名は遠くへ //220218四行小説

 名前は風に融けていく。この世に生まれ初めて他者から貰う『名前』というものは、切なる願いを籠めたものであるけれども、付けられた当人にとっては束縛にも似ていた。いわば呪い。人に呼ばれる度に願いは重なり降り積もっていく。
 自分は今ここにいる。今は自分にも願いがある。ならば、自分の名前は自分で付けるべきではないのだろうか。大人というにはまだ幼いかも知れないが、この願いは大人になっても老人になっても持ち続けている自信がある。強く強く、一人の願いではなく多くに願われれば強くなるのなら、呼ばれる名前はこの名が相応しい。
 さようなら、願われた私の名前。背を押すように吹きすさぶ風に乗っていけ。
 ありがとう、ここまで来るためには必要だった名前。その名前で良かったと今なら言える。
 右手に掴んだこの名を、私は掲げて生きていく。

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