海外事例研究 | 通勤パターンから見る米国・ニューヨークにおける混雑課金制度の導入による影響予測
はじめに
GEOTRAインターン生の筒井です。
アメリカのニューヨーク州マンハッタンの渋滞緩和策として、中央ビジネス地区(CBD)に入る車の通行料を徴収する「混雑課金制度」の導入が、生活費の高騰などの理由から無期限中止されたことが話題となっています。
本記事では、米国ニューヨーク州で混雑課金制度が導入された場合の影響について、通勤者に着目し、人流データから分析した事例をご紹介します。
背景
混雑課金制度とは、交通量が多い時間帯や特定のエリアで課金を行うことで、渋滞を緩和したり、交通需要を管理したりする交通政策です。
1970年代にシンガポールが初めて実施して以降、世界中の複数の都市が、自家用車による移動需要を削減するために、渋滞課金制度を実施しながら、公共交通の利用しやすさを向上してきました。
上述の通り、ニューヨークでの混雑課金制度の導入は保留されていますが、依然として広く議論されているテーマです。
米国Replica社とFelt社(マップ提供)が共同で、通勤手段別移動動態データを可視化し、ニューヨークの混雑課金制度によって、誰が最も影響を受けやすいかを調査しました。
重要視した指標
混雑課金制度の調査にあたって、3つの重要な指標を設定しています。
1 CBDゾーン通勤者の数。
2 それぞれの国勢調査区における、CBDゾーン通勤者の割合。
3 CBDゾーン通勤者の内、移動手段が自家用車、公共交通である割合。(公共交通への投資増加により、誰が料金を負担する可能性があり、誰が利益を得る可能性があるのか)
これらの指標を念頭に調査が行われた結果、以下の3つの点が明らかとなりました。
調査から見える3つの要点
要点1:
5つの行政区内(マンハッタン、ブルックリン、クイーンズ、ブロンクス、スタテンアイランド)の労働人口に占めるCBDゾーン通勤者の割合は、郊外の郡部よりもはるかに高いという結果が得られました。
これは、CBDゾーン通勤者が、職場の近くに住んでいることを指します。一方で、周辺郡(バーゲン、ナッソー、ロックランド、ウェストチェスター)の殆どの地域の労働人口の内、CBDゾーン通勤者の割合は20%を大きく下回っています。
要点2:
CBDゾーン通勤者の内、80%以上が公共交通機関を利用しています。クイーンズ、ブルックリン、ブロンクスからCBDゾーンに通勤する際、自家用車ではなく公共交通を利用する人が10倍以上います。CBDゾーンへの通勤者数が最も多いキングス郡(ブルックリン)では、751の国勢調査区のうち、公共交通よりも自家用車で通勤する人が多い街区は、僅か4区(約0.05%)です。
但し、このパターンは、5つの行政区に限ったことではなく、都市化が未だ進んでいない地域にも当てはまります。ナッソー郡とバーゲン郡では、公共交通を利用する人が自家用車を利用する人よりも35%多いです。ウェストチェスター郡では80%、エセックス郡とハドソン郡では、それぞれ170%と376%多い結果が得られています。
要点3:
平均すると、CBDゾーンに自家用車で通勤する人は、公共交通を利用する人よりも裕福であることが明らかとなりました。公共交通を利用する人と比較すると、CBDゾーンに車で通勤する人の平均世帯収入は11%高く(189千ドル対171千ドル)、中央値収入は15%高く(136千ドル対114千ドル)なっています。
最後に
ここまでご覧いただきありがとうございました。
本記事では、通勤パターンから見るアメリカ・ニューヨークにおける混雑課金制度の導入による影響についてご紹介しました。
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