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四行小説

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だいたい四行の小説。起承転結で四行だが、大幅に前後するから掌編小説ともいう。 季節についての覚え書きと日記もどきみたいなもの。
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2022年3月の記事一覧

羽根ひとつ //220302四行小説

 水面に波紋が広がった。行き道に通りかかる池は、この時期になると鴨が夫婦でやってくる。一昨日も昨日もいたから、きっと波紋を作ったのは鴨に違いないとそちらを見やる。
 羽根が一枚、水面に浮いていた。
 鴨はいない。そういえば、どこか今日は池が静かな気がする。生き物の気配が少ないような、何かに脅えてどこかに隠れてしまったような、奇妙な静けさがある。一体何がいるのだろう。池を覗いても底は見えず暗い。深く

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花知らず //220228四行小説

 道なりに植えられた桜を見上げていると、隣の君
もつられるように見上げた。蕾が膨らんできていて、春が着々と訪れていることを感じた。確か明日から暖かくなると天気でも言っていた。
「西館に何か咲いてたよ。梅? かな。今の時期なら多分梅!」
 君は花についてあまり詳しくない。詳しくないけれど、花が咲いたり匂いがしたりするとどこか嬉しそうだった。詳しくないからといって、好きではない訳ではないだろう。芸術を

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