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【画廊探訪 No.101】時を待つ空のペルソナ ――『XYLOLOGY―木学』<01 起源と起点>北彩子出展作品に寄せて――――

時を待つ空のペルソナ
――『XYLOLOGY―木学』<01 起源と起点>
               北彩子出展作品に寄せて――――
襾漫敏彦
 編み物をしている手を、ふと止める瞬間、待ちあわせで、約束の時間を待つ間、寝かしつけていた子供が、すっと寝いる時、透明になる心の様があるのだろう。

 北彩子氏は、木をベースとして、透明な樹脂を組みあわせて女性像を作る木彫の作家である。頭や手、そして足といった表情や行いの生まれる部分には、彩りを添えることができる木を使い、その奥にある体の部分は、樹脂で形をととのえる。共同体の中での己の主張と評価を表現する衣装をまとう胴体の部分を透明にした彼女の造形は、奇妙な空白の領域へと観るものを誘う。

 男達は、花を愛でるように女性に美を語り、移ろうその表情に、自分を探そうとする。彼女は、他愛もないその素振りに扇を翻しては、新しい笑みを浮かべる。
 けれども、人目に対して装った女性が、ふと、それを意識しない一瞬を見せることがある。それは、風向きが変わる時に風が止むその瞬間。無表情とは、よく使われる言いまわしであるが、それとは異なる“空”の表情が女性の表情にはある。
 アクリル樹脂は、透明ではあるが、透過はしない。その素材をとりこんだ北彩子氏の人物像には、表現されていないにもかかわらず彼女達を律している枠組みの匂いが芳香のように感じられる。アクリルは、形を受けいれないが、色や明暗を受けいれる。そのように彼女達も枠組みを受けいれているとは言い難いが拒絶しているわけではない。ここに、無のペルソナと空のペルソナの違いがある。次の風が吹くとき、彼女達は、また微笑む。


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彼女のはっきりしたサイトはないのですが、ネットでは、画像や映像はあがっています。

FUMA CONTEMPORARY TOKYOの北さんの紹介ページです。


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