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【随想】『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』/一冊の本を読んで思うこと

 最近、「戦争反対」を叫ぶことの重要性を否定する訳ではございませぬが、少々虚無的、懐疑的になっております己(おのれ)を感じること多く、それよりほかに方法がないものか、戦争がいかにバカげているかを研究して、為政者こそが戦争に虚無的、懐疑的になる風潮を作り上げる具体的な施策を考えるほうが必要ではないのかな、と思うところがございます。
 ということは、民主主義の社会であれば、為政者を選ぶ立場にある有権者にこそ、戦争に抱く肯定論を否定するように仕向ける努力が必要ということになりましょうか。
 
 このように考えているときに、一冊の本を手にいたしました。
 戸部良一他5名共著『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(中公文庫 1991)という本でございます。
 初版から40年経ちますけれども、古さなど微塵もございませぬ。
 過去の軍隊がいかに動いたのかという観点から一歩引いて、何のための組織なのか、組織をいかに動かしていくべきなのか、組織運営論として眺めると、日本人が作り上げる現代社会にそのまま何の違和感もなく当て嵌めることができるところに、この本の持つスゴさを感じるのでございます。
 勿論、題名の通りの戦争(大東亜戦争)の話でございます。
 ※太平洋戦争(Pacific War, 1941-1945)とはアメリカ軍の呼び名。旧日本軍は中国から、東南アジア、インドに到るまで戦争をしていましたので、正確に、やはり大東亜戦争と呼ぶべきではないかと。
 
 この本が取り上げておりますのは、ノモンハン事件、ミッドウェー海戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ沖海戦、沖縄戦でございます。
 これらの作戦がどのように進められたのかを検証して、旧日本軍の作戦は失敗の連続で、反省も試みられず、組織として無責任さの積み重ねである「日本軍の遺産を批判的に継承もしくは拒絶」することを目的とするとされております。
 一つ一つの分析においては、客観的であるべきところに主観が入ることもあって、この種の本を書くことの難しさも垣間見られる所がございますけれども、決して容易ではない内容に著述する側と出版する側の使命感すら感じられるものでございます。
 
 一般市民が手にしやすい「本」という形に過去を反省することの少ない社会への叡智を感じて、市民にできることとして、改めて「書く」ことにも秘められた力のあることを知った次第でございます。

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