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【画廊探訪 No.173】万象を呑み込む魔法の鏡の中に迷い込んで――河野志保作品に寄せて―――

万象を呑み込む魔法の鏡の中に迷い込んで
――Gallery Face to Face企画 山内康嗣・河野志保展「景色の手ざわり」河野志保出品作品に寄せて―――

襾漫敏彦

 僕は神社の傍にある鎮守の森で、迷いそうになったことがある。気がつくと自分の場所を見失ってしまい、友達に声をかけてもらってようやく元の場所に戻れた。森は、多くの生命の根源であると共に、人から光を奪い、迷いの森になることもある。


 河野志保氏は、デジタル技術を活用するコラージュ作家である。夜景、建築、調度、街燈やシャンデリア等、拾いあげては取り込んだ画像を組みあわせて、板やカンバス、支持体に貼りあわせていく。その上から、様々なメディウムや色彩を加えては、削り落とし、又、手を加えていく。無数の要素(アトリビュート)が、脈絡もなく混然一体となって浮きあがる姿は、異国の港の霧の夜景、繁華街の湿った裏通り、もしくは、照明が、埃をかぶって暗いサパークラブのようでもある。



 世界は謎に満ちている。装飾の煌きにとり囲まれながら、自分は暗がりの中にいる。輝きは謎と迷いの海に潜む矛盾のスパーク。そして、私を迷宮へと誘うイミテーション。迷いの森の中で、ヘンゼルとグレーテルは、困難に打ち克ち隠された宝を見つける。チルチルとミチルは、幸福を導く青い鳥が、自分の所にいることを知る。大切な人と手をたずさえて、彼等は輝ける答を見つけた。


 だが、鏡の国の迷いの森で、アリスは、時計の音を聞きそこねては、逃げ水のような導き手を追い続けては、ひとりさまよう。
 アリスは何のために迷うのか、答のために、結論のために、誰かのためなのか。疑いを、困難を、不安を踏み切り板として迷い続けるために迷う。過去にも今にも望む姿はないから、明日のため、私を探して迷いに迷う。

 河野は、鏡の国で出会ったものを四角い部屋に貼り続ける。それは、死骸や毒茸が、形を残しながら浮き沈みする魔女の大鍋。何ものも呑みこんでいくそこにあらわれるのは、世界そのものかもしれないし、私そのものかもしれない。そして、未来を変える魔法かもしれない。


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河野さんのインスタです。

ネットで調べてみるといろいろな画像もでてきます。

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