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好きなことと、蓑虫山人

この絵は20代、今の大分県宇佐市を回っていた頃の蓑虫山人だ。誰かのコレクションを見せてもらっている。

この顔に見覚えがある人にぜひ読んでほしい。これは好きなことに夢中になっている君や君の友達の顔だ。

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(写真:田附勝)

蓑虫山人は天才ではない。例えば、同時代を生きた富岡鉄斎のように若くから将来を嘱望されていたわけではない。鉄斎が女流歌人大田垣蓮月尼に預けられ薫陶を受け、南北合派の窪田雪鷹、大角南耕に絵の手ほどきを受け、小田海僊や浮田一蕙に学んでいた頃、蓑虫はその境遇を虫と争っていた(そのおかげで名前の由来の庵となるリュックを考案するわけだけど)。もちろんお金も地位もない。そういう点でも僕や君(違っていたらごめん)と同じだ。

今も昔も好きなことをやり続けるのは意外と大変だ。クリアしなければならない問題は思っているよりも多い。ともすれば「好きなことばかりやって」とは、ただの悪口として使われる。もし君が好きなことをやり続けるにあたって困難にぶつかり諦めたくなったとしたら、この蓑虫山人の顔を思い出してほしい。

好きなことをすることは誰かを傷つけない限り、良いことでしかないはずだ。

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蓑虫山人伝『蓑虫放浪』。現在発売中だ。ぜひ買って読んでほしい。できるだけ蓑虫の作品や図版を多くしているのはもちろん、写真家の田附の撮る写真はどこか蓑虫山人の視点に重なり、パラパラと見るだけでその世界に引き込まれるはずだ。300ページあっても素直に読めるように文体もデザインにも気をつけて作っている。すごく読みやすいと思う。装丁に仕掛けも多い、買って読む必然性のある本に仕上げた。

あと俳優の井浦新さんも蓑虫山人に共感し、推薦している。すごいぜ蓑虫山人。

蓑虫山人の生き方は、好きなことを「やる」と、決めた人にはきっとグッとくるはずだ。それから好きなことを「やりたい」と思っている人には、少しだけ背中を押してくれるはず。好きなことをやっている人も、やりたいと思っている人も、その好きなことがなんであっても、『蓑虫放浪』ぜひ読んでほしい。蓑虫山人は、そんな僕らの大先輩なのだ。


逆のことも言いたい。「好きなことをしない人生」を選んだ人にも、ぜひ読んでほしい。この物語はあなたの選ばなかった人生の物語だ。

そして、もう一度、あの時夢中になっていた「好きなこと」を思い出してみてほしい。

                               (望月昭秀)

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(写真:田附勝)

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※装丁にはいろいろな仕掛けがある。カバーの裏は絵日記ポスター、帯裏はミニ掛軸になっている。蓑虫山人のサービス精神を学ばせてもらった。


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