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【画廊探訪 No.069】壁に塗り込んだ影 ―――山本あき展に寄せて―――

壁に塗り込んだ影 ―――山本あき展に寄せて―――
襾漫敏彦

迷い込んでしまったである。その日、知り合いの個展を見に来たのであった。受付の令嬢が
「下の階にも展示ありますので」
と、降りていったのである。
 そこは、キャラメルの包み紙に描かれているようなイメージに溢れる空間であった。四十代の太ったオッサンにとっては、フルーツパーラーで、チョコレートパフェを一人で食べているような、なんとも気後れする場所であった。
「構いませんよ」という言葉に甘えて、故郷への航海の途上の一時を過ごす事にした。

 大気のしめりけのように色彩を、淡く、グラディエーションの乏しい面として、切り出してくっきりと配置している。居場所を決められた具材は、そこでの役割に静かに佇みながら、連なり、姿を結んでいく。その整頓された静けさが、メルヘンチックとでも言うべき、彼女のテーマを支えているのであろうか。
 この個展での画材は、アクリルとオイル・パステル、クレヨンである。アクリルのシルクのような透明感と、クレヨンの粘土のような質感の違いを味わいながら、作家の選択の意味を考えていた。誠に、勝手な妄想であるが。
 空間の一面をおおうほどのクレヨンで塗り込まれた一枚は、壁そのものの絵のようであり、圧巻である。イメージの存在である色が、物体として素材となり、壁の要素と化す。西洋の建築物の天井画の如くでもある。で、伝わってくる触感は、土。漆喰で塗りあげられた土壁の絵の如くである。そして、光を通さぬオイル・パステルの柱の間には、アクリルの絵が架けられている。柱と壁のひびの間からもれた光が作ったのか、その壁の中には影が忍び込んであった。それはクレヨンの壁の隙間から差し込んだ光が、淡いアクリルの霧の中に立ち上らせたもう一つの彼女の姿かもしれない。

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サイトが見当たらなかったので、2021年度の新生堂での個展紹介のページを添付しておきます。



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