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[孤独の考古館]no.2 つがる市森田歴史民俗資料館

この民俗資料館に入る前から予感がしていた。古く、こじんまりした佇まい、時代に足並みをそろえず、どこか痩せ我慢をしているかのようなこのエントランスはある種の理想に思える。くたびれた綿の素材のコートに似て、初めて訪れたのに懐かしさすら感じる。
三内丸山遺跡時遊館は三内丸山遺跡の資料を展示する考古館だったが、ここは、つがる市の石神遺跡の資料を展示する考古館でもある。

完璧な佇まいの資料館

入り口のガラス戸には「開館中」と手書きで書かれている。早速ガラガラと戸を開け「おじゃまします」と小さく呟く。
「はーい、どうぞー」と横から返事の声が聞こえる。60歳くらいの管理人がニコニコと入館を歓迎してくれる。

今日の取材は夜の予定だ。まだ時間はある。
つがる市の職員の成田さんが間に入ってアテンドしてくれる。のだが、この人、みょうに豪快なところがあって最初は雑な人だなと思っていたのだけど、何度やりとりをしていくうちに意外と丁寧で心遣いは繊細、きちんとルールは守っているのがわかって、今ではかなり頼りにしている。
雑ではなく、ただただ「太い」人なのだ。成田さんが担当だと大船に乗ったような安心感がある。
成田さんに会うと青森に来たな、と思うほどだ。

エントランスを抜け、早速展示室に入る。入り口もよかったが、室内も「懐かしい」。飾りっ気の全くない壁やケースに見事な土器が並ぶ。こういうところはまったく三内丸山遺跡時遊館とは違う。私はもう一度「おじゃまします」と小さく呟く。今度は管理人には届かず展示室はいたって静かなままだ。

飾りっけのない展示室

石神遺跡も三内丸山遺跡と同じ円筒土器文化圏で、かつ円筒土器の研究の上で重要な遺跡だったそうだ。円筒下層式が古い順にa〜dまで並び、続いて円筒上層式のa〜eにつながる。時計回りに壁面の展示を見て歩くと、だいたい6000年前から約2000年間を歩いていく計算になる。

ほぼ床に直置きの土器もあった。

ここは美術館のようにほとんどキャプションがない。
雄弁な展示キャプションの考古館は数あれど、ここまでキャプションの少ない展示は逆に新鮮で、かえって土器に集中できる気がした。おしゃべりな考古館もいいけれど、たまにはこういった無口な考古館も悪くない。
逆に「ほお」、「はいはい」といつもよりも多めに独り言を呟きながら土器を見て回る。

一際立派なケースの中に一際立派な土器が飾ってある。キャプションがあるわけではないけれど、円筒上層式b式の土器でどうやら把手が人面にも見える立派なものだ。
円筒上層式aやbの葉巻のように太い粘土紐で作られる文様は、昔はあんまり好きじゃなかった。けど、今は嫌いじゃない。この土器を見ると北東北に来たなと思うことができる。
太いけどその太さが均等に揃えられた粘土紐の上から縄文原体を等間隔に押し当てて細かな刻み目を入れていく青森の縄文人の太い指を思い浮かべながらある人を思い浮かべる。
「円筒上層a式やb式ってなんだか成田さんみたいだな」と。


ザ・デストロイヤー

ここには土偶も面白いものがある。このマスクマンのような顔をした板状土偶。人をおちょくっているような表情に思わず笑ってしまう。これも誰かに似ているように思えたけど、どこの誰だったのか思い出せない。この土偶に限らず、土偶は知っている誰かに似ていることがある。

ちっこくて可愛い
三内丸山遺跡の大型板状土偶の幼少期のような土偶
小顔の板状土偶

つがる市森田歴史民俗資料館の展示について入り口で管理人に聞いてみたら、1時間くらい話し込んでしまった、帰りに茎笛という手作りの楽器を頂いた。
管理人は雄弁だった。

キャプションはいらない。
石神遺跡は今は草の中



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