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不変の友情 / 『マクロスプラス』レビュー【ネタバレあり】

マクロスシリーズについて

1982年『超時空要塞マクロス』を皮切りに、40年に渡って作品がリリースされ続けているマクロスシリーズ。
作品群にはいくつかのお約束があり、1つはが大きなテーマとなっている点です。

初代マクロスではヒロインの一人であるリン・ミンメイがアイドル歌手という設定で、声優はテレビシリーズ放映終了後、実際に歌手としてデビューする飯島真理が担当しました。
劇中には声優本人が歌唱する楽曲が挿入され、作品に彩りを与えています。
また、劇場版『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』ではラストの総攻撃シーン(通称ミンメイアタック)のバックに『愛・おぼえていますか』が流され、高いクオリティのメカ作画と相まって今なおファンの間では名シーンとして語り継がれています。

そして、もう1つのお約束はストーリーで「恋愛の三角関係」が軸となっている点です。
例えば初代マクロスでは主人公の一条輝が、ヒロインのリン・ミンメイと早瀬未沙の間を行ったりきたり。どっちつかずの輝にやきもきした視聴者は多いのではないでしょうか。
この三角関係、ほぼ全ての作品で男1:女2の構図となっているのですが、唯一の例外作品があります。
それが1994年にOVAでスタートした『マクロスプラス』です。

マクロスプラスについて

『マクロスプラス』では初代マクロスにも参加した河森正治が総監督を務め、監督に渡辺信一郎、脚本に信本敬子、音楽に菅野よう子と後に『カウボーイビバップ』を制作するスタッフが集結。
ちなみに菅野よう子は本作がアニメ音楽の初担当作品になります。『ビバップ』『∀ガンダム』『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』など多くの名作で音楽を担当した彼女のアニメーションでのキャリアはここから始まりました。

『マクロスプラス』の舞台は初代マクロスから約30年後の2040年、次期主力機の採用を巡りテストパイロットとして火花を散らすイサム・ダイソンガルド・ゴア・ボーマン。そして音楽プロデューサーであるミュン・ファン・ローン。この3人の恋愛模様が物語の軸になります。

男性目線で言えばメインヒロイン2人の場合、話数を重ねていく中でどちらのキャラクターが自分の好みなのか、比較していく楽しみがあります。
例えば『マクロスF』では中華料理店でアルバイトをしつつ歌手として花開く未来を夢見るランカ・リーと、銀河中で人気を集めるトップシンガーシェリル・ノーム。どちらのヒロインが可愛いか、周りの友人と、またはネットの掲示板で論戦を繰り広げたファンは少なくないと思います。
一方、ヒロイン1人の場合は恋愛という要素において、そのキャラクターの魅力が受け手の評価を大きく左右します。
そして、個人的には『マクロスプラス』の恋愛面で心動かされることはあまりありませんでした。

バーチャルアイドルシャロン・アップルのコンサートを控え、プロデューサーのミュンは惑星エデンを訪れます。
エデンの軍事施設でテストパイロットを務めるイサムとガルド。昔3人は仲の良い関係でしたが、高校時代のある事件をきっかけに疎遠になってしまいました。
7年ぶりに再会を果たした3人。ガルドはミュンへの想いを再燃させ「貴様には渡さない」とイサムに宣言。コンサート会場で火災が発生しミュンに危険が訪れた際には身を挺して救助するなど献身的にアプローチします。

歌手としての成功を夢見るも、願い果たせずシャロンのプロデューサーとして黒子に徹するミュン。自分の望みに対して忠実に生きてきたイサムは、理想と現実のギャップを前に立ち止まるミュンの姿は理解できず、心情を吐露したミュンに「傷つかない人生の方が綺麗事じゃないか!」と厳しい言葉を投げかけます。

地球での宇宙大戦終結30周年記念式典でシャロンのコンサートが行われることになり、エデンを離れるミュン。
別れ際ガルドは思いを伝えるも、ミュンは「私いまはまだ」と明確な返事をしません。

終盤でイサムのことが好きだと明らかになるのですが、ガルドのアプローチに応えず、またイサムへの想いを胸に秘めたままにしたミュン。
実写映画・ドラマではこういうキャラクターは珍しくはないのかもしれませんが、アニメの甘味料てんこ盛りなヒロインに慣れ切った自分にとっては気持ちを向けるのが難しい人物に映りました。

しかし、例えヒロインが魅力的に感じられなくても、それを補って余りあるほどの見どころを『マクロスプラス』は持ち合わせています。

マクロスプラスの魅力

語る上で欠かせないのが作画のクオリティ。
特に劇場版での、ガルドが操るYF-21と無人戦闘機ゴーストX-9の一騎打ちは、作画の質・枚数の多さからセルアニメの到達点の一つと言って間違いありません。
X-9の放ったハイマニューバミサイルを肉眼では追いきれない挙動で回避していくYF-21(いわゆる板野サーカス)。
マクロスゼロ』以降、3DCGで戦闘シーンが描写されるようになった今では比類するアニメは生まれ難く、ゆえに伝説の5秒としてアニメ史に燦然と輝いています。

また菅野よう子の音楽も『マクロスプラス』に花を添えています。
ミュンが学生時代に作った曲として挿入される儚げな『VOICES』、コンサートシーンで流れるフランス語の響きが印象的な『Idol Talk』。
唯一、元電気グルーヴのCMJKが作曲した『INFORMATION HIGH』は、自動防衛サテライトが行く手を阻む地球へイサムのYF-19が突入するシーンで流れ、クライマックスに向かう作品にボルテージを与えます。

そして自分がとても心惹かれたのがイサムとガルドの関係です。
主力戦闘機にX-9が採用されることとなり、テストパイロットとしての2人の役割に突如ピリオドが打たれるのですが、納得がいかないイサムはX-9が公開される地球の記念式典へ乗り込むためYF-19に無断で搭乗。ガルドはイサムを止めるためYF-21で後を追います。
地球で2機のドッグファイトが展開される中、2人が交わす言葉は学生時代の他愛ない出来事ばかり。あの時のチキンレースは自分が勝ったとか、貸したものを返さないとか、どちらが多くランチを奢ったとか。
イサムにとどめを刺そうとミサイルを発射した瞬間、ガルドは封印していた7年前の記憶を思い出します。寄り添うイサムとミュンの姿を見たガルドは、ゼントラーディの血による暴力衝動を抑えられなくなり、ミュンに襲い掛かってしまったのです。
ミサイルをかわしたイサムにガルドは何故事件のことを持ち出さなかったのか聞きます。作中イサムは事件のことを一度も口にしませんでした。

ガルド「お前は知っていたはずだ。昔の、何もかも」
イサム「だから何だよ」
ガルド「お前はこの俺に裏切り者、卑怯者と言われ続けてきたんだぞ。ミュンもそれを知っていながら。隠してたのか、ゼントラーディの俺を憐れんで」
イサム「中学の時さあ、お前が造った飛行機ぶっ壊した」
ガルド「何?」
イサム「上手く出来てたからよ、ちょっと試し乗りしてやったんだよ」
ガルド「お前……」
イサム「過ぎたことは忘れようぜ」

3人の関係性が壊れる原因となった事件を自身の悪ふざけと同列にし、ガルドの過去を許されたものとするイサム。
独善的で奔放な様を見せながらも、ここぞの場面で度量の大きさを示すその姿は、理想の主人公像と言っても過言ではなく、尊敬に値する人間として自分には映りました。

男の友情とカッコいいメカアクション、ロボットアニメが連綿と受け継いできた魅力に満ち溢れた『マクロスプラス』、四半世紀経った今でもその輝きが消えることはありません。

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