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Oscar Wild オスカー・ワイルド〜


19世紀の英国の劇作家、オスカー・ワイルドの作品を読み解きながら、その人生を追っていく

奇抜で派手な洋服に身を包み、デカダンで耽美主義、頽廃的で逆説好きなワイルドのそのスタイルはどこから来たのだろうか。

生い立ちを見ていくと、その人のベースにある思想が見えてくる。ワイルドの場合は、ルネサンスとギリシャ思想だ。



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その小説は、逆説が多く、難解なパラドックスに満ちている。
頽廃的な危険な言い方をすることも多く、あまりにも魅力的で、
いっぺんに読むことができない。
心なしか、甘松香のような芳香すら、
その本から漂っている気がする。

こりゃあ、禁書だな、と密かに思っている。
人生の秘密が惜しげもなく晒されている。

舞台は19世紀の英国。
彼は、ヴィクトリア朝の最中に生きた作家である。お洒落で、目を引くような優雅さがあり、透徹した観察眼とウィットに富んだ物言いをする。言動、価値観、心の機微を捉える鋭さ、どれもが卓越しており、貴族のような人々からしたら、パーティーにも、邸宅にも呼びたくなるのは、まさにこういう人物だろうと思う。

よくパリでは、見た目がどんなに美しい人でもまったくモテないなんて話を聞く。おかしい、そんなはずは、と思ってわけを聞くと話が面白くないからだという。

魅力とはまさしく、洒落た会話、楽しませる会話。それでいうと、ここに出てくる語り手は、まさに最高の人物である。
逆説を多分に含んだ快楽哲学ではあるが、
今までどれだけの人を虜にしてきたのか分からないほど、
退屈とは、あまりにかけ離れている。

本当は意識していたであろう、人間の本質を、
容赦なく暴いてくることから、共感せざるを得ないのだ。

たとえば、

「思想の価値は、それを表現する人物の誠実さとはなんのつながりもない、むしろ、人物が誠実さを欠けば欠くほど、思想の知性度は純粋となる。というのも、その場合、思想が、個人の願望、欲求、偏見といったもので彩られる心配がないからだ」とか、

「実際にだれも自分というものを正しく理解してはいない。ましてや、他人を理解するのはなお難しい」とか、

「人間にもっとも強く君臨する情念は、
人間がその素性に関して、自己欺瞞を行っている情念にほかならない」とか、

「情念の奇妙にして冷酷な論理、そして感情に彩られた理性の姿を目に留め、情念と理性の出会う地点と分離する地点、調和する地点と
衝突する地点を知ること。そこにはこの上ない喜びがある」


なんかは、かなり鋭い視点だと思うのだ。哲学でいうと、作者はフロイトやバシュラールなどの影響を受けているようにも見受けられる。こういった理論は、鋭くはあるが、道連れにしてくるわけではないからまだいいとして、
問題は、もっと、足をひっぱってくるような、頽廃と快楽と破滅に誘うような、危険な持論が多いことである。そして、それがあまりにも魅力的で、私はもう影響されてしまってから、未だに抜け出せていないこと。これは良くない、と思いつつも、どうも頭から離れてくれないのだ。

しかも、ずるいのは彼はしばしば芳香を使ってくる。人間の五感のうち、感情や記憶と何よりも密接なのが嗅覚であることを科学的に知っていた彼は、影響を及ぼしたい相手がいる時に、香りを使い分けるのである。かつて、古代エジプトの王で王女でもあったクレオパトラや、中国の四大奇書のひとつである金瓶梅にも度々使われてきた手法である。むろん、文字から香りを直接感じ取ることは物理的に不可能であるが、それでも、ひとたび本を読み始めると、心なしか胸をくすぐるような甘い香りが漂ってくるようにすら感じるのだ。そんな物語を書いた人物が、そう、

オスカー・ワイルド  -Oscar Wild- である。


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