人形の家

黄昏時　　人形は　逢魔が時に帰る

誰も私を知らなくていい　
愛さなくていい　だから愛されなくていい　　長く青い睫毛のお人形

人形は家路につく　　
コツコツと歩いてゼンマイのネジが止まるのを待つ

誰かネジを巻いてください

ブーツのかかとがコツコツリズムを刻む

駅のホームに人形はいつもひとりぼっち　　青い睫毛の人形がコツコツ歩いて帰る

まだ綺麗ですか
まだかわいいですか

逢魔が時にさらわれる　　人形が仮面を落とす　　

私のネジを巻いてください

　　そう　　　　　　　　　
しゃべれたらいいのに　　

お辞儀をして顔を上げてネジが切れる　　仮面を拾えない

持ち主　　　あなたがネジを巻いてくれないから
魔王が人形を拾いに来ていることにも気がつかない　　持ち主

黄昏時　　逢魔が時に人形は持ち主のおうちに帰った　　魔王に誘われて家路につく　　　　　　空っぽが人形を襲う

セルロイドの体には無数の傷が刻まれていることも知らない持ち主の元に　　黙って人形は今日も帰る　　　魔王の影を慕う時　　
青い睫毛が濡れて瞳を閉じる　　

さみしい持ち主　　さみしいお人形　　血の通わなくなった人の形をした　　ただのセルロイドのかたまりが横たわっている

まだ綺麗ですか
まだかわいいですか

持ち主の代わりに魔王が答えてやっている

おまえはもういらないんだよ　青い睫毛の人形よ

人形は黙って横たわっている