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北部ゲットー

イタリア ロンバルディア 北部ゲットー。                            囲壁を眺める少年がいた。10歳のユダヤ人の少年は、いつかここから出てやろうと心に決めていた。教皇アテナイ8世の時代より、彼らは閉じ込められているのだと、昔話にはあった。彼らは、みんなで争いもなく平和に暮らしていたけれど、少年はこの壁の向こうにはもっと豊かな世界が広がっていると思えたし、彼らの町では若者が突然消えるという、不可解な出来事がよくおこった。彼は、外の世界へ出たくて何度も囲壁に足をかけたが、囲壁はあまりに高く、登れなかった。囲壁は100メートルはあるかと思われたし、厚さも相当厚いようだった。                                 10年後。彼らの町に黒い雨が降った。浴びた者が病にかかる、不思議な雨だった。20歳になった少年はこのような街に嫌気がさし、外の世界に出てやろうと思った、そして、また囲壁に足を掛けた。囲壁は、造られて何百年もたっていて、足場は沢山あった。彼は、屈強な若者に成長していたから、100メートルを超える壁にも臆さず、するすると昇って行った。       そして、彼は登り切った。100メートルを超える囲壁を。         しかし、彼はそこから見えた世界に啞然とした。                    壁の上から見えたのは,一面茶色の不毛な世界だったのだ。           「ああ、来たのか」後ろから、突然声が聞こえた。嘘だ、こんなところに人がいるはずがない、彼は耳をふさいだ。と、彼の目の前ににゅっと人の顔が現れた、「誰?」と彼はようやく口を開き、聞いた。相手は、それには答えず「あれ見てよ」と壁の下を指さした。20歳の彼は、好奇心を抑えらず、下を覗き込んだ。白いものがたくさん散らばっている。「あれは何?」彼は聞いた。相手は、しばらく間をおいて「人」とだけ答えた。「え、どういうこと」と彼が聞くと、相手はしばらく間をおいて。「ゲットー移民、ってとこかな、、、。核兵器にやられない場所を求めた愚か者たちだよ。、、見てよ、あいつらはつるはしまで使ってゲットーの壁を崩そうとしたみたいだ。」そういう彼の顔には、笑みが浮かんでいた。彼は、こちらに向き直ると。「いいかい君、私達を閉じ込めた者には当然バツが下る。けどね、君みたいに自由ばかりを見るやつにもそれはおんなじさ、何にも疑問に思わずいきていればよかったものを、、、ねえ」そういうなり、彼は腰のポケットから、ピストルをもち出し、20歳の彼に渡した。「それで自決して。」と。20歳の彼は恐怖のあまり叫んだ。そして、自決した。                    安全な社会には、罰則が必要だ。街の人々を外に出さないには、成功例を作らぬようにしなければ。けれども、人間の好奇心は止まらない。ほら、今日も壁を眺めている子がいるでしょ。                                           

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