やっぱり松本さんはすごいなと感じた話

ダウンタウンの松本人志さんのことです。

なにを今さらと自分でも思うのですが、普段テレビを見ない生活を送っているので、なかなかダウンタウンさんの番組を見る機会もないんですね。

しょっちゅう見てれば流しちゃうようなことでも、たまーにしか見ないから改めてすごいな!って感じることもあると思います。

今回はそんなお話。


2020年4月5日放送のワイドナショーを見ました。

新型コロナウイルスの影響により出演者同士の間隔が広げられる中、志村けんさんが亡くなられたことや新型コロナウイルスに関するデマについての話題、さらにはTKO木下さんを招いて自身の松竹芸能退所やパワハラについて語るといった内容が主でした。

コメンテーター席には画面向かって左から、松本さん、長嶋一茂さん、西川貴教さん、指原莉乃さんが座っていました。

この日の番組のイメージとしてはそんな感じです。


少し唐突で申し訳ないです。お笑いを少しでもかじったことのある人ならわかると思いますが、相手に「おもんない」「つまらない」という言葉を投げるのは余程の例外を除いてはご法度です。NGワードです。

たとえ、話している相手がめちゃめちゃスベっていても「それ全然おもしろくないよ」「つまらないね」と言ってはいけないのです。

正確には、それを言うことで笑いが生まれるなら言ってもいいんですけど、ほとんどの場合は笑いにならないし、なんなら「ボケ潰し」になってしまうので、お笑い芸人で「おもしろくない」「つまらない」という言葉を使う場面はほとんどないです。相手をおとしめる言葉なのです。

例をあげてみます。
お笑い風のやり取りの中に「おもんな」と入れるとどうなるでしょうか?

「布団が吹っ飛んだ~!」
「おもんな」

以下、徐々にやり取りが続いていきます。


「布団が吹っ飛んだ~!」
「どっちに!?いま風吹いてた!??おかしない!???」
「おもんな」


「布団が吹っ飛んだ~!」
「どっちに!?いま風吹いてた!??おかしない!???」
「南南西の方向に向かってでっかいでっかい巻き寿司を食べるねん」
「おもんな」


「布団が吹っ飛んだ~!」
「どっちに!?いま風吹いてた!??おかしない!???」
「南南西の方向に向かってでっかいでっかい巻き寿司を食べるねん」
「それ恵方巻き!おいしいやつ!布団どこいってん!!」
「おもんな」


「布団が吹っ飛んだ~!」
「どっちに!?いま風吹いてた!??おかしない!???」
「南南西の方向に向かってでっかいでっかい巻き寿司を食べるねん」
「それ恵方巻き!おいしいやつ!布団どこいってん!!」
「だから飛んでった言うてるやないかい!」


どうでしょう。「おもんな」の言葉の破壊力を分かっていただけたでしょうか。

先に「ボケ潰し」とも言いましたが、「おもんない」のひと言で完全にスベります。楽しい雰囲気や会話をぶち壊します。逆に、おもしろくないという言葉をぶち込んで笑いを取るのは相当ハードルが高いということです。

よくお笑い芸人の人が「なんかおもしろいこと言うて」みたいな無茶振りは最低の振りだと言います。

「おもしろくない」「つまらない」も、それと同じレベルで使って欲しくない言葉です。

とは言え、本当におもしろくないと感じることばかり言う人もいます。バラエティー番組でも、俳優、ミュージシャン、アナウンサー、モデル、文化人など様々な方々が出演しており、決して笑いやユーモアに長けた人、笑いの常識を知っている人ばかりではありません。お笑い芸人とて、スベり芸で活躍している人もいるくらいです。

でも、そんな人と絡んでも、例え視聴者もおもしろくないと感じている場面であったとしても「おもしろくない」「つまらない」を言ってしまうと、その場の空気をぶち壊しかねません。

ではどうするか?

「絡みにくいわ~」

というツッコミの言葉に置き換えます。

これ「おもしろくない」をオブラートに包んだひと言だと思ってもらって構いませんが、こうすることで笑いが生まれます。

大した笑いにならなくても、その場の空気をぶち壊してしまう事はないですし、おもしろくないことを遠回しにツッコんでいるのと同時に「この人は絡みにくいキャラ」という設定もできてしまうのです。

便利な言葉なので、どうしても困ってしまうような相手にはとても有効です。


そして、お待たせしました、ワイドナショーの松本さんのお話に戻ります。

松本さんの隣の席には長嶋一茂さんが座っていました。必然的にこのお2人の絡みが増えるワケです。長嶋一茂さんのキャラクターとしては、お笑い芸人ではないですが、笑いを取りにいってスベるパターンもあるややKYな部分があります。

決してユーモアがない人ではないですし、むしろ元野球選手とは思えないほどユーモアのある方だと思いますが、お笑い的な軽妙なやり取りをするイメージを持っている人はあまりいないと思いますし、話し方も独特なテンポや雰囲気を持っています。

そんなお2人の絡みですが、オープニングでは長嶋一茂さんが持ち込んだハワイの匂いがするという除菌ジェルのようなものを松本さんがイジったあたりからはじまります。

コメントを求められてもあまり表情を変えず、むしろムスッとしたような表情で、どこか攻撃的な感じのトークを展開する長嶋一茂さん。大したことは言っていなくても、時にほかの出演者を無言にしてしまうような威圧感さえある長嶋一茂さんですが、TKO木下さんを迎えてのコーナーでは、コメントを求められてパワハラについて真面目に話しはじめます。

なぜか除菌ジェルを使ってパワハラの例を話したのですが、最後にボソリと「ハワイの匂いがするんだけどね」と言います。

真面目な空気の中に突然ぶち込んできた「破壊力のないボケ」に苦笑が漏れます。

東野幸治さんが「それ(ハワイの匂いってひと言)いる?」と呆れ気味のツッコミを入れますが、ここで松本さんが両手を広げながら長嶋一茂さんを覗き込むような状態で


「ずーーーーーーっとスベってますよ?」


とひと言。


もうこれを言われたら笑うしかないですねw

スタジオは一気に笑いに包まれ、終始神妙な面持ちでいたTKO木下さんでさえ笑いを堪えきれない状態でした。


松本さんが相手に対してスベっているとツッコんでいるのを初めて見たワケではないし、よくよく考えてみると松本さんとしては確立したツッコミの1つのパターンなのだと思いますが、なんせ久しぶりに見るとやっぱりすごいなぁと感じました。

言い方、声のトーン、表情、ジェスチャー、タイミング、場の空気、相手との関係性など様々な要素があって成立しているので、とてつもない技術とセンス、瞬発力、勢い、そして「愛」がないとできないです。

よく考えてみてください。西川貴教さん、指原莉乃さん、さらには東野幸治さん、いずれのメンバーも、とてつもなくトーク力やお笑い力の高い人ばっかりです。

その方々が反射的に呆れ気味のツッコミしかできない中で、松本さんだけが長嶋一茂さんのどうしようもないボケを笑いに変えれているんです。しかも、大爆笑に。これ本当に尋常ではないんです。

長嶋一茂さんが本当にずーっとスベっていたワケではありません。視聴者もその事はわかっています。

しかし、そこを盛ってわかりやすくする。見ている人が長嶋一茂さんに抱くキャラクター性を的確に突いて共感の笑いにしていく。そして大きな笑いにすることで、スベること自体が悪いことではないと思わせる。

もうほんとヤバいくらいにすごいです。


おもしろくないことをおもしろくないと言うのではなく、おもしろくないこと自体がおもしろいという感覚がすごく重要なんだと改めて感じました。

松本さん的にはあくまで笑いのひとつのパターンとして反射的にやっているだけなのかもしれませんが、私はとてつもなくすごい!と感じたシーンでした。


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