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備忘録。2

 またまた読んだ本が溜まり始めたので、感想を少し。

1.喜瀬雅則『オリックスはなぜ優勝できたのか 苦闘と変革の25年』(光文社新書)

 恥ずかしながら私はそこまで野球に詳しくない。私と野球の思い出といえば、小学校の頃に近所の友達と草野球をしていたことや、実家で購読していた読売新聞のスポーツ欄のセ・パ両リーグの順位表を特に意味もなく漫然と眺めていたこと(この時に得た知識はセ・パ両リーグのチーム数は各6チーム、クライマックスシリーズ、日本シリーズの仕組み程度である。本当に何のために見ていたのか今となってもわからない)。そして、中高の頃には春と夏の甲子園をテレビで眺めていたことであろうか(中学3年生の頃にはほぼ全試合を見ていた記憶がある)。
 この程度の知識量であるが、本書は十分に楽しめた。本書では25年間のほとんどの年で下位にあえいでいたオリックスでの試行錯誤とその結末を丁寧に追いかけている。確かに、漫然と眺めていた読売新聞のスポーツ欄でオリックスは常に下位にいたようなイメージがあり、どうして優勝できたのかという点は、詳しくないながらも疑問に思っていたのだ。その謎が本書では綺麗に解き明かされている。野球ファンなら必読の書ではないだろうか。ちなみに、5ヶ月後に同出版社から刊行された『一軍監督の仕事』もなかなか面白かった。

2.渋井哲也『ルポ 座間9人殺害事件 被害者はなぜ引き寄せられたのか』(光文社新書)

 この事件は強く印象に残っている。近年、このような凄惨な事件が発生することが多い。本書は事件の犯人との面会や裁判での様子をまとめたルポルタージュである。事件について大っぴらに語ることは憚られるので、本書に対する感想に終始することをご容赦願いたい。
 まず、座間事件は決して遠い場所で起きている事件ではないということだ。我々のすぐ身近に潜んでいる闇が大事件という形で表出したのではないかと私は考えている。SNSで見知らぬ人と出会うことが容易になった時代、出会った人が「悪意」を持っていたらこのような事件は十分に起きる。事件の犯人は希死念慮を抱く人の話を聞いて、踏み止まらせた後に殺害するという手段を繰り返していた。犯行も事件を重ねるごとに杜撰なものとなっていく。「悪意」の膨張はとどまるところを知らない。また、「10人目の被害者となりたい」と発言した人も多くいたという事実に私は目を疑った。単に凶悪犯が事件を起こしました、許せないです、という言葉で終わらせるべき事件ではないと感じた。SNSという現代的なツールを用いた本事件は、現代社会の一種の闇を映し出しているのではないだろうか。

3.鈴木涼美『JJとその時代 女のコは雑誌に何を夢見たのか』(光文社新書)

 昨年(2021年)、『JJ』が月刊発行を終了させ、『Seventeen』も月刊発行を終了させた。SNSの台頭などでファッション雑誌は以前ほどの影響力を持てなくなっていたのだ。本書はファッション雑誌の第一線を走ってきた『JJ』を中心に直近50年間の女性のファッションに対する向き合い方を紐解いている。
 創刊当時、お高めのファッションを意識していた『JJ』は当時の女子大学生のバイブルのようなもので、1冊は400ページを超える大ボリューム。80万部を超える売り上げを誇っていたという。ファッション雑誌を見ることもない私からしても、いかに『JJ』が当時人気であったかということがよくわかる。当時『JJ』で紹介されていた商品はほとんどがハイブランドで、並の大学生は買うことが容易ではない。いくら景気の良かった時代でも、買えた大学生はほんの一握りであったと著者は指摘している。それでも、多くの女子大学生はハイブランドを纏うことを夢見て毎月、書店に足を運んでいたのであろう。しかし、女性の生き方をハイブランドなどで定義してきた『JJ』も21世紀に入ると苦しくなってくる。一般には雑誌離れや不況などが原因として指摘されているが、それは原因の1つに過ぎない。様々なコンテンツがある中で、ファッション雑誌を第一とする確固たる理由付けも薄れてしまった。さらに、『JJ』が定義した「結婚」をゴールとする"女性の生き方"をなぞらなくなった人も増えた。このような原因が複合的に重なり合った結果、ファッション雑誌というものの立ち位置が揺らいでしまったのだ。『JJ』の月刊発行終了はファッション雑誌の1つの大きな節目であり、女性と社会の関係性が変化したことも物語っており、「結婚」のみの価値基盤が打ち砕かれたことを物語っているのではないだろうか。

4.河原仁志『沖縄50年の憂鬱 新検証・対米返還交渉』(光文社新書)

 現在、朝ドラは沖縄を舞台とする『ちむどんどん』を放送している。沖縄返還から50年を経た2022年、沖縄返還の実態を詳細に追った一冊である。本書を読んで、沖縄返還に対する教科書的理解と本書から見えてくる景色があまりに違っていることに衝撃を受けた。山川出版社の『詳説日本史 改訂版 日B309』では、次のように記述されている。

「基地の島」沖縄では祖国復帰を求める住民の運動が続き,ベトナム戦争の激化とともにその返還問題があらためて浮上した。佐藤内閣は,「(核兵器を)もたず,つくらず,もち込ませず」の非核三原則を掲げ,まず1968(昭和43)年に小笠原諸島の返還を実現し,翌年の日米首脳会談(佐藤・ニクソン会談)は「核抜き」の沖縄返還で合意した。1971(昭和46)年に沖縄返還協定が調印され,翌年の協定発効をもって沖縄の日本復帰は実現したが、広大なアメリカ軍基地は存続することとなった。

山川出版社『詳説日本史 改訂版 日B309』

 米軍基地が多く残ることになったという点以外は、上手く交渉を運べたような書きぶりであるが、実際はそんなに上手く事を運べていなかった。沖縄の基地機能の維持を狙うために、施政権の返還や基地の縮小を既に計画していたアメリカの真意が読みきれなかった日本が下手に出てしまったために、沖縄返還は終始後手後手に回ってしまう。その結果、沖縄にある米軍基地の面積は縮小したものの、日本全体に占める沖縄県の米軍基地の割合は上昇している。公約実現のために功を急いだ日本政府と、日本の真意を熟知していたアメリカ政府の交渉態度が対照的である。
 本書の優れている点は、密使外交、核密約、財政密約などでの両国の思惑を逐一比較する事で、沖縄返還の裏を明らかにしている点である。現在の日本とアメリカの蜜月の関係は、ここから始まったと言っても言い過ぎではない。沖縄返還50年の今、改めて沖縄返還について学ぶのもいいかもしれない。

5.圓井義典『「現代写真」の系譜 写真家たちの肉声から辿る』(光文社新書)

 光文社新書は最近、芸術方面の新書が多いような気がする。『〈問い〉から始めるアート思考』や『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』など、最近、芸術系について興味が出てきた私にとっては読みたい本が多く揃っている。本書では、日本での写真がどのような変遷を辿ってきたかを当時の世界の情勢や美術史と関連付けながら記述している。
 正直なことを言うと、写真というものをどのような目線で鑑賞すればよいかを今まで分かっていなかったが、本書を通して少しは写真の見方について学べたのではないかと思う。写真は現実を忠実に再現する単なる画像なのか、あるいは複数の解釈を見る者に与えるものなのか、あるいはものの本質を映し出すものなのか、一枚の写真から色々なことを考えることができるということを学んだ。今度、今まで一度も行ったことのない写真展に行ってみたいと思う。

では、また今度。

#読書 #新書 #光文社新書

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