『化け物』その7 最終章.最後の日

7.最後の日
それから数日後。凪が東京へ帰る日になった。夕方に村を離れるため、凪は早朝再び森に入ることを決心した。森の麓から上を目指す。また熊の姿で青年がやってきたらどうしようと凪は不安だった。いつもと違い、大樹までの道のりはとても重たく感じた。
そしてようやく凪は大樹の下へ到着した。大樹の周りをみるが、青年はいなかった。
大樹に登り、しばらく待っていると奥の草むらで音がした。大樹に隠れ眺めていると、あの時の青年がいた。青年は何かを狙っているようだった。青年は瞬時にうさぎに化けた。すると目の前に2人の観光客が現れる。観光客なら銃も持っていないし、脅かすにはうってつけなのだろう。
しかし、男たちはウサギに気づくとカバンからカメラではなく小型の銃を取り出した。そしてウサギに化けた青年に向かって銃を向ける。青年も驚いて身動きが取れないようだった。
(このままじゃまずい。)
そう思った凪は遠くから男二人に向けて大きな声をあげた。
「おーーーーい!!!」
凪は男たちの注意をこちらに向けようとしたのだ。
男達は凪の方を見た。青年も一瞬緊張が解け、声の方を見る。凪に気づいた男の一人が凪に小銃を向ける。「おい!あれは人だ!」ともう1人は銃を構えた男を止めるが、「んなの、撃ってみないと分からないだろう。化け狐かもしれん。」そう言って銃を構えた男は止めた男の手を払い、そのままニヤリと笑って凪に小銃を向けた。
その時、観光客の脇から大きなクマがやってきて、けたたましい咆哮をあげた。観光客は驚いて2人とも腰を抜かし、急いでそそくさと森を降りていった。凪は安心して力が抜けたように膝から崩れ落ちた。
そこへ大きな熊がやってくる。凪が見上げると熊が青年の姿になっていた。青年は凪の前に手を差し出す。青年の手を取り、凪はなんとか立ち上がった。
「さっきは助けてくれてありがとう。人間も意外と凄いんだな。」
少し恥ずかしそうに青年は目を泳がせた。
「人間だって隠していてごめんね。騙すつもりはなかったんだけど、言い出せなくて。」
凪がこの前のことを謝ると青年も「俺もひどいことをした。やりすぎたな、悪かった。」と謝った。
「お互い謝ったし、もうこれであとはお相子ね。」と凪は言った。その後、凪は言うことを思い出して、ポケットから紙を取りだした。それは凪が昨日の夜書いていた紙だった。
「私、考えたの。」
そう言って広げた紙には大きく「大樹復活計画!!」と書かれていた。「村の人にこの大樹のことを知ってもらえば少しは環境が変わるんじゃないかなと思ってね。」
青年には内容が伝わっているのかわからなかったが、真剣に紙を見つめていた。「凄いんだな、お前。」青年にそう言われて、凪は少し照れくさそうにしていた。

青年は森の麓まで凪を送ってくれた。「実はこの村にいるの今日までなんだ。これから帰らなきゃ行けないの。」
「そうか……」すこし青年は寂しそうにしていた。
「この村に来た時はまた森に来て欲しい。いろいろ案内するよ。」
恥ずかしそうに青年が言ったあと、後ろから凪の母がやってきた。青年は驚いて1歩下がった。
「あら、村で友達ができたんだ。こんにちは。」
青年は凪の後ろでゆっくり頭を下げた。
「また帰ってきた時に凪と遊んでやってね。じゃあ凪、そろそろ帰るよ。」
そう言って、凪の母は凪を車に乗せた。青年は車が見えなくなるまで見届けたあと、狐の姿に戻り森の奥へ帰っていった。



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