に幹部怪人を倒しまくり、最後に「新創世王」となった南光太郎の息の根を静かに止めても視聴者は納得がいったと思います。
本作は怪人に対しての「愛」が一切伝わってこないのがとても残念でした。

なぜこれが作れなかった?

 さて、本作において最大の不評な点は「差別」というテーマに、視聴者が全く共感できない所です。
先述の、怪人に「カッコよさ、美しさ」が全く無いという要素も、ここにある程度影響しますが、現実社会において、人種や国籍や性別で差別される方々でも、誰もが憧れるような方は沢山いらっしゃいます。
マイケル・ジョーダン、BTS 、ポン・ジュノ、ジャッキー・チェン、イチロー、トム・ブレイディ、ビヨンセ、アリアナ・グランデ等、国籍・人種・性別を問わず、誰もが憧れるような方は必ず存在します
しかし、本作で差別される側の怪人に「人々の憧れとなる怪人」というキャラが一人も居ないのは、致命的でした。怪人に人間が助けられたり、憧れを持てる要素のある怪人の存在が無く、人間のダウングレードとしてしか描かれていない怪人に対して、声高々に「差別をするな~!」というセリフを聞いても、視聴者の方はどうしても怪人の声に共感ができません。
人間のダウングレードの怪人に「同情」して怪人を差別するなという内容では、そもそものテーマとして破綻してしまいます。
いや、そのポジションが「ブラックサン」と「シャドームーン」というのは、全くもってお門違い。この二人は影の存在であるダークヒーローなのですから。
 仮に、ローザ・パークス逮捕事件が起こった、1955年から1970年代前半のアメリカにおける黒人差別をベースにして描きたかったのであれば、視聴者が本作を観て行く中で「人間と怪人がイーブンだ」と思えるような描写がいくつか必要となります。しかし、本作にはそれが全く無かった。
怪人は優しさは持ち合わせているが、醜く(可愛いのもいるけど)、弱く、理性が欠落し、迫害されて生きているという描写のみでは、視聴者の頭には「?」しか出てきません。肝心な伝えたいテーマに視聴者は全く共感出来ないんです。

 さて、少々重い話になったので、話題を少しだけ切り替えましょう。
『仮面ライダー』にはつきもののバイク。「バトルホッパー」です。
本作は過去の『仮面ライダーBLACK』に大きくリスペクトされて造られています。中でも「バトルホッパー」はカッコよく、旧作のような愛着感こそ無いものの、最終話でポツンと佇んでいる「バトルホッパー」はどこか寂しそうに見えましたし、葵は前作のような言葉ではなく「バトルホッパー」から何かしらのメッセージを受け取っているように思えました。
ただ、『仮面ライダー』の真骨頂とも言える「バイクチェイス」が少ない部分は残念でした。
 やっぱり、バトルホッパーに乗って、現代ならではのスピード感に溢れるバイクチェイスをガンガンやって欲しかった。(この点においても『シン・仮面ライダー』はちゃんとおさえられていました。)
クラウドファンディングだけで予算取りされたのか、配信元のAmazonも予算を出されたのか判りかねますが、渋く大人のバイクでカッコいいデザインになった「バトルホッパー」で疾走感と迫力溢れるバイクチェイスシーンを見せて欲しかったなと思います。
本作の「バトルホッパー」マジで、渋カッコいいです!!

バトルホッパー

 同じく『仮面ライダー』とは切っても切れないのが「ドライバー」です。
本作の「ブラックサン」と「シャドームーン」は、二段階変身します。
一回目はナチュラルにスルッと変身しますが、覚醒後に初めて二回目の変身が可能となります。
この二回目の覚醒時に初めてお楽しみの「ドライバー」が登場します。
旧作の跡形もなく、完全にこちらもゼロベースからのデザインです。
「ブラックサン(5話)」と「シャドームーン(8話)」の「ドライバー」がこれがもう両方共、超カッコいいです。
当然、おもちゃ感は全くゼロです。
バリバリカッコいいんです!!
めちゃくちゃ欲しいのですが、価格がなんと「44,000円(税込)」。
しかも、限定受注生産・・・。
私には、ちょっと簡単に手を出せる価格ではありませんでした・・・。

「CSM 変身ベルト 世紀王サンドライバー」

「CSM変身ベルト 世紀王ムーンドライバー」
多分、まだ未発売?

 それでは、演者の方についてです。
数少ない「ウルトラマンと仮面ライダーの両方に出た俳優」の中でも、『シン・ウルトラマン』で禍特対専従班の班長として、本作では南光太郎として出演された西島秀俊さんと、秋月信彦役で水卜麻美さんと結婚が話題の中村倫也さんはもちろん、濱田岳さん、尾美としのりさんと役者陣の方は完璧といって良い素晴らしい演技をされていました。それらは、数々の素晴らしい賞を受賞された白石和彌監督の手腕であるのももちろんですが、役者に限らず芸人さんである今野浩喜さんも、作中で大変良い味を出しており、なかなかの怪演でした。
 特に重要なキャラクターの一人である堂波真一を演じていたのは、『仮面ライダードライブ』で、有名な画家役を演じていたルー大柴さん。今回は総理大臣役で登場されますが、これがなかなか持ち味の胡散臭さが役柄に嵌ってて、ピッタリなんです。いつ変な横文字で喋るのかドキドキして観ていましたが、一度も藪からスティックにアドリブは無かったです。w

 では、肝心なストーリーについてです。
レビューで散々に叩かれていますが、ストーリーの方は確かに前半はやや退屈ではありますが、中盤からしっかりと盛り上がってきます。
ストーリー自体も、全体的にはよく練り込まれたストーリーだといえます。
1972年と2022年を反復する形で物語は進行していきます。
1972年と言えば、連合赤軍のメンバーが起こした「あさま山荘事件」のあった年ですから、全共闘運動・大学紛争が活発だった頃で、日米安保条約について揉めに揉めた1970年です。
 そして、現代のグレタ・トゥーンベリによる気候変動への強い抗議活動とRXのラストで子どもたちに南光太郎が「人間が地球を汚すことで新たな脅威が生まれる」と強く伝えていたメッセージが上手く重なるのは見事です。
混沌とした1970年代と現代の社会問題とRXのメッセージ、なにより『仮面ライダー』が放送していたのも1971年から1973年ですから、絶妙なバランスだと思います。
ラストシーンの、葵や怪人達が子どもたちに戦い方を教えているのは、
言うまでもなく、1970年の「集団的自衛権」について投げかけています。
日米安保条約が自動延長するに当たり、70年安保闘争が起こりました。
結果、1972年10月14日に集団的自衛権の合憲性についての解釈を発表し、集団的自衛権は違憲であるという見解から、現在の憲法9条の改定問題に繋がる「集団的自衛権」を表現しているわけです。
個別的自衛権=必要最小限度の範囲内の自衛措置=合憲
集団的自衛権=必要最小限度の範囲を超える自衛措置=違憲
となっています。
この場合、葵たちが行っているのは「集団的自衛権」をイメージしています。その為、本作は1972年と2022年を反復し、「憲法改正案」として現在でも問題が残っている事を表しています。
奇しくも現在、核ミサイルを持ったロシアがウクライナに侵攻を続けていますが、日本を含む多くの国の支援を得てウクライナは今日も戦っています。
「集団的自衛権」が違憲とされていますが、他国が日本に攻めてきたらどうなるのか・・・。今も北朝鮮からミサイルはしょっちゅう飛んでいますし、中国も韓国も、日本の領土を自国の領土として強く主張しています。
ウクライナは決して対岸の火事では無いという声も、与野党のアチラコチラから数多く聞こえてきました。
(あの共産党が掌を返して、自衛隊は必要だと言ったくらいですから。)
ですので、本作のラストシーンでは、葵たちは両手をあげて漫然と時を過ごしていない事。争い事が無いに越した事はありませんが、有事の時は「集団的自衛権」の行使が出来るように日々、鍛錬を怠っていないのは全編通して1972年との反復で描かれていた「あの時から続く問題」なのです。
もちろん、現在も「BLM運動」として依然続く「差別問題」も含まれます。
『仮面ライダー』の作品としては、深い。深すぎる・・・。

結論として、『仮面ライダーBLACK SUN』は、決して駄作ではありません。
物凄く良く出来た『仮面ライダーBlack』のリブート作品だと私は思います。
ただ、観る人をかなり選ぶ作品であることには違いありません。
特に、Amazonでの低評価な理由は、旧作の『仮面ライダーBlack』を知らない人が多かった事が大きいと思います。
特に、以下の2点が本作がスポイルした大きな要因だと考えます。

【怪人のデザインが全く魅力的でなかったこと】
【「人間と怪人がイーブンだ」と思えるような描写が一切無いこと】


 もう少し、制作をするにあたって時間が必要だったんだと思いますが、やはりコロナ禍の真っ最中に作成されたこともあって、十分に造りきりなかったのではないかと考えます。製作スタッフの力量にもバラツキがあったのも確かです。「?」と思える進行も度々ありましたし(ゴルゴム党の出入りがフリーなんですよ。全くセコムすらしていないんです。)、葵役の子役の演技はどうにかならなかったのかと思えました。
 とはいえ、本作はとても優れた作品であり、『仮面ライダーBlack』や『仮面ライダーBlack RX』はもちろん『仮面ライダー』シリーズのファンであれば楽しめる作品だと私は思います。もし可能であれば、ある程度1970年代の日本について調べておくと、より楽しめるかも知れません。
エンタメ要素も、勧善懲悪も、爽快感もありません。
グロさがあると言われていますが、グロさは『シン・仮面ライダー』にもあるので、あっちは良くてこっちは駄目とはなりませんよね。(そもそも社会現象になった『鬼滅の刃』もなかなかグロいシーンが多いですから、何を今更・・・という感じです。)

 混沌とした1970年代から現代までの日本の流れと、世界中が抱えている大きな問題。本作のキャッチコピーの「悪とは何だ。悪とは誰だ。」全て、この言葉に集約されています。
欲を言えば、怪人をリファィンし、ザルのゴルゴム政党ビル前でのバトルシーンや、バイクチェイスシーンを追加し、再編集して「完全版」が観たいところです。
『仮面ライダーBLACK SUN』は、とても良く出来た『仮面ライダーBlack』の愛に満ちたリブート作品だと思います。
本レビューを観て、もう一度『仮面ライダーBLACK SUN』を鑑賞して頂いて、感想が良い方向に変わればとても幸いに思います。


率直に申し上げます。 もし、お金に余力がございましたら、遠慮なくこちらまで・・・。 ありがたく、キチンと無駄なく活動費に使わせて頂きます。 一つよしなに。