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どうして茅葺きを残したの?⑦十場さん

茅葺きのお話シリーズ第7段

こんにちは。
茅葺き屋根の住人の方にインタビューを行う「なぜ茅葺きを残したの?」のコーナーです。
今回は第7弾、淡河に住んでいる十場さんにお話を聞きました。

戦後の建物

元々、現在の家は十場さんのお父様が40年前に移住。
その時にこの茅葺きの家を購入したそう。

その時の所有者さんからの話では、この家は戦後に建てられたもので、間取りは現在のもの、築年数は73年くらいとのことです。
山田にはとても古いお家が多かったですが、岩野さんと十場さんの家はとてもふるい!というわけでもないようです。
実際に、新しい茅葺きはそこまで多くはなく、戦前の建物が多いのではないかと推測されていました。

岩野さんもお金の問題で上からトタンをかぶせたお話があったように、いろいろな問題から、淡河でも、若い人が茅が見える状態の茅葺き屋根の家に住んでる人は少ないみたいです。

茅葺きに住めるようになるまで

―外に出て気づいた茅葺きの良さ
十場さんはなぜ、茅葺きを残そうと思ったのでしょうか。
実は、小さい頃は住みたいと思ってなかったそうです。
なぜかというと、家はとにかく寒かったから。
冬には氷点下、囲炉裏もあるけど寒すぎて使ってられなかったとのことで、昔は茅葺きの家に対して肯定的には思っていなかったそうです。
住んでいるのが当たり前、雨漏りもしており、潰す予定もあったことから「いつか潰すんだろうな」と思っていたそうです。

その後、高校生になるタイミングで外に出たことで、茅葺きに魅力を感じるようになったそう。
京都に住んでいた頃、美山の茅葺き民家を見たとき、外から茅葺きを見ていいなと感じたそうです。
アメリカの東海岸側に住んでいた時は、コンクリートの中で生活したことで、
草と木だけでできてる家ってかっこいい、すごいと思えるようになったんだとか。
住んでいた時はこのような感覚にならなかったそうですが、外に出て良さがわかり、茅葺きがあることがすごいと思えるようになったそうです。

十場さんは京都で陶芸を学び、その後結婚。
奥様が陶芸独立するタイミングで、せっかくなら実家の茅葺きの家を屋根も直してちゃんと住めるようにしようかという話になったそうです。

―強い思いで残った茅葺き
茅葺き屋根を葺き替えするには、多くの金額がかかってしまいます。
十場さんの家は文化財登録ができなかったため、補助金を使うことができませんでした。
そのため、屋根の修繕費は全て自己負担です。

10年前、家を直すタイミングで淡河で茅葺き職人をしているくさかんむりの相良さんと出会います。
そこで「屋根の修繕の半分くらいは材料費」ということを知った十場さんはなんと、自力で茅を集めるという手段をとりました。
日本でも有数の広大な茅場がある熊本県阿蘇で、屋根に必要な3000束を家族みんなで刈り取りに行ったそうです。
普段、私も茅刈りの活動に参加したりもしますが、大人が十数人1日作業して集められるのが100束~という単位。
家族数人で3000束集めるというのがどれだけの労力がかかることなのか、文字で書くのは簡単ですが、本当に本当に大変です…。

「若かったし、思いがあったからできた、残さないといけないという思いが強かった。結局思いがないとできないというのはそういうことね。相良さんがいたのも大きい。」

と当時の思いをお話ししてくれました。

奥様や家族の協力、そして人との出会い、いろいろなことが重なって今の屋根を残すことができたのですね。

ーリフォームの工夫
直さなければならないのは屋根だけではありません。
小さい頃、寒さに苦労したからこそ、快適に住むためにすごい考えて改装したそう。
床がとにかく寒く、しもやけだらけになるため、茅葺きの会社の方に相談しに行きました。
維持費、光熱費がかかってしまいますが、床暖房の床にしたそうです。
 
家の空間全体も、昔の間取りをいかしながら改装されていました。
夏と冬で障子で入れ替えて、全体使えるようにしたり、区切るなどできるように、残せるものは残したんだとか。
全部リフォームするのには10年ほどの期間がかかっているそうで、少しずつ進めたそう。
くぬぎさんのお話にもあったように、新旧どちらの技術も持った大工さんは少なかったようです。
頼んだ大工さんは同年代だったけど、きてくれたのは年配の方で、古い家できる人だったんだとか。

また屋根裏は、素敵な子供部屋になっていました。
他の茅葺きの家を色々見学させてもらいましたが、屋根裏をリフォームして使えるようにしていたのは、十場さんのお家だけでした。
古い家なため空間があまり区切られておらず、基本プライベートがない状態であったり、大体どこの家も屋根裏は何も使わずに空間があるだけだという実感はあったそう。
そこで屋根裏を子供部屋にしたり、陶芸の作品を飾るなどをしてうまく空間を使われていました。
 

今後のこと

ー次の世代に任せる

茅葺きのことを「クールでかっこいい」と感じている十場さん。
子供たちはどう思っているのか聞いてみました。
普段あまり聞いてないそうで、「子供の頃は何とも思わないんじゃないかな。ただ子供部屋がないのはどうなんだろう、、、」とのことでした。
 
前回の葺き替えは10年前。
あと数十年後にまた屋根を直すタイミングがきますが、その時はまた残そうとお考えなんでしょうか。
「自分が元気かどうか、元気だったらやりたいけど。なかったら子供たち次第かな」
60,70手前の時にどれほどエネルギーがあるかどうか、
今ですら、当時の20代時後半のエネルギーほどないと感じています。
 
前回の葺き替えのとき、十場さんご夫妻は強い思いがありましたが、ご両親は潰してもいいかなと言ってたそう。
文化財を持つ知り合いが「継ぐ気がない」という話を聞いたりすることもあり、
仮に文化財だったとしても、お金があったとしても、思いがなかったら終わると感じているそうです。
 
「次の世代かな。もう僕じゃない気がする。子供たちに任せる。」
十場さんの思いは、どのような形で受け継がれていくのでしょうか。

 
ーいい活用方法は?

そもそも住まいにする以外に選択肢はあったのでしょうか。
最後に今後の茅葺きの活用についてお話を聞いてみました。

維持管理が大変な気持ちもわかるため、なくなっていくのは仕方ないと思ったり、別の形で古民家を活用されるのも普通だと思っています。

実際に、家ではなくギャラリーにするという案もあったそうですが、せっかく改装してもいきてこないのではないか、住まないとわからないことが多いなどとのことから「茅葺きは住んでこそ活きるのかな」というのが夫婦で意見が一致し、住めるように改装する方向にまとまったそうです。

自分達のように住もうとする人は少ないのではないかという一方で、住まいとして見直される時代が来るかもしれないとお考えです。

「色々な活用があると思うけど居住が一番いいんじゃないか。開放感もあるし。こんな家は今はなかなかつくれないし。」
少なくなってきている今だからこそ価値がある、見直されているというのは、茅葺き業界を見ていて、私も実感しています。

とはいえ、残すのが大変であるということには変わりません。
「 思いがないと住まない、どうでもいいと思っている人は無理。」
「古い家を面白いと思えるか、ここを楽しめるか、楽しめないかが大事」
とのことで、実際に住まわれていること、そしてとても苦労されているご経験からの言葉、身に染みました…

まとめ

様々な苦労や人との出会い、そして何より「強い思い」があったからこそ、残すことができたということがわかりました。

もっと残しやすい方法や仕組みが作れないのか、
この思いを受け継いでいくために何か自分にできることはないのか
今後も考え続けたいと思いました。


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