『化け物』その1

1.小噺
昔々、ある処に伝説として語り継がれた狐がおりました。その狐は山奥にある大樹の森に住んでいました。村に災いが起きると狐は森からやってきて人間を助けていました。虫が田畑を荒らせば虫を追い払い、人に化けて人間と共に田畑を耕しました。それから村人は感謝の印に毎年作物の一部を森へお供えしていました。
しかしある年、大きな竜巻が村と森を襲いました。狐の住処であった大樹は倒れ、村では家が飛ばされてしまいました。村人は自分の住処と食料を作ることしかできず、森へのお供えをする余裕はありませんでした。それから次第にお供えは絶たれ、村が復興している中、大樹は人の手が加えられることなく腐ってしまいました。それから何十年の月日が経ち、村には食べ物を狙って狐がやってくるようになりました。この村人たちは狐が昔この村を守っていたことなどもう覚えていません。大樹が倒れて以降、狐の助けがあった歴史は伝承されなかったからです。それからというもの狐の恩を忘れ、村人は作物の被害を減らすために森へ入り狐を銃で撃つことにしました。定期的に村人が森に入って銃声を轟かせたことで村には狐が来なくなりました。

『化け物』次回     2. 帰省

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