夜のシャンプー //211223四行小説

 チャイムが鳴ってホームルームが終われば、誰より先に教室を出る。待ち合わせているわけではないのに、いつからか君は学校を出て細い道を曲がってすぐの十字路で待ってくれている。隣のクラスはいつもホームルームが短いから、大体いつも僕が待たせることになる。
 待ち合わせているわけではないから、「お待たせ」なんて言葉はかけない。お互いにそう思っているから、あたかも偶然会ったかのように「おつかれ」と短く挨拶をして並んで歩き始める。
 冬の風は冷たく背の低い君を縮こまらせて、一層君は小さく見えた。不意に風に靡いた髪から、いい匂いがして君の頭を見下ろした。いつもと違う匂いがする。前の蜂蜜のような甘い匂いも好きだったけれど、今の甘過ぎない上品な匂いも君に合っていて悪くない。真っ直ぐで手触りの良さそうな髪をおもむろに手ですく。驚いた君はこっちを見上げて、同時に髪が手から逃げていく。
 今、何の話をしていたっけ。気まずくて目が合ったまま逸らせずにいる僕たちは、遠くで鳴るチャイムを聞いている。

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