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ほんのしょうかい:千葉雅也『現代思想入門』〈『思想の科学研究会 年報 PUBLIKO』より〉

 「わさかりやすさ」ばかりが求められる時代。
「で、結論は?」「要するに?」「オチは?」・・・と、問われる中で、この本が解説しようとする「現代思想」はいかにも分が悪いように見える。実際、「わさかりやすさ」」の呪縛は、「説明のつきにくいもの」を目の前から隠蔽していく。そうして出来上がったクリーンな(に見える)現実の中で、私たちは必要以上に暴力的排除にいそしんでいるようだ。
-現代思想を学ぶと、複雑なことを単純化しないで考えられるようになります。単純化できない現実の難しさを、以前より高い解像度で捉えられるようになるでしょう。-
そうはいっても、現代思想、特にこの本で取り上げられているデリダ、ドゥルーズ、フーコーたち巨頭の思想は絶望的に難解である。30年以上前彼らの本を手にしたとき、何故にこれほどまでに難解なのか・・・①読者としての理解力が欠落してるのか②修辞的表現に振り回されているのか・・・を疑った。しかし忍耐をもって暗号解読に挑むように、読み進めるうちに、②のようにカッコつけた表現ではなく、意味ある必然が経糸と横糸のように織り込まれていること・・・それだけが理解できた。結局、さっぱりではあったが。
このように、現代思想は、素手で立ち向かうにはあまりに難解だ。外出するとき、玄関のドアノブが手の届かないほどに高いなら、踏み台を持ってくるか、誰かの介助が必要だ。その意味で、この本は「踏み台」であり、「介助」でありうる。わかってもらいたいという、著者の心遣いや、優しさが伝わってくる。もっと、早くにこの本に出合っていたら良かったと思う気持ちになった。
しかし、著者がことわっているように、この本はあくまでも入門を容易にするための入門書の性格が強い。「わさかりやすさ」の呪縛を解くには、私たちは自力で歩くことが、求められる。まだ、玄関から出ただけなのだ。
(橘 正博) 



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