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戦争反対にウクライナ国旗を掲げる違和感 ロシア国民が戦争反対しにくい理由

1 なぜ反対できないのかー情報統制と思想統制

3月4日、ロシア国内で2つの情報統制が行われた。まず、Facebookやツイッターがブロックされた。そして、ロシア軍の「偽情報」の拡散を実刑にすることが可能な法改正が行われた。国内の独立系メディアは、政府が「特別軍事活動」と呼ぶものを「侵攻」、「戦争」と呼んだことを理由に閉鎖に追い込まれていると報道されている。国営テレビは、キエフや他のウクライナの都市でのロシアの爆撃や砲撃の様子をほとんど報道していないという。

ロシア国内でも反戦デモも起こっているものの、ある党からは、反戦デモに参加して拘束された市民を徴兵し、戦争の前線に送る法案も提出されているという。戦争に反対するのは命がけだ。

2 情報統制を経験している日本

 ロシア国内で進む統制は他の国には容易に理解できないに違いない。でも、似た経験をしている国には想像することができる。

 1931年、日本軍は、満洲(中国東北部)を占領した。占領のきっかけとなった鉄道爆破は支那軍の暴挙と報道され、日本側の策略であることは国民には知らされなかった。日本のメディアはこれを機に政府に賛成する側に転じたといわれ朝日新聞の社説も次のように書いた。「(満州に)一新独立国を建設することは、更に国際戦争の惨禍を免れるゆえんであつて、極東平和の基礎を一層強固にするものでなければならぬ。」

 戦後行われた、なぜ社論が変わったのかという検証や、政府に同調したニュース原稿の編集、抵抗して廃刊されていったメディアの研究は、ある国でどのように情報統制が進んでいくかを知る参考になる。

 もちろん、当時、こうした報道に違和感を抱く日本人もいた。もっとも、当時の日本では、一般市民が、日記に戦争反対の考えを書くだけで、特別高等警察(特高)に逮捕され拘束され厳しい取り調べを受けた。戦争反対を口にするには、自分の身だけでなく、家族を犠牲にする覚悟が必要だった。

3 統制がなされている国民に届くもの

 このように統制されていた国において、国民が戦争に反対できる方法はあったのだろうか。国内で政府に都合のよい報道しかなされていなかった太平洋戦争下の日本に対し、アメリカは、サイパンからラジオを流し、知識層が正しい情報を知ることで、国内から疑問や変化が起きることを期待した。ただ、日本側では、これを妨害し、外国放送の聴取禁止令を出し、聴いたのはごくわずかだったという。

 今は、当時と異なりラジオ以外に多くの手段がある。特に海外に留学・在住している自国民のSNSまで禁止することはできないし、家族や友人間の交流を禁止することもできない。海外に住んでいれば自国に対する批判も含めて情報は手に入る。

 とはいえ、ある国の国民である以上、自国を非難したり、対戦国の国旗を掲げるような意見は受け入れにくい。国籍だけを理由とした排除や分断は、ナショナリズムを高める方向に利用されることもある。

 これに対し、何の非もない子供が犠牲になったり、女性達が安全でない状況下で出産を余儀なくされたり、自宅が爆撃されたりといった、具体的な行為の理不尽さは、国籍を超えた共感や意見を持ちやすい。国民を批判するのではなく、戦争が起こしている悲惨な事実に注目していきたい。

追記 ロシア人であるシャラポア選手から出た人道支援の呼びかけ

テニス選手のシャラポワが、ウクライナ侵攻に心を痛めるコメントを公表し、子供達の権利保護を目的に活動するNPOに寄付を呼びかけた。ロシア人である彼女のコメントを批判する声もあるが、ウクライナの子供達の直面する悲惨な事態から目を背けない姿勢を支持したい。

 また、今回の侵略に反対してロシアを後にするロシア人達も出ているという。彼らは政府からは反政府と疑われ、他の国からはロシア人として非難を受ける微妙な立場に置かれる。

 ロシア人だから、ウクライナ人だから、連帯する、反対するというのではなく、誰が行おうと非人道的な事態に対して声を上げることができ、国籍を問わず個人としての考えを受け入れられる世界になるといい。