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【画廊探訪 No.131】カリタス――ディストピアの中で咲くガーベラ  ――「tagboat Art Fair 2022」月乃カエル作品に寄せて――

カリタス――ディストピアの中で咲くガーベラ

――「tagboat Art Fair 2022」月乃カエル出品作品に寄せて――

襾漫敏彦
 近年の世相においては、“月乃”といえばうさぎであるが、鳥獣戯画には、うさぎとさるとかえるが描かれている。前へと跳ねる“うさぎ”でなく、智恵に聡く難所をかわす“さる”でもなく、自分の「記号」として“カエル”を選んだ。それは偶然かもしれないが、現代社会に於いてアートの道へと転身した決意のあらわれのようにも思える。
 月乃カエルは、立体を利用した平面描写の画家である。彼はプリントアウトした背景をベースにしながら、その上にアクリル板や樹脂を重ねて立体的なキャンバスを作る。幾重にも積まれた階層の隙間に色彩や図像、ミラーや金属片を挿し込んでいく。通俗的な画像を象徴の大地としながら、月乃は日常に通じる単調な図像を文様のように加えることで、まるで、おおいを外した高層ビルを上から俯瞰したような構造をつくりあげる。けれども、それは合理的な摩天楼にみせかけたものというより、古い建物を継ぎ足しながら広がっていくウエストサイドやブルックリンの裏通りに近いようにも思う。

 月乃は実業の世界の一つのパーツとして、前へ進んだり難を凌いで処世の中で生きてきた。世界のフレームが溶けはじめ個人が投げだされ始めた頃、彼はアートの世界を目指した。
 世界を見るとき、それは見えるものと見えないものが混ざりながら現れる。そして社会がひとを観るとき、見えるものと見えないものが生じる。私から外へ、外から私への視線が交差する場所には、様々なシンボルが存在する。美の、科学の、そして欲望のシンボル。志向性は双方向に動きながら乱反射して錯走する。実務の世界で生きたカエルの前の月乃、そのスクランブル交差点のような世界の中で、ある時、個別の視線の意味に気がついたのかもしれない。
 良く生きることを選んだとき希望や愛、感謝を示すガーベラが絵画の中にあらわれるのは、決して偶然ではない。

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月乃さんは、インスタグラムやフェイスブック、twitterにも、参加してます。
インスタグラムのマークを貼っておきます。

tagboatでの紹介も載せておきます。

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