見出し画像

【#人生を変えた一冊】少年アート-ぼくの体当たり現代美術-中村信夫著

基本的に、1度読んだ本は、ほとんど2度目は読まない。
でも、この本だけは、何度読んだか分からない。
通しでも、部分的にも、繰り返し、何度も読んだ。
その度に、思い出し、驚き、学び、確認をする。
僕にとっての美術とか表現とか創作とか、
そういったものの根幹の考え方に影響を与えた。。。
与えたどころか、その根幹の礎になった本。
それがこの「少年アート-ぼくの体当たり現代美術-」。

20数年前、僕は一端の美大生だった。
1990年後半~2000年代の初頭、美術界隈は大賑わいだった。
村上隆や、奈良美智、会田誠等々、今では、世界的に有名な
日本の芸術家が竹の子のようにポコポコ生まれ、
スター街道を驀進する様に魅せ付けられていた。
スーパーフラット、ゼロ年代等、日本から世界へ
新しい美術の考え方や価値観を作りだそうとしていた。

僕は、世間からみたら「ロスジェネ世代」という世代だ。
一番、可哀そうで何かにつけて恵まれなかった世代らしい。
何を失ったのかすら分からず、これからも分からない間に
何かを失っていくのであろう世代だが、僕はこの世代に生まれ、
この時代の美大生でいたことを今では誇りにすら思う。
そのくらい、美術は確かに大きな鼓動を打ちながら
躍動していた時代だった。

そんな時代のスーパースターの1人「村上隆」。
彼は、スターではあったがヒーローではなかった。
確実に「ヒール」として登場した村上隆は、
何をしても作品が飛ぶように売れ、何をしても許されるまさに時代の寵児。
だが、口も悪いし、性格も決していいとは言えないようなそんな村上隆。
そんな彼の思考や哲学をまとめた1冊の本が2006年に発売される。
それが「芸術資本論」。
その時の本屋のポップにかかれていた言葉。

「芸術で金を儲けて何が悪い」

村上隆が度々、口にし広言していたその言葉がそこにはあった。
僕はもう美大を卒業していたが、自分の周りも後輩達も、
所謂『そういう者達』は、この本をある種のバイブルとし読み深けた。

そんな村上隆が、インタビューか何かでこんなことを言っていた。
「自分の書いた本を読み深けた学生たちがいるように、
僕たちが学生の時にも、みんなで読み深けた本がある。」と。
その本こそが、この「少年アート-ぼくの体当たり現代美術-」だった。
つまり、この1990年後半~2000年代の初頭、頭角を現し
一線に躍り出た多くの日本人アーティストに多大なる影響を与えた
重要な1冊と言っても過言ではない。

そして、この本の著者、中村信夫さんは、今でこそ大きな国際展となった
「横浜トリエンナーレ」の第1回展(2001年)総合ディレクター
の一人である。この「横浜トリエンナーレ」の成功があるからこそ、
このイベントは続いており、また国内でも「トリエンナーレ」とか
「ビエンナーレ」と名の付く美術イベントが開催されるようになる。

前置きが長くなってしまったが、
この本「少年アート-ぼくの体当たり現代美術-」。
どんな内容かと言いますと、著者:中村信夫さんの体験記である。


始まりは1960年代後半、安保闘争等々で学生運動の真っただ中、
当時、大学生だった中村青年は、学生運動に参加するわけでもなく、
でも大学は、学生運動で休講・閉鎖。どうしたもんかと思い留学を決意。
その留学先が、イギリスの王立アカデミーの、職人さん育成コースだった。
そこで、中村青年は、自分の感性を磨こうと自主練を始め、
その自主練が、面白い!って評価を受けて、職人コースから
芸術家コースに編入。中村青年は、美術の事なんて、
全く興味もなかったし、知らなかったので右往左往。
そして、そこにいた、これから世界を股にかけて活躍していく芸術家の
若かりし時代と出会い、美術と言うものを体験し、美術史を教わり、
自分でも学びながら、そこで得たもの、教わったこと、分かったことを
惜しみなく書いている。

最大のポイントは「読みやすさ」だろう。
読みやすい。とにかく読みやすい。
美術の本にありがちな、よくわからない横文字やカタカナ単語、
難しい用語はほとんど出てこない。
なんせ、美術本のくせに、体験記「ノンフィクション」であり、
「ドキュメンタリー」なので語り口調で書かれている。

また、美術が全くド素人だった中村青年に、
いろんな人が、いろんな言葉や方法で美術というものの歴史や
考え方を教えてくれ、その教え方や言葉が実に面白く、
また中村青年が感じた体験を読者も追体験できる。
そして、そのことにより「難解」とされる現代美術の成り立ちが
すごく分かりやすくシンプルに入ってくる。

この本は、村上隆等が学生時代の時に読んでいた本ということで、
世代的には、古い、最先端の美術の話ではないのだが、
この少し前の古い話を理解することで、
さらに今の美術への理解や読解が進むという点も
大いにあるという点も言及しておきたい点。

例えば、漫画でも音楽でも何でもそうで、
最新刊や最新作ばかり追いかけていても、
旧作を知らないとわからない設定や変化もある。
また、最新だけを10年追いかけていれば、
10年前の最新は旧作へとなる。
その旧作を知るからこそ、逆に10年後も最新を追えることも大いにある。

こと、ここ最近は最新、最先端なんてのがもてはやされ、
すごい勢いで消化されていくが、温故知新、古きを知り新しきを得る。
ってことも大事なんじゃないかと思ったりもするのですが、
これに関しては、単なるおっさんの独り言。

まぁ、だらだら書いてきてしまいましたが、
この「少年アート-ぼくの体当たり現代美術-」は、

ただいま、絶賛絶版中!!

ってことなので、もう中古市場に出回っている本を買うしかないのですが、
自分が買った20年前は定価が1,800円ぐらいで、
状態がそんなに良いものではないものを800円で購入できました。

でも、今、少し調べたら、5,000円とか値が付いてるっ!!!!

なので、もし、興味のある方がいれば、
こまめにネットで検索し続けるか、もしくは、ご近所等々の図書館に
問い合わせていただけますようお願いいたします!!

「美術」の二文字に少しでも、興味がある、惹かれる等々思う方には、
絶対に読んで損はない1冊です。
下手な、美術史の本なんかよりもよっぽど読むべき本かと思いますよ。

ご興味のある方はぜひ!!

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?