404 //211204四行小説

 書いている最中は水色なのに、だんだん色がブルーグレーに変色していく。古典インクとは、古くに使われていたインクの技術であり、インクの中に鉄分が多く含まれていて酸化することで色の変色が起きるインクだった。利点としては、水に強く滲まないため、ハガキ等の郵便物にも使えるということだろう。
 『404』という名前のインクは、買ったものではなくおまけとして貰ったものだった。『存在しない』という名前のインク。曰く、とても良い色が作れたのに、とある不具合により商品化出来なかったインクなのだそうだ。
 初めて書いた瞬間は、水のような水色だと思ったものだった。しかしだんだんと時間を経るにつれ、色はグレー混じりになっていく。そのグレー混じりの色も良くて、こんなにいい色のインクなのに商品化出来なかったのは勿体ないと思ったものだ。
 次の日、またさらに色が変わっていた。水色はどこかへ消えて暗めのグレーになっている。水のようだという感想は、この色を前にしては出てこない。細い線ははっきりと浮かんで可読性も上がり、くっきりとした色味になっている。目を見張るような光景だった。なんだこのインクは。こんなにも色が変わるなんて、面白すぎるじゃないか。
 昨日書いた字の隣に新たに字を書き足せば、色の変化が如実に分かる。水色からグレーへと変わっていくそのインクは、最初の一瞬しか色を保てない『存在しない』色のインクであると言っても差し支えないのだろう。

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