サクラ大戦の思い出と『愛が香るころに』

懐古厨へと至る道

私がオタクになったきっかけの一つは叔父さんが観せてくれたアニメだったと思う。
今や記憶は薄れつつあるが、叔父さんは私に『新世紀エヴァンゲリオン』や『カウボーイビバップ』を観せてくれて、当時テレビで放映されていたゼロ年代のアニメとは違った魅力を感じたことは覚えている。

そこからもっと面白いアニメを知りたくて、私はネットサーフィンで情報収集を繰り返した。
『エヴァ』のガイナックスはもともと自主制作アニメを作る学生たちの集まりで、彼ら若手スタッフが中心となって『王立宇宙軍 オネアミスの翼』や『トップをねらえ!』などの名作SFアニメを世に送り出したという物語は、あまりにも出来すぎていて日本アニメ史の神話のように感じられた。
アニメは掘れば掘るほど名作にあたる金脈だった。そのとき得た知識と興奮のおかげで、幸か不幸か今なおアニメ視聴を続けている。

叔父さんがくれたものはアニメへの入り口だけではなかった。
叔父さんの実家には古いゲーム機が残されていて、当時学生でお金がなく新作ゲームを買う余裕がなかった私は叔父さんにお願いしてそのゲーム機を譲ってもらった。
ゲーム機の名前はセガサターン。そして、一緒に貰ったソフトの中には『サクラ大戦』があった。

サクラ大戦の思い出

サクラ大戦』は1996年9月27日に発売された。
いつもは歌劇団として舞台に立ち、帝都に危機が訪れれば霊子甲冑を操り悪を倒す帝国華撃団を舞台としたアドベンチャー+シミュレーションゲームだ。
舞台、恋愛、ロボット、大正文化、そしてキリスト教の要素までも取り込んだ世界観は今思えば荒削りの感は否めない。だが、最初は隊員たちから懐疑の目で見られていた大神隊長が自らの行動でヒロインたちの心を開き、やがて仲間以上の関係に発展するストーリーは、私にとってど真ん中のストライクゾーンだった。

そこから私は『サクラ大戦』にのめり込んだ。『1』と『2』をクリアした私は「帝国華撃団最高。巴里にハマる気なんて全くしない」と続編の『3』に対して斜に構えていたのだが、ハードがドリームキャストに変わって構築された巴里の世界には進化を感じたし、Production I.Gが制作したOPムービーは今でも最高のアニメーションの一つだ。

ドリームキャスト製造中止という悲しい知らせの後に制作された『4』は、サクラ大戦ファンに向けてのお祭りだった。帝都ヒロインと巴里ヒロインの修羅場には肝を冷やし、ヒロイン13人大集合のお風呂イベントはドリキャスという自社ハードを失うセガスタッフのやけを感じて最早清々しかった。
プレイヤーが選んだヒロインと複座式の霊子甲冑双武に搭乗し、ラスボスに立ち向かう展開には胸を熱くした。

機種をプレイステーション2に移した『Ⅴ』は思うような評価を得ることはできなかった。長年大神隊長に親しんできたファンが主人公の交代にショックを感じたのは間違いない。今までないキャラを求めて産み出されたヒロインは過度な属性付けがなされて強い支持を得るまでには至らなかったように思える。しかし、新たな主人公とヒロインは女性ファンの獲得に繋がったし、大幅な変更がなされた戦闘パートには歯応えを感じた。

私の中で増加する『サクラ大戦』への熱量と反比例するかのように、市場での『サクラ大戦』の存在感は薄れていった。
家庭用ゲームで言えば、2008年のニンテンドーDS用ソフト『ドラマチックダンジョン サクラ大戦 〜君あるがため〜』を最後にリリースは途絶えていた。
声優陣が出演する舞台やライブは毎年開催されていたのだが、主に古参ファンをターゲットとして展開される商業戦略は、末期患者に行われる延命治療のようで痛々しかったし、ライブに行っていた自分の姿を100パーセント肯定することはできなかったように思える。

ある曲との出会い

2011年、一つの曲がリリースされた。
曲のタイトルは『愛が香るころに』。ゲームもアニメもリリースされず久しかったため何かの主題歌というわけではなかった。
帝都、巴里、紐育のヒロイン声優が全員が集まり歌唱し、作詞作曲はもちろん広井王子と田中公平の黄金タッグだ。

当時の私は『サクラ大戦』を、昔のネットスラングでいえばオワコンだと感じてたが、それでも心のどこかで新作タイトルがリリースされることを望んでいた。
それゆえに『愛が香るころに』は私に刺さった。
歌い出しの「またに君会いたい」という歌詞は、シリーズの復活を望むファンの感情を言い表しているようで心に響いた。
都市ごとに分けられたパートでは紐育に「流れ星」、巴里に「セーヌ」、帝都に「桜」と、それぞれの華撃団を想起させるワードが使用されていて心憎く、盛り上がりが最高潮に達したラストに『夢のつづき』の一説が挿入される曲構成は見事だった。

時は流れて

2019年12月12日、プレイステーション4で『新サクラ大戦』が発売された。
『Ⅴ』から現実の時間で14年、作中時間で12年の経過を示すかのように、新たな帝都の世界がゲーム内には広がっていた。
旧シリーズで高飛車なヒロインだった神崎すみれは、母親のような温かい眼差しを隊員たちに向ける総司令へと変貌していた。

『サクラ大戦』が新しいステージに突入したことは、旧シリーズの展開の可能性が事実上消滅したことを意味していた。

ゲームの良いところは死が存在しないところだ。
人間であれば永遠の別れが起こりうるが、ゲームなら、機体の故障をなんとかすれば電源を入れるといつでも登場人物に会うことができる。
ゲームを起動すれば、帝都へ、巴里へ、紐育へ、華撃団のみんなに会いに行ける。
『新サクラ大戦』がリリースされた今だからこそ、『愛が香るころに』の「また君に会いたい」という歌詞が私の中で深く実感できるのだ。

私のドリームキャストは、まだ動くだろうか。

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