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渋滞課金制度(ロードプライシング)の各都市での取り組み


はじめに

こんにちは。GEOTRAインターン生の伊藤です。

昨今、各国の大都市が渋滞問題に直面しています。
渋滞問題を解決する手段の一つとして、「渋滞課金制度(ロードプライシング)」があり、日本でも、五輪期間中に試験的に実施されました。

本記事では、各都市において施行される渋滞課金制度の概要及び同施策の効果についてご紹介します。

背景

道路面積には限りがあり、自動車の利用需要が減少しない限り、交通渋滞が発生します。

渋滞課金制度は、自動車に通行料を課すことで、交通渋滞を緩和する手段の一つです。
課金を行う目的は、高速道路のような有料道路のように、新しい道路インフラを作るコストを回収することではなく、既存の道路インフラの利用の最適化にあり、自動車利用者がルートや移動時間の変更や、将来的には公共交通機関など、より効率的で環境にやさしい交通手段への乗り換えを促進することにあります。

1970年代にシンガポールが初めて実施して以降、世界中の複数の都市が、自家用車による移動需要を削減するために、渋滞課金制度を実施しながら、公共交通の利用しやすさを向上してきました。

渋滞課金制度の種類

渋滞課金制度には、主にエリア・道路・道路ネットワークを基準にする課金方法の3種類があります。

各都市は、1週間の各日の各時間帯の自動車の移動速度を測定し、混雑している地域や通路、エリア毎の混雑のピーク時間帯を特定し、状況に応じて最も適切な課金方法を採用しています。

エリアベース (Area-Based)

自動車の利用者は、特定の混雑する地区内に自動車で入場する際、入場料を払います。
プライシングされた地区内及びその付近では、効果が現れる一方で、他の地域での影響はないことから、ビジネス街への通勤規制などを目的に用いられています。

例:ロンドン

2003年に渋滞課金システムを導入したロンドンでは、図1が示す交通渋滞が深刻なビジネス中心街を中心とする約21平方kmの区域を、平日7:00-18:00の時間帯に通行する全ての車両(二輪車やタクシー、バス、緊急車両等を除く)に一律で11.5ポンド (約1,800円)を対象に課金します。

渋滞税に伴う歳入は、公共交通機関の充実化のために用いられ、市内を運行するバスの運行本数は、導入前と比較し、23%増加しました。

同プログラムに伴い、導入初年度から、設定区域内の交通渋滞に起因する遅延は25%緩和、移動速度は37%上昇しました。

一方で、自家用車の利用を控えた市民の85%以上は、通勤ラッシュ時、渋滞課金エリア内で積極的にバスや、地下鉄を利用するようになり、バスの利用が14%、地下鉄の利用が1%増加しました。

図1:ロンドン市内の渋滞課金の対象エリア
出典:Downtown congestion pricing in practice

道路ベース(Corridor-Based)

各車両は、一般に都市部の大規模な幹線道路や混雑する道路などで課金されます。
通行する道路及び時間における混雑状況に応じて、異なる料金が課されるため、結果的に適切な交通量を維持することが期待されます。

例:シンガポール

シンガポールでは、交通渋滞を緩和するために、ERP(Electronic Road Pricing)と呼ばれる課金システムを導入しました。
各自動車は、道路上にあるERPゲート通過時に近距離無線通信で、課金が行われます。
各車両が時速20-30kmで都市内の主要道路を走行できるよう、走行量に応じて通行料がリアルタイムで変動するシステムを用いています。

図2が示すように、ERPゲートは、都市部に集中する一方で、エリアベースと異なり、都市郊外の道路でも交通状況に応じて課金が行われます。

図2: (上図)シンガポールの道路ベースの課金制度のイメージ図、(下図)ERPの設置場所
出典: Rising Automobile Dependency: How to break the trend? Sustainable Urban Transport Technical Document 及びMinistry of Transport connecting Singapore

シンガポールでは、同施策に伴い、20-30%の都市内での自動車利用の減少と、12-20%の人々の公共交通や相乗りなどの交通手段の移行が確認されています。
一方で、個々の車両を感知し、課金を行うための個々の車両が搭載するシステムやゲート等の都市内の設備などにおける、高い導入コストが道路ベースの課題となっています。

ネットワークベース(Network-Based)

新しい種類の課金制度で、道路ベースの課金制度の導入コストの高さという課題を解決しました。

自動車での移動経路を、GPS等のテクノロジーを用いて追跡し、ルートと走行距離、走行時間に応じて課金されます。
多くの都市で、システムの都合上、GPS等で追跡可能なタクシーを用いて試験的に実施しており、テクノロジーの進歩に伴い、その応用範囲は拡大しています。
プライバシーの問題があり、全ての車両での導入は困難であることから、試験的にタクシー等の商業用車からの導入が始まっています。

例:サンパウロ

ブラジルのサンパウロ州では、配車サービスを提供する会社に対する課金制度を渋滞対策の一環として、2016年に導入しました。

背景として、2012年の配車サービスの規制緩和後の電子ツールを通じた配車タクシー会社の急増があります。
サンパウロ州では、公共交通機関の機能不全に伴い、市民は比較的安価なタクシーを頻繁に利用しています。
同状況下で、配車サービスの規制緩和を行い、タクシーの走行台数が急増したことで、州政府はタクシー会社の参入規制及びタクシーの非効率的な走行の規制を行う必要が生じました

その結果、電子ツールを用いた配車サービスを提供するタクシー会社に対する渋滞課金制度を導入しました。
タクシーの各車両は、市内の道路を1km走行する毎に課金の対象になり、サンパウロ州政府は、配車サービスを提供する各社に、各社の全車両の走行距離、乗客数及び市内の渋滞状況に応じて、通行料の請求を行います。

同州は、配車サービスを提供するタクシー会社に対し、データ分析の結果、ピーク時間帯に乗客が1人のみの場合、通常より高い通行料を設定しています。
同施策を通じて州政府はタクシー会社による相乗りでのタクシー利用の提供を促進しています。

サンパウロ州内では、タクシー利用額が時間帯毎に統一されており、利用客は通行料の増加分を負担しません。
同施策を通じ、利用者にタクシーの変動分の増加料金を課すことなく、タクシー会社に直接課金を行うことで、タクシーの走行距離及び台数の減少を促しています。
※施策の施行以前の2014年施行後で利用額の基本料金の変動はない。

図3が示すように、同州政府は、各社の正確な走行距離を把握するために、データ収集システムを構築し、配車サービスを提供する会社に、①ドライバーのデータ、②車両のデータ、③トリップデータ(OD情報、走行距離、走行時間を含む)の提供を義務付けました。
同施策に伴い、タクシー利用における相乗りでの利用の促進や、市政府によるタクシーの車両及びドライバーの安全性の確保等の好影響が確認されています。

図3: サンパウロ市の渋滞課金システムのイメージ図
E-Hail Regulation in Global Citiesを基に当社作成

課金方法のまとめ

以下の図4は各課金方法の概要をまとめています。

図4: 各課金方法の概要
Road Pricing to Decongest Mumbaiを基に当社作成

プライシングがもたらす利益

プライシングを実施した三都市の事例が示すように、渋滞課金制度が都市にもたらすメリットは主に以下の4点です。

  • 交通渋滞の緩和・走行速度の上昇

  • サステイナブルな交通手段への移行

  • 大気汚染の改善・健康被害の減少

  • サステイナブルな交通手段に移行する取り組みに用いる資金源の創出

図3: 渋滞課金制度がもたらす利益のイメージ図
Road Pricing to Decongest Mumbaiを基に当社作成

最後に

本記事では、渋滞課金制度の概要及び同施策の効果についてご紹介しました。
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