『化け物』その4

4.出会い
翌日、朝早くから凪は森へと向かった。教え通り麓でいつものように観察をしていた。すると跳ねる野ウサギを見つけた。野ウサギに気を取られ、凪はどんどん森の奥へと入っていってしまう。
ウサギを追っていると銃声が聞こえた。猟師のことを思い出した凪は急いで山を下ろうとする。
「おい!こっちだ!」
するとどこかで声をかけられた。
声のするほうを見てみると凪と同じ背丈の青年が草むらで手招きをしている。青年の元へ向かうと青年が見つめる先に猟師がいた。
「ここで物音を立てたら撃たれちまう。今はまずじっとしとれ。」
猟師が草木を踏む音、青年の囁きから緊迫した空気が漂う。猟師が離れていくのを見届けたあと青年は草むらから立ち上がり「もう大丈夫だ。」と言った。
「見かけん顔だな。」
青年は凪を不思議そうに見つめる。
「夏だけここにいるの。」
ふーん、と青年は歩き始める。
「私は帰るけど、一緒に帰る?」
「いや、俺はまだウサギを見つけてねぇ。まだ帰らない。」
そう言って青年は山の奥へ歩いていった。凪は青年の背中を見届けたあと、山を降りていった。

『化け物』次回     5. 大樹の傍で

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