『化け物』その3

3.森の中
凪は帰省の度に森の麓まで行くと植物や魚を観察して時間を過ごしていたため、山の奥へは今まで入ったことが無かった。凪は好奇心に身を任せ、観光客が入っていくのを見て後をついていくことにした。
気がつくと階段もなくなり、けもの道を歩いていた。目の前を歩いていたはずの観光客の姿が見えない。けもの道を進むと倒れた大樹にたどり着いた。その大きな樹面には苔が一面に広がっている。凪が初めて見た大木に驚いていると遠くで咆哮が聞こえた。咆哮を実際に聞くの初めてだったが、なんとなく熊の鳴き声だと予測し、凪は一目散に山を下っていった。しかし、けもの道が一向に終わらず人工的な段差になかなかたどり着かない。とりあえずけもの道を下っていると、前でリュックを背負ったおじさんに出会う。
「すいません。村の入口はどこですか?」
「迷ったのかね。ここの道を通っていきなさい。そうすれば着くはずだ。」
凪はお礼を言ったあと、おじさんが指す方向へ必死に下っていった。夕方、ようやく凪は村に帰ってくる事ができた。

夕ご飯の時間になって、凪は家族みんなに今日見た大樹について話した。村に住む凪の祖母も初めて聞いたようで驚いていた。凪は明日もその大樹を見に行くと言うと「明日は猟師が森を回る日だから麓にいなさいよ。あの森には猟師だけが銃を持てる。間違って撃たれたら大変だった。」と話した。

『化け物』次回     4. 出会い

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